第二十七話「ごり押し」
間違いない、羅刹の声だ。
いきなりの呼びかけ……何だか不吉な予感がした。
私は鵺さんを見る。
鵺さんは前と同じで怖い微笑みを浮かべていた。
「いくわよ、赤錆。今回はちゃんとあなたも呼ばれているんだからね」
「は、はい」
そう呟くと鵺さんは走り始めた。
私も鵺さんの後を追いかける。
羅刹の場所は何となくだけど分かった。
近くの川沿いで、大勢と戦っている――そんな感じがする。
感じがするというより、確信に近いのだけど、何でそんな確信があるのか自分でも良く分からない。
きっと真打ちには超感覚が備わるとか、そんな感じなんだろう。
私の勝手な思いこみじゃなくて、鵺さんが向かっている方向は私が思っている方向と同じだから、この感覚は間違いないとは思う。
思うんだけど……。
「ぜぇ、ぜぇ」
鵺さんはやっぱり早すぎる。
ちょっと追いつけそうにない……。
と思ったら鵺さんが方向転換して私の方を見た。
そして舌打ちしてから私の方へ戻って来る。
「ど、どうしたんで――」
最後まで言う前に、私は鵺さんに脇腹を抱きかかえられ、持ち上げられていた。
「ぬ、鵺さん? 何を?」
私は鵺さんの脇に挟まりながら鵺さんに聞く。
「遅すぎる!!」
鵺さんは叫ぶと、そのまま走りだした。
「あ……ありがとうございます」
「あんたの為じゃなく、お兄様の為よ。少しは運動しろ」
「すみません……」
最近、同じ事を誰かに言われた気がする。
私は揺られて運搬されながら、運動しないとなぁと思った。
「ふん、また結界ね」
鵺さんが走りながら呟く。
その言葉に私は川への道路に目を凝らしてみた。
何だか薄い膜のような壁が揺らぎながら立ちふさがっている。
例えるなら茶色のシャボン玉を光に透かしてみると見えるモヤモヤみたいな……。
「突っ切るわよ!」
「あ、はい!」
私は体をギュッと硬くする。
前は通り抜ける時に体を電気みたいなのが通って、かなり痛かった。
それを鵺さんは分かっているはずなのに、まったく物怖じせず壁に突っ込んだ。
――バチバチ!!
「あいったあたたたた!!」「ひぎいいいい!!」
アニメとかで放電した時に良く聞く音が聞こえた。
鵺さんは堪らず地面に転がる。
私も全身を走った痛みで地面を転がった。
痛くて勝手に涙が出る。
この前、通ったのとは全然、分厚さ(?)が違う。
私は直接触っていなかったからまだマシだったけど、鵺さんは体から微かに煙を上げている。
「いったああああ! ふざっけんな! こんな強力な結界張りやがって!!」
鵺さんは怒ると右手から剣を出現させる。
そして鵺さんは剣を結界に振り下ろした。
結界が切り裂かれ、鵺さんは結界に出来た斬り口から、結界内へと飛び込む。
斬り開かれた結界はすぐに、元の形へと戻った。
「えっ、残された私はどうすれば?」
「赤錆、あんたも剣を出しなさい! さっきの私みたいに剣で結界を斬り裂くの!」
「は、え、はい」
私は周りに誰もいないのを確認すると、右手に念を込める。
そして右手から伸び出る剣。
「長さ調節するのよ! 適当な所で止めなさい! 出来るでしょ!?」
「えっ、あっ、止まりません!」
私の剣は勝手に伸びていき、結界に突き刺さった。
「ふぎゃーーーーー!!!!」
剣を伝わって、結界の衝撃が私を襲う。
もの凄く痛い!
「なにやってんの!? 馬鹿か!」
「う、ぎぎぎぎぎー!!」
私は悲鳴を上げながら両手で、まだ伸び出る途中の剣を持ち、結界に突っ込んだ。
完全に伸び出てしまうと持てない重さになるから、その前に何とかするしかない。
ごりごりごり。
何だか結界からものすごい音がするが、強引にねじ込む。
私は巨大な剣を結界にねじ込むようにして、隙間をこじ開け、無理やり結界内へと侵入した。
「うっわ……超ゴリ押し。そんな結界の破り方とか有り得ないし」
「重いー、戻れ戻れ」
私は完全に伸びきって地面に横たわる剣を右手に戻す。
かなり無茶したせいか、結界の穴は開きっぱなしになっていた。
私の剣が通った所だけ壁が無い。
「結界に穴が開いちゃいましたね。直らないけど、いいのかな」
「ん、まあ……そうね」
鵺さんは結界に出来た穴を難しい顔で見ながら、何か考えていた。
「ま、いいわ。そのうち戻るでしょ。とにかく行くわよ、赤錆」
「はい!!」
私は両手を挙げる。
「いい加減、自分で走れ」
「はい……」
私は両手を下げると走り始めた。




