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座敷童子

「……誠に申し訳ないのですが、(わたくし)は下の身分でありますから、私の一存ではどうにも……。朱義(しゅぎ)様にご提案を伝えることはできますが」

「そうなの? なら仕方ないね。三日後ならちょうど暇だったんだけどなぁ」

 何か会話に入れそうにない感じなので、しばらく俺は黙っているしかない。

 そんな俺を紙の下からちらちらと横目で怯えるように見る甚平の男。そして遊来はさっき買った炭酸の缶の口づけ部分を指先で上からつかみ軽く振っている。なんか意味があるのだろうか?

「それと、今日は朱義様よりお手紙を預かっておりまして、こちらに――――」

 ――――ガン!

 男が懐に手を入れた刹那、男の腕が一閃した。

 それを缶で受け止めた遊来は、そのまま、缶をナイフの刺さったところから引きちぎり男を押し倒す。

「いっぱいかけられちゃったぁ、私ベトベトするの好きじゃないんだよね」

 鈍刀のように波のついた缶の切れ口が男の首元に当てられる。炭酸をかぶった遊来は恍惚とした表情のまま男に馬乗りになり、いつもとは違う微かな笑みを浮かべていた。

 あまりの状況に言葉が出ない。一歩たじろいだ足が後ろの自動販売機を蹴った。

「どこの刺客さんかな? 答えてくれれば楽に殺ってあげる。答えなければ……」遊来が男に顔を近づけ不気味に口角をあげる。「無残な状態にしてからの死刑、かな」

「口は割らない、おまえに話すことなどッ」

「口を割らないなら、割ってあげようか。物理的に」

 遊来の空いていた右手が男の顎を鷲掴みにする。

 その時、思い出したように遊来がちらりと俺の方を見た。

「すっかり忘れてたよ。そういえば今日は新入部員がいるんだった。ごめんね。今日は貴方で遊んでられないみたいだよ」

 不意に遊来は男が顔面につけた白紙をデコピンした。そしてゆっくりと立ち上がる。

「一応今のは脅しだからね。今後私には気をつけるように」

 そう言った遊来を睨みながら、男は自動販売機の作る影に沈むように消えた。

「ごめんね、変なところ見せちゃって」

 半ば放心状態の俺に向き直り笑顔を見せる。

「私有名人だからさ、よくあんな感じの低級影異(いえい)が挨拶がわりとして殺しに来るんだよ。今日は私と仲のいい鎮守の神様の小間使を真似て私に近づこうとしたみたいだね。まぁ、セールスマンに似てるかな。もっとも狙ってるのはお金じゃなくてゆらちゃんの命だけどね。でもよかった。思ったよりロリちゃんは私を怖がってないみたい」

 遊来の瞳に自動販売機のバックライトに沈みそうな俺が映る。そんな遊来の双眸を見つめると意外にも自分がさっきよりも冷静なことに気がついた。

「さて、帰りますか。もうすっかり夜も更けちゃったからね」

 わりと遠くにあるゴミ箱へ遊来が半分になった缶を投げ入れる。

「遊来、俺をこの部活に入れる意味、あるのか」

「意味とかじゃないんだよ。おもしろいと思うから勧誘してるの。それ以外の理由は特にないよ」

 なんというか返す言葉が見つからない。別に言い返そうとすれば何か言えるような気がするのに何となく遊来の笑顔に気圧されている自分がいる。

「ほら、帰ろうよ。私も眠くなってきちゃった。部室の三人も今頃眠くてうとうとしてるんじゃないかな」

 遊来に手を引かれるがまま夜の校舎の帰路を歩いた。


 部室の重い鉄扉を開けると一瞬目がくらむ。まばたきを何回も繰り返してやっとのことで照明の光に目を慣らすと、わらしが目の前で迎えてくれていた。

「大丈夫ですか、英一様! 何かされませんでしたか。遊来さんに穢されたりしませんでしたか、夜の校舎で犯されてなんかないですよね。英一様ぁぁあぁぁぁ~~~」

 もはや半泣きを超えてぼろぼろと涙を零しはじめるわらし。

「そんなことなかったから、いきなり変なこと言わないでくれ」

「では、何故先程から、遊来→ベトベト、という思想が浮かんでいるのですか!?」

「それは炭酸! 炭酸だ! 決して卑猥な意味じゃない」

「まさか……犯されたのではなく、犯したのですか! 不潔です!」

「そんなことはされてないよ。安心して、強姦じゃなくて和姦だから」

「だまれ! 遊来!」

 話をこじらせた遊来のせいで、わらしは今にでも倒れてしまいそうなくらい顔を真っ赤にしながら、もはや日本語が成り立っていない奇声を連発している。

 俺はため息をつきながら深緑のソファーに座り込んだ。

 するとさっきまでは顔すら見せなかった睡魔が俺のまぶたを閉じさせようとする。

「お疲れだな、大変だったのか」

「何かいろいろな疲れが俺を襲ってきてる気がする」

「今日は早く寝ろよ」滉二が薄笑いを浮かべ目の前の長方形のテーブルに置かれたマグカップを持ち上げる。「すでに早く寝れてないか」

「コーヒーをもらえるか、眠くてダメだ」

「あぁ……ごめん、彼女ので最後だ」

 滉二がそう言った時、いつの間にか滉二の横に座っていた彼女が、ちょうどコーヒーを飲み終わりマグカップをソーサーに置いた。

 読んで下さりありがとうございました。

 この小説を書き始めてもう二年弱経つので話のつながりが変な部分が出てきてしまっています。早めに直しておかなければ……。

 今回が今年初の投稿になります。どうか今年もよろしくお願いします。

 では(o・・o)/~

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