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革命のレヴォルディオン  作者: 成葉弐なる
第二章

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Intermezzo19.5 協力者たち

 船上の一室。艦橋の後方すぐに設けられたその部屋の端末で、遠野恭一郎は海上の事態を見守り、そして演習陣地へと指示を飛ばしていた。


「計画を早める必要性があるのでは?」


 遠野の向かい側にいる男の発した言葉に、遠野は即座に答えようと彼の顔を見る。


 始めに目に映るのは大仰な帽子。

 知的、というよりは冷ややかな印象を相手に与えるスクエア型の眼鏡。

 その眼鏡の下には非常に整った顔立ちが覗く。

 想定外の事態を目の前にしているというのに、彼の整った顔は爽やかな笑顔のままだった。


「そうなるでしょう。

 ですがその前に、この事態に関して説明を求めたい。当該海域は貴方がたの制圧圏内にある――それこそが我々の共通認識だったはずだ。それがこうもあっさりと覆された事に関して説明があってもよいのではないかな、智菱(ともびし)さん」


 遠野が眉を顰めて男に問う。

 最後には語調を強めて彼の名を呼び、遠野恭一郎は明確に不快感を示してさえいた。

 しかしながら、男――智菱の表情は一時も崩れずに微笑を維持している。


 一筋縄では行かない男だ。遠野は胸中で、以前から智菱に対して抱いていた感情が間違っていないものだったと確認する。


 智菱はかぶっていた大仰な帽子を静かに取ると、両手でスクエアタイプの眼鏡の両端を押さえて眼鏡の位置を調整する。そうしてから遠野恭一郎に向き直って笑みを深めた。


「それなら先程も申し上げた通り、こちらとしても完全に想定外だったのです。

 我々は露側との協議においても、そして自衛軍との緩衝においても、この海域が完全に我々の制圧圏内にあるものだと認識していたのです。

 まさか某国が露側の要求を突っぱねてまで暴走してこようなどとは夢にも思っていない。

 本当に異例が起こったとしかご説明できません」


 遠野は彼の表情をじっと見つめるが、智菱の客を前にした商人のような笑顔が崩れることはない。


 本当に全くのイレギュラーだったのかもしれない。遠野はそう思った。

 彼との付き合いは長い。

 確かに一筋縄では行かない男であるが、彼がこと交渉事において嘘を吐いた記憶は遠野にはなかった。


「いいでしょう。遅れを取り戻す為にも協力して頂きますよ」

「それはもちろん……ですが、この事態を招いたであろう石工(いしく)のご子息は……?」

「せいぜい機体への搭乗を禁じ、暫くの謹慎。機構としての処罰はその程度に留まるでしょう」

「それはまた甘い」

「出資者の意向もある。だがそれ以上に、彼らは欠かすことの出来ない戦力ですので」

「なるほど、あれを動かす人材は余程不足しているというところですか……」


 智菱が呆れ混じりの苦笑いを浮かべながら、帽子をかぶり直す。


 人材が不足しているのは確かだ。だが資金的に不足があるわけではなかった。

 智菱も恐らく革命機構の財政状況は把握していることだろう、だからこそ彼も人材の方に言及したのだ。


 資金的には、切ろうと思えばいますぐに出資者からの支援を断ることは可能である。

 現在の特区は完全に自らの調達資金のみで運営が可能な状態になっていたし、革命機構に関しても十分な予算が確保されている。


 遠野が心配しているのは資金ではない。

 もし革命機構がいま出資者との関係を断てば、当然のように出資者たちは次へと切り替える。

 遠野にとってはそれが何よりも厄介だった。

 だからこそ、自分たちが彼らの計画にとってのメインでいられる限り、出資者との関係はできるだけ維持しようと遠野は考えていた。


 それにしてもこんな暴走が重なるとは。

 石動新志(いするぎあらし)に某国の潜水艦。

 革命とは儘ならぬものだと、遠野は心中穏やかにはいられなかった。


 しかし遠野はすぐに軽く頭を振って冷静さを取り戻すと、智菱へと声をかける。


「彼への連絡を頼みます。それから最新の標的の動向も」

「かしこまりました」


 智菱は華麗に帽子を押さえつつ、遠野恭一郎に頭を垂れた。

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