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親子だから愛してる





 全くあの男はなんて奴だ、とお怒りのパパ上様。

 アルカードから見たらすっかり「悪い虫」になってしまったアンジェロには、少しの間接近禁止令が出て、ジョヴァンニが見張りにつけられてしまった。


「お前、昔は小僧など眼中になかったくせに、よく惚れられたものだな」

「だって、昔はクリシュナにメロメロでしたもん」

「クリシュナと比較したら、奴は雲泥の差ではないか」

 月とすっぽんとも言う。人格レベルの問題で言えば、石ころとダイヤくらいの差はある。

「確かにアンジェロって人格破綻してますけど、優しいですよ?」

「昔から、お前にだけはな」

「あはは、そう言えばお父様、初対面でアンジェロとケンカしましたよね」

「奴が一方的に腹を立てただけだ」

「ヒドーイ! お父様が悪いですよ、アレは」

「昔の事だ。忘れろ」

「もう」


 昔々、短期間ヴァチカンに誘拐されて住んでいた時。ミナを取り戻そうと乗り込んできたアルカードと、アンジェロはケンカをした。

 ミナの悩みを「そんなことか」の一言で一蹴したアルカードにアンジェロがキレた。

 その数日前にアンジェロに話をして、傷ついたと思わず溢してしまったのを気にかけていたらしい。

 その時はミナとジュリオで慌ててアンジェロを止めたが、後から考えてとても嬉しく思ったものだ。

 昔はアンジェロもミナをイジメたし、バカにしたし、絶対あり得ないと公言していたし、あっちはあっちで無関心だったが、そう言う時のアンジェロは、昔から優しかった。

 アンジェロは人の気持ちが分からないデリカシー無し男なのだが、状況や性格を分析して人の心を読むタイプなので、単純な織姫は割と見透かされることが多い。

 アルカードの方は昔眷属で思考がダダ漏れだった為に、いい加減織姫の思考パターンはわかりきっているらしく、まだ何も言っていないのに拒否されるとか言う事が多々ある。

 二人とも織姫にとっては良き理解者で、どっちが欠けても非常に困るので仲良くして戴きたいと常々思っているのだが、いかんせん二人の相性が悪すぎてとてもではないが未だに仲良くしてくれそうにない。

 初対面の時から立場上性格上相性最悪の二人は、更に立場上の対立の悪化もあって犬猿の仲だ。

「昔テレビであったじゃないですか。娘がものすっごいチャラチャラした人を彼氏って紹介したら、お父さんはどういうリアクションするかっていうドッキリ。お父様ならどうします?」

「殺す」

 即答だった。

「放送できないじゃないですか」

「みせしめだ」

 娘がギャルならまだマシだろうが、そうで無い女子と付き合っているチャラ男がその放送を見たら別れを考えそうだ。

 アンジェロとの間柄を許したのは、昔の事もあったし、アンジェロの人格以外が人より優れていたから、というのもある。

 仕事は出来るし責任感も強いし愛国心もあって、戦闘力もそこそこ。アルカードから見たら虫けらだが、敏感体質のアンジェロが近くにいる限りは暗殺の心配は全くない。

 正直な話、織姫との間柄がなければ超絶重用したいタイプの男ではある。


「事ここに至ると、いよいよクリシュナが偲ばれる」

「まぁ、お兄ちゃんですしね。クリシュナ程完璧な人もいませんよ。むしろクリシュナが私を好きになったことの方が不思議です」

「一目惚れと言っていたからな。理屈ではないのだろう」

 アルカードの兄クリシュナとの出会いは、電撃的だった。まさしくビビビだった。お互いに一目惚れをして、出会ってすぐに付き合い始めた。

 クリシュナはとても優しくて、アンジェロの様にアルカードと一緒になってイジメたりはしなかったし、性格も穏やかで落ち着いていて(一旦キレると長丁場だが)しかも大学の助教授で博識だったので、一緒にいて全く退屈もしなかった。

