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革命のレヴォルディオン  作者: 成葉弐なる
第二章

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第30革 静かな幕開け


 月曜日。早めに目が覚めてしまった俺は、かなり早く学園に到着。

 肌が裂けるような寒風の中、まだ生徒が疎らな校門ゲートを通過した。


 しっかし、いつまで経ってもこの気温差には慣れない。


「昨日の昼過ぎはあんなに暑かっ……」


 そこまで小声で口に出したところで、暑さと共に昨日の寮での光景を――マリエさんの着物姿を思い浮かべてしまって唇が止まってしまった。


 顔が紅潮する感覚を覚えたその時、突如バッグの中に入れておいたガジェットが振動。重要な通知が届いた場合に設定してあるパターンで揺れ動いた。


「――なんだ? この朝っぱらから」


 文句を言いつつも緩慢な動作で眼鏡型ガジェットをかけると、急いだ様子のAIちゃんがすぐに視界に飛び込んできた。


「総一さん!!」

「うぉ! な、なに、どうしたんだよAIちゃん」


 昨日からずっと問いかけに答えてくれなかったAIちゃんが急いだ様子で眼前に迫る。


「招集命令です!」


 AIちゃんが通知アイコンを放り投げて寄越す。

 それを受け取って、通知内容を表示。


「……予定変更か。革命科実習棟訓練場に急ぎ集合せよ……ね」

「急ぎましょう、総一さん!」


 AIちゃんに急かされ、先ほどくぐったばかりの校門ゲートを逆戻り。停留所でオーカーを捕まえるとすぐに革命科棟へとルートを指定した。



   ∬



 どうやら生徒では一番に着いたらしい。

 しばらく手持ち無沙汰でキョロキョロしていると、ツナギを着たスタッフがなにやら持ってきて小さなステージを組み上げた。

 壇の背後には模擬戦の時にAIちゃんが使っていた大型ディスプレイが位置している。


 最初はツナギや白衣を着たスタッフばかりだったが、直に革命科生徒、そして講師達が次々と訓練場に押し寄せてきた。

 のぶねぇと八枷も一緒にやってくる。


「……やっほ総一、おはよ」

「……おはようございます総一さん」


 二人ともやけに疲れた様子だった。のぶねぇの目の下には薄らとくまが生じている。


「なんかお疲れみたいだね」

「……はぁ? 徹夜だったんだから当たり前でしょ」

「え? 二人とも昨日帰らなかったの?」


 俺の問いに二人は「そ……」、「はい……」と小さく答えた。


 たしかに昨夜、帰ってすぐ夕飯を食った時は俺と祖父母の3人だけだった。

 その後にも二人は帰って来なかったらしい。


 きのう天閃学園寮から戻った後も、俺は気持ちの整理が付かなかった。よく分からない焦燥感に駆られていてうんざりしていたので、さっさと寝床に入って微睡んでしまったのだ。

 今朝も同様で、朝食も一人で食べて足早に家を出た。

 忙しそうにしていた婆ちゃんとも余り話さなかったから、二人が帰らなかった事を知る機会が無かったのだ。


「そうだったのか、お疲れ様。で、この呼び出しって?」

「ん――前に言ったでしょ、“作戦に携わる生徒には追って連絡がある”って」


 のぶねぇが腕を頭の上で組み、ストレッチしながら気怠げに言った。


「そっか」


 素っ気なく短い返事をした。しかし、


「……総一さんのそんな顔、初めてみたかもしれません」


 八枷が俺の顔を見つめて漏らす。


 極めて冷静を装っていたつもりだったのだが、俺はいまどんな顔をしているのだろう。


「ん――総一はたまーにこうなるのよ。レヴォルディオンを初めて見た時もなってたけど、そっか――ハカセちゃんはあの時まだ講義室に来てなかったっけ……んしょっと」


 のぶねぇまであっけらかんとそう言って、ストレッチする腕を変えた。


「そうでしたか……もっと早くに見たかったですね」


 八枷がぽつりと言って、のぶねぇが「んしっ!」とストレッチを終える。


「んじゃ、行ってくる」


 のぶねぇは講師達が集まっている壇の横へと向かっていった。


「ハカセは行かなくて良いのか?」

「そちらの仕事は粗方片付きましたし、残りはお願いしてきたので」


 そう言って、八枷が周囲を見回し始めたので、俺もそれに習う。


 辺りを一巡。

 どうやら革命科の生徒全員が呼び出されているわけではないらしい。


 集まった生徒達の服装はばらばらで、俺と同じく制服の奴もいればジャージの奴もいる。家や寮で招集を聞き、訓練場だからと着替えてから来た者もいるのだろう。いつもは訓練場に無いステージを前にして、みんな殺伐とした表情で待っている。


 彼らの表情を見れば、男も女もギラギラと殺気を発しているとすら思えるようなテンションを漲らせていて、「あぁ、俺もこんな顔してんのかな……」と、勝手にさっきの八枷の言に納得してしまった。


 お、アインとエルフィさんもいる。

 のぶねぇとハカセが先に俺と話していたので遠慮したのかな。

 少し離れた場所でこちらの様子を窺っていたようだ。


「――来たみたいです」


 アイン達に声をかけようかと思った時、八枷が俺の袖を引いた。


 八枷が見ている方向へ視線を向けると、訓練場入り口から秘書子さんを伴って遠野総長が入ってきたところだった。総長の隣に家康爺ちゃんの姿があって、少しだけ目を見張る。

 爺ちゃんは自衛軍時代の制服を着込んでいた。


 あぁそっか、戦略顧問だっけ? 受けたんだったよな爺ちゃん。

 なるほど……いつもより早い時間だったのに俺の朝食が用意されてたのは、爺ちゃんが俺より先に食べてたからなわけか。


 総長は一緒に来たアンダーリム秘書子さんとなにやら言葉を交わすと講師たちの元へ。そしてのぶねぇとも言葉を交わし、ゆっくりと壇上へと上がっていく。


「――諸君、ついにこの時が来たのだ」


 マイクは用意されていない。

 それでも、遠野総長の響きのあるバリトンは十分に訓練場を支配している。


「計画が早まったことは事前に伝えてある通りだが……いや、ここに集められた者達にはわたしからの長々とした説明など不要だろう……それは君達の目を見れば解ることだ!

 故に、わたしはこれだけ宣言しよう――」


 瞼をきつく閉じる遠野総長。

 そして、大きく眼を見開いて言い放った。


「我ら革命機構ヴァランシュナイルは、これより日本政府への革命を敢行する!!」


 総長による計画開始の号令の後、作戦執行責任者である信子、そして戦略アドバイザーとした紹介された家康爺ちゃんから具体的作戦内容を聞かされ、それぞれのペアが与えられた任務の準備へと散っていく。任務に向かうアイン達とも別れの挨拶を済ませた。


 俺と八枷に与えられたミッションは、事前のシミュレーター訓練と同じだ。


 すなわち――内閣総理大臣、鳥山(とりやま)佳人(よしひと)の暗殺。


 2051年4月17日。月曜日。

 俺たちの革命は密かに動き出した。

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