明晰夢と世界五分前仮説
「君は、僕なんだよ」
そう言って笑った顔はもう自分の顔にしか見えなくて、酷く気持ち悪かった。
「どういう、意味ですか?」
「そのまんまだよ、君が成長すれば今の僕の姿になるよ」
理解が追いつかない。
「なあ、輝久。」
スッと真顔になり、僕をまっすぐと見る彼。
何を言い出すのだろう、怖い、怖い。聞かない方がいい。
僕の中で警告の鐘が鳴る。
「明晰夢って知っているか?」
「いいえ」
「じゃあ、世界五分前仮説は?」
「いいえ」
「ふむ……」
暫し彼は考え込む。
「明晰夢というのは、夢の中で夢だと気付くこと、自由自在に遊ぶことだよ。輝久はあるかい?」
「いいえ、夢は見ません。」
「一度も?」
「はい、誰も夢を見たことはないと言います。夢を見るのはお伽噺だと聞いています。」
「なるほど……」
「世界五分前仮説というのは、この世界は実は五分前に始まったのかもしれない、という仮説さ」
「五分前?そんなことあるわけない、僕たちには記憶がある」
「そう、記憶がある。でも実はそれが五分前にそのままの形、記憶で全ての非実在の過去を世界のみーんなが『覚えていた』状態で出現したものかもしれないよ」
「そんなことあるわけないじゃないか」
「言い切れる?」
「当たり前じゃないか!」
彼は突然何を言い出すんだ。
夢の中で遊ぶ?世界は五分前に始まった?
やっぱり彼の頭はおかしいんだ!!皆騙されている!