三段目の秘密
少し暴力的な表現があります。
苦手な方はご注意ください。
ベッドの横に置かれている木製バットを手に取る。
「どうした?」
彼は不思議そうに僕を見つめている。
「これ、僕のお気に入りのバットなんだ。野球が好きでさ」
「君は野球が好きなの?俺はサッカーの方が好きだけどなあ、同じ輝久でも違うもんなんだな。そう言えば初めて会った時もバットを持っていたね」
そう、同じ輝久でも違うんだよ。
考えが同じなら……もしかしたら行動を読まれるかと思ったけどそうでもないみたいだ。
「その、後ろのタンスの三段目の引き出しに一番の宝物が入ってるんだ。見てみてよ。
是非見てほしいんだ」
彼の真後ろに置いてあるタンス。
「そうなんだ?俺もそろそろ起きるかもしれないけど……」
「じゃあ、起きるまでいてくれてもいいじゃない、折角会えたんだからさ」
さっきに比べて饒舌になっている自分が分かる。
「まあ、いいか。」
くるりと僕に背を向けてタンスへ向かう。
僕も彼のあとに続く。残り数歩のところで足を止める。
「あった?」
「ん?これかな?」
「ん?どれ?」
そう言うと彼は物を持って振り向こうとした――瞬間、フルスイングで彼の頭を殴る。
三段目のタンスを開けるには屈まなければいけない。
屈んで振り向いた頭の位置は、僕がいつも練習をしている素振りの軌道と全く一緒だった。
別に屈むなら三段でも四段目でもよかったんだけど。
ゴンッ――
鈍い音がして辺り、彼が勢いでそのまま倒れこむ。
そのまま倒れ込んだ彼の頭に無我夢中でバットを振る。
振り下ろされるたびに彼の体はビクンッと跳ねて、声にならない声を出す。
次第にそれも無くなり……彼は動かない置きものとなった。
「……三段目の引き出しにはね、従兄弟とお揃いで買ったグローブが入っているんだよ」