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羅刹 -夕闇を歩く少女-  作者: 猫村慎之介
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第十話「真打ちとは」


 私が危険な状況? 

 確かに今この殺人犯に取り囲まれてる状況は、すごく危険かなとは思うけど。


「我らの一族で反乱を起こした者がいる。相手も先日まで表立って動いてはいなかったのだが」

「お兄様、そんな重要な話をして良いのですか? 赤錆は一族の人間ではないのですよ」

 鵺さんが羅刹の話に割り込んでくる。

 だが羅刹は右手で鵺さんを制した。


「赤錆は、私の真打ちだ。聞く義務がある」

「ッ――わ、分かりました」

 鵺さんは私を一瞬、ギリッと睨むと羅刹に視線を戻した。

 羅刹は明らかに不機嫌な鵺さんに気付いているのか、いないのか話を再開する。


「相手は我々に対する為に人刀を欲している。それも強力な人刀だ」

「それが私だっていうんですか?」

「いや、お前は屑だ。まったく大した事は無い」


 話の流れからして私が凄いんだと思ったのに。

 確かに強力な殺戮兵器だと言われても嬉しくないけど、ここまで酷く言わなくても……。


「だが屑ではあるが真打ちだ。相手にとっては喉から手が出るほど欲しいだろう」

「……真打ち?」

 私はついに我慢できなくなって聞いてしまう。

 さっきから、ちらほら出ていた言葉だ。

 気にはなっていたけど聞きたくなかった、というか聞いてやるもんかっていう、ささやかな抵抗をしていたんだけど。


「鵺が持っている刀が普通の人刀だ。人体の一部分に核となる宝石を埋め込み、それを素材として人刀としている」

「鉄クズでできた刀と違って、色々な力が刀に宿るの。埋め込む宝石と素体になる人間しだいで能力は変わってくるけどね」

 二人はさらっと酷い事を言う。

 

 宝石を……人体の一部に埋め込んで作る。


 どんな作り方なのか良くは分からないけど、あの刀は『人体の一部分』を使って作っているのだ。

 鵺さんの持っている日本刀が、さらに禍々しく見えてきた。


「そして真打ちは人、一人を生きたまま、丸ごと人刀にする。だがその分、リスクも大きい。熟練技術者でも成功率は1%がいい所だ。失敗すれば素体である人間は死ぬ」

「い、いっぱーせんと……」

 私は、どうやら恐ろしい確率で生き延びたらしい。


「でもお兄様は天才だから成功率もあり得ない高さなのよ。良かったわねぇ、施術者がお兄様で。他の人だったら、きっと死んでたのに。本当に良かったわねぇ」

 鵺さんは皮肉たっぷりに言う。

 心の底から、この人は私に死んで欲しいらしい。


「らせ……当主様はどれくらいの成功率なのですか」

「私でも20%程度だ」


 五人に四人は死んでる。


 私は倒れそうになったが、何とか踏みとどまった。


「その低い成功率ゆえに、真打ちは滅多な事では作られん。だが完成すれば唯の人刀とは比べ物にならない程、強力な殺戮兵器と化すのだ。しかも意思を持ったままな」

 私は無言で羅刹の話を聞く。


「反乱を起こした奴らは真打ちを揃え、力を増そうとしている。我々はそれを止めねばならん」

「何となく状況は分かりました。相手が真打ちを狙っている、だから真打ちである私は危険だ、って事ですね」

「その通りだ」


 私は羅刹の一族に反乱を起こした人間から狙われている。

 鵺さんの監視――それは私が誰かに襲われないかという意味での監視だったのだ。


「でも私を捕まえたとしても意味はないんじゃないですか?」

 私は不意に浮かんだ疑問をぶつけてみた。


 ただの機械なら使い方さえ知っていれば、誰だって使えるようになる。

 でも私には意思がある。

 例えば『人を殺せ』なんて命令には絶対に従わないだろう。

 そんなモノが優秀な兵器になるなんて思えない。


 でも私の質問を聞いた羅刹は不思議そうな顔をして、私を見ていた。

 もしかして質問の意味が伝わらなかったのだろうか?


「――ああ。そうか、成程」

 しばらくしてから羅刹は頷く。

「質問の意味が分からなかった。答えとしては捕まえさえすれば、どうとでもなるという事だ」

「どうとでもなるって?」


「人間というのは訓練しておかねば存外、脆い。拷問や薬、その程度の手段でもお前程度なら簡単に屈服させられるだろう」

 羅刹の言葉で私の背筋に冷たいものが走った。


「さらに真打ちは核となる宝石さえ破壊されなければ無限の再生力を持つ。つまり普通の人間なら死ぬような無茶でも、まったく問題無いという訳だ。だから生きたまま脳を抉られようと、手足をもぎ取られようと」

「わ、分かりました! どういう風に危険なのかは分かりました」

 それ以上、聞きたくなくなって私は羅刹の言葉を遮る。

 ここまで話して、なぜ羅刹に質問がうまく伝わらなかったのか理解できた。


 彼らに取っては、それが当然過ぎたのだ。


 捕まえさえすれば、どうにでもなる。

 白いものでも黒に染めてしまえば、黒になる。

 その事が当然すぎて私の疑問が理解できなかった。


 やっぱり私は彼らと世界が違いすぎる。

 平然と口から出る言葉が、普段の生活だと絶対に使わないような言葉ばかりだった。


 でも幾ら世界が違うといっても聞いておかないといけない事もある。

 私は軽く一息を入れてから質問してみた。


「それで、私にどうしろって言うんですか」

「一族の反乱が収まるまで鵺の監視下に入れ」

「え!?」

 私より先に鵺さんが声を上げた。


「どうした。嫌なのか」

「い、嫌では……ありません。やらせて頂きます」

 羅刹に言いつめられると鵺さんは大人しく頷く。

 そして、また私を睨んできた。

 これだけ睨まれると何だか慣れてくる。


「し、しかしお兄様は誰が守るのですか。真打ちを持っている相手もいるのでしょう!?」

 鵺さんは、なおも食い下がる。


「私は問題ない。普通の人刀が二本もあれば真打ちであっても恐れるに足らん」

「……」


「私を信用しろ。私の強さは知っているだろう」

「はい……分かりました」

 そう言って引き下がったものの、鵺さんがまた私を睨みつけてくる。

 視線を無視して私は羅刹に質問した。


「どれくらいの間、ですか?」

「首謀者を処断するまでだ」

 羅刹は短く答える。

 つまり、はっきりとはわからないみたいだった。


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