一時の有名人
「おい!昨日ヒーローにあったんだって!?」
学校に登校するなりA君が駆け寄ってくる。
「えっ!何で知ってるの?」
あの事は誰にも言ってないはずだ。親にも、友達にも、いつも書いている日記帳にだってかかなかった。
無かったことにするはずなのに。
「なんでってお前。そんなの当たり前じゃないか。掲示板に貼ってあるぜ」
「……そうだった」
彼と接触したものは、全て「ヒーロー掲示板」に写真付きで貼りだされる。
誰が何のためにしているのか分からないし、誰も疑問に思わない。
それがこの世界の普通なんだ。
写真に写されている僕とヒーローの顔は確かに同じなのに、誰もそれには触れない。
というのも、ヒーローの顔にはなぜか毎回靄がかかっているからだ。
どの写真も、必ず。
携帯で撮ってもカメラで撮っても現像すると必ず顔がぼやけている。
だからこそ、昨日初めて間近で見た時は驚いた。
ヒーローとの写真を撮られた人は暫く有名人になる。
道行く人間に声をかけられたり、テレビの取材が来たり。
この世界はヒーロー中心に動いているかのように、皆動く。
僕にも多くの人が詰め寄った。
両親は満足げに頷いているだけで拒むことをしない。
多くの人が僕を取り囲むよりも、なによりも、それが一番つらかった。
早く次の人間に興味がうつってほしい、ただただそれを望んで僕は部屋から出なかった。
三日たち、一週間、二週間……彼は現れなかった。
相変わらず家の外には人がいるし、僕は部屋から出なかった。
今までの人は何を話したか、彼がどんな様子だったか、全てを語っていた。
黙秘に徹している僕に、余計興味が湧いたのだろう。
そんなある日、彼が現れた。
僕の部屋に。
僕は目覚めが悪い。
何をされても睡眠中はなかなか起きられずにいつも親に怒られる。
そんな僕が彼に起こされるとパッと目を覚ました。
「え……?」
僕を起こす為に両親はいろいろなことを試したらしい。
擽ってみたり、耳元で大声を出したり、持ち上げたり。それでも僕は起きなかった。
そんな中、ついに見つけた起こす方法が右の耳たぶを少し強く引っ張ることだ。
これをされると僕は何故だか一発で目を覚ます。
そして、僕が目覚めた時、彼は僕の右の耳たぶを持っていた。
何で知っているんだろう。
今日はお通夜の為、両親がいない日。
怪獣のせいで、一度にたくさんの死人が出るとお葬式を上げるのも少し待たなければいけない。
多すぎて、なかなか順番が回ってこないからだ。
「やあ、起きたね。おはよう」
そうやって手を離しながら彼は言う。
「え……」
僕はまだ間抜けな声しか出せない。
「君に会いに来たんだよ。輝久」
にこやかに笑う。
その笑顔はやっぱり僕に似ていて吐き気がした。