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夜直し部の深夜活動  作者: lazy rabbit
水無月
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入部

 入部するという行為は人生の終わりと言っていい。

 中学時代、迂闊にも運動部に入部してしまい地獄を見た。楽しい部活、元気が出てくる部活、仲間との交流を深める部活、これは全部嘘だ。入部する前に抱いた愚かな幻想に過ぎない。

 高校に入学してやっと部活ともおさらばできると思ったがそれもまた幻想だった。


「すみませんでした……私の責任です……」

 申し訳なさそうにつぶやく彼女はいつも声音が暗い。

「気にするなって、わらし」

 俺の目の前にいるのは着物を着た和風幼女。でも人間じゃない。

 座敷童子、妖怪だ。

 わらしと出会って一週間。腹部の生々しい傷は遊来のおかげで完治しもう傷跡も残っていない。(どうやって治療したのかはわからないのでかなり心配だけど今のところは大丈夫そうだ)

 でも遊来に助けられたせいで今日入部届けを出しに行かなければならない。

 その部活の部長は遊来本人。部活体験を無理やりやらされた時点でこんな部活絶対に入部しないと誓ったはずなのに。

「授業は終わったし入部届けでも出してくるか」

 俺はため息をつきながらイスから立ち上がった。憂鬱な気分のせいか、いつもより体が重く感じる。最近ため息増えたな。

「私なんかは、英一様といないほうが……」

「まあ、大丈夫だよ、なんとかやっていく」

 本音を言ってしまえばなんとかやっていける自信はない。でもわらしが通り魔をやり続けて死んでしまうよりは何倍もましだ。

 正面に立ったわらしの目が急に潤んだ。

「吐露しない英一様は優しすぎます。あの時と変わらず……優しすぎます」

「読まれたか」

「す、すみません。勝手に入ってくるものでして」

 わらしには人の心が読めるという特殊能力があるので迂闊にエロエロなことを……間違った、いろいろなことを考えるとまずい。

「ちょっと質問していいか?」

「なんなりと」

「わらしって成長しないのか?」

 俺はなけなし覚悟を決め立ち上がったが入部届けを出しに行く気力がゼロになりまた椅子に座った。

 頬杖をついた姿勢でふと思いついたことをわらしに質問する。

 わらしは俺の正面に綺麗な姿勢で直立しているが、わらしは身長が低いので立っているわりには座っている俺と目線が水平な直線でつなげる。

「少しは気にしているんです……遊来さんみたいな巨乳に私だってなることができればいいとは思いますが残念なことに私の成長期はもう終わっているのです……」

 わらしは悲しそうに下を向いた。

 自分の胸を見つめるように。

 ……胸の成長のことは言ってないけど!

「胸の発育のことを言っていないならどこのことを言っているのですか?」

 手に顎をのせる姿勢をやめ、俺はため息をついて答える。

「……身長」

「あっ……そっ、そうでしたか……身長はもう伸びないと思います」

 口に手を当て一瞬驚きの表情を見せて返答した。

 わざと言っているのか、ただ天然なだけなのかはわからない。でもわらしの表情は自然で、あの時のように凛然としていて妖艶な雰囲気はない。今はまったく大人びて見えず、見た目通り幼く見える。幼いほうが可愛くていい。

 決して俺がロリコンというわけではない。わらしを見ていると微笑ましくなるという意味だ。

「あの、次は私が質問していいですか」

 おどおどとした口調で尋ねてくる。

「ああ、いいよ」

「この質問は非常に無礼な質問だと自覚しておりますがどうかお答えください。英一様のお答えを確かめておかなければ私は不安で毎晩眠ることも出来ません」

 一緒の部屋で暮らし始めてもう約一週間が経っている。わらしとは同じ部屋で寝ているが今はもちろん違う布団で寝ている。不満なんてないと思うけど……。

「英一様は……ロリータコンプレックスなのですか」

 ためらいつつ言った言葉に一瞬唖然としてしまった。わらしがそんなことを質問してくるとは思っていなかった。

 ちなみに俺はロリコンではない。自分で言うのもなんだが俺はしっかりとした考えを持っている。俺は紳士だ。幼女や少女だからといって恋愛対象外にしているわけではない。しっかりとした目線で女の子ではなく一人の女性として見ている。それに―――

「もういいです! 質問した私が間違っていました。英一様の心はよく理解しました。そのくらいで性癖をばらすのをおやめになってください!」

「いや、俺はロリコンじゃないって」

「自覚してください。英一様はれっきとしたロリコンです。もう英一様の夜這いが怖くて眠ることができないじゃないですか」

「断言する、夜這いする勇気はない、安心しろ」

「英一様は勇気がない、しかし、もし勇気があったのならば何もためらうことなく幼女に飛びつくということですね」

「そうは言ってない!」

「虚言は見苦しいだけですよ、私には英一様の心が読めます」

「そ、それは……」

 ダメだ。ここで押し黙ってはまるで俺が本当に幼女を襲うみたいじゃないか。

 わらしはクスクスと、無邪気にも悪戯っぽくも見える笑顔を見せた。

「すみません英一様、人の趣味を批判してはいけませんね」

 すみませんと言いつつわらしは小さな口を手で覆い必死に笑いをこらえている。俺はわらしのように心が読めるわけではないがわらしの小刻みに動く肩の上下運動で笑っていることは明白だった。

 このままではわらしに変態のレッテルを張られてしまうので、逃げるように椅子から立ち上がり、入部届けを四つ折りにしてからポケットへ無造作に詰め込んで教室を出た。

読んでいただき誠にありがとうございました。


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