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夜直し部の深夜活動  作者: lazy rabbit
水無月
10/21

惑わせる時間

 悪戯に時は過ぎていった、というフレーズが、柄にもなく恋愛小説を読んでいたら綴られていたのを思い出した。たしかそれは、愛し合う二人のラブラブな場面。現在俺の置かれている状況を『悪戯』という言葉で表すには少々以上の無理があるだろう。時間を操ることが『悪戯』でないとするならば幼女に痴漢するくらい可愛いものだ。うん、可愛い者だ、幼女。とにかく、この状況になってしまった以上、猫を探すほかない。骨が折れる作業だ。

 わらしとは効率重視で二手に分かれた。もう捜索し始め数十分経つが猫は姿を現さない。おそらく、もう十二時近い。探し出さないと本当にまずいことになる。

 正直なところ俺はもう諦め始めている。既に人事は尽くした。永遠と続きそうな冷蔵庫の街並みをくぐり抜ければ、屹立する洗濯機の群れをすり抜け、羽根のない扇風機の内側まで血眼になって捜索した。あとはわらしに賭けるしかない。もしくは、天命を待つか。

 歩きながら辺りを見回す。

 ……邂逅の瞬間など、誰ひとりとして、わかったもんじゃない。俺は不思議でロマンチックなひと時を与えてくれたあの女性と、すれ違った。

 全速力で追いかけ半ば飛びつくように彼女の両肩にしがみついた。完全なる変態行為だがそんなことは言ってられない。彼女は振り払おうと体を左右に動かすが案外力は弱い。俺は肩ではなく胸辺りに手を回し直し、しっかりと逃げれないようにした。密着しているので仄かに香る女性の優しい香りが、俺を目眩く妄想の彼方へ誘惑する。今はこんなことを考へている場合じゃない。

 それに気を取られ、背後から飛来する影の存在に気づかず、振り下ろされる攻撃により意識が飛んだ。


 目覚めたとき、俺はマッサージチェアに寝ていることに気づき飛び起きた。「彼女は!」

「お目覚めになられましたか英一様、先程は随分と楽しいひと時を過ごされたようで」

「悪かった、本当にすまない」

 深々と下げる俺の頭に小さく温かい手がのせられる。

「大概にしてくださいよ、私以外の妖怪に欲情するなんて、まったく」

 わざとらしく眉間を揉みほぐす仕草をするわらしの腕の中には、三毛猫がぐっすりと寝ていた。

「その猫が妖怪?」

「この猫が今起きている現象の根源です。速やかに終熄させていただきましょう」

「そうだな、で、どうやるんだ」

 それから無言で時は流れ、長いと感じられるほどの数分。

「知りません……」

 案の定か、まあ、俺も知らないのだからわらしを責めるようなことはしない。さてどうしたものか、このままでは俺が彼女の香りを感じることができたぐらいの成果しかない。

 二人で考えること数十分、わらしが「あっ!」と声を上げた。

「妙案を思いつきました!」

「どんな案だ?」

「気を逸らせば良いのです。つまり、猫ですから顎の下辺りを撫で、気持ちよくさせてあげれば良いのです」

「確かに妙案かもしれないな、妙案であるなら実行あるのみだ」

 俺はわらしのか細い腕の中でまどろんでいる猫の顎の下辺りをくすぐってみる。気持ちよさそうに喉を鳴らし始めるが何も起こらない。入念にくすぐったが辺りには全く変化がない。

 わらしが悲しそうに呟いた。「変わりませんね」

「だな……」

「……分かりました! 英一様が人間だからです。本来人間にはあまり近づかない獣、私が撫でれば」

 撫で撫で…………撫で撫で………撫で撫で……撫で撫で…撫で撫で撫で撫で…………。

 わらしがしたところで、結果は変わらなかった。

「そう落ち込むなよ、まだ何か方法はあるって」

 俯き始めるわらしに声をかけたが聞こえてはいないようだ。

「では、次の作戦です。こうなればどんな手を尽くしてでも猫を気持ちよくさせます。たとえ四十八手を端から使うことになっても。猫には先程のような女体化を強いるかもしれませんが止むを得ません」

 わらしさん……何か変なスイッチが入っちゃいましたね。

「いや、ちと待てわらし、ひとまずその案は保留にして最終手段として取っておいてくれ」

「では他に何か妙案――――」

 最後まで言葉は言わず、わらしは表情を曇らせ考え始める。俺の考えを読んだようだ。

「つまり、この現象はこの猫とは無関係でその根源は私だと?」

「まぁ……そういうことになる、かな」

 わらしがスマホを取り出し時間を確認する。

「現在、深夜の二時四分です。確かにこの時間、ここの家電量販店は営業していません。本来ならば営業時間は二十一時までです。つまり、英一様が起床してから私が伝えた十時という時間は大幅に間違っていたということですか」

「あぁ……たぶんそのスマホの時刻表示、壊れてる」

 わらしは愕然として抱えていた猫を危うく落としかけた。目からは涙が今にもこぼれ落ちそうで、ここまでの事態を招いてしまった自分を必要以上に責め、悔いているようだった。

「時間を早めたのはこの猫ではなく、早く過ぎていくように感じさせ、時間を惑わしていた、他でもないこの私だったのですね」

 

 読んでくださって誠にありがとうございます。

 最近、小説を投稿する時間が2時や3時になってしまいます。夜ふかしは肌に悪いとよく耳にするのですが(泣)。

 気が向いたらで構いませんので、次回もよろしくお願いします。

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