 それにとても現実主義者で、努力の天才と言ったタイプだった。そう言うところにとても憧れを感じたものだ。

「ラジェーシュさんも言ってたけど、本当クリシュナ程の完璧人間には未だに会いませんよ。あの人本当に吸血鬼だったのかって怪しく思うくらいです。実は天使とかだったんじゃないですか?」

「ははは。確かに、奴は化け物には向かないな。ミケランジェロは?」

 クリシュナの魂は、ミケランジェロに宿っている。

「ミケランジェロは実質社会生活20年しか経ってませんから、まだちょっと青臭いですね。将来が楽しみって意味では有望株ですけど、父がアンジェロなんで、なんか変な影響受けてないか心配です」

「・・・・・台無しだな」

「うーん、ジョヴァンニはマトモに育ってますから、大丈夫だとは思うんですけど、レミが腹黒になったんで、確率は半々です」

「むしろレミはわかるが、よくジョヴァンニはまともに育ったな」

「ほら、アンジェロって二重人格じゃないですか。レミが似たのは表で、ジョヴァンニが似たのは裏です」

「あぁ・・・・・奴の人格を裏に統一出来たらいいものだが」

「それも微妙ですよ。あの人の裏性格出てきたら、一日中メソメソ言ってますよ」

「つくづく極端な奴だな」

 表は傲慢で自己中で自信家。裏は繊細で感傷的なヘタレ。裏を隠蔽するために表が異常発達しただけだが、織姫はそれはそれで面白い人だとも思う。

「人前ではポーカーフェイスですけど、感情の浮き沈みが激しくて、結構面白いですよ」

「それを楽しめるのはお前くらいだ。面倒くさいことこの上ない」

 確かに面倒は面倒だ。5分前と現在とで言っていることが全く違う、なんて言う事はしょっちゅうある。お陰様で毎日ウソつき呼ばわりだ。

 

 ドアが開いて、ミラーカがやって来た。

「あら織姫、ここにいたの?」

「はい。お母様、どうしたんですか?」

「アルカードのご機嫌伺いよ」

「あぁ。私と一緒ですね」

「お前ら・・・・・」

 アルカードは結構独占欲が強く嫉妬深い。あんまりほったらかしていると、いざという時にスネて根に持たれるので、時々アルカードの御機嫌を窺ってご機嫌取りをしておかなければいけないのだ。

 ミラーカもソファに腰かけて会話に混ざってきた。織姫はこの親子3人で揃う時間が結構好きだったりする。なんだかアルカードとミラーカの間の雰囲気が、ほわほわして優しい気がするのだ。

「お父様とお母様、ちゃんと夫婦すればいいのに」

 思わずそう言う愚痴を零してしまう程に、二人はいい雰囲気だと思うのだが、

「嫌よ」

 と毎回ミラーカが即答するものだから、そう言う事ではないようだ。

 昔からこの二人が二人だけでいる時は独特の雰囲気で、そう言う意味では相変わらずだと思うのだが、織姫が転生してから微妙に変わった気がしてそう言っている。が、

「私とアルカードは完全に他人よ」

 アルカードの心中をお見舞いしてやりたいほどにバッサリだ。心なしかアルカードがショックそうに見える。

「ただ」

 続けて言ったミラーカの言葉に振り向くと、にっこり微笑まれた。

「間に織姫が入れば、夫婦にも家族にもなるわ」

 すぐにアルカードの顔色を窺うと、心なしか嬉しそうだ。

 自分が二人を結びつけて橋渡しをしている、織姫自身もそれがすごく嬉しかった。


 ミラーカのご機嫌取りはこれで完了したらしく、少しすると部屋から出て行った。

 それを見送って、椅子から降りてアルカードの膝をバシバシと叩いた。

「なんだ?」

「お父様、任せてください!」

「・・・・・余計なお世話だ」

「もう! まだ何も言ってないのに!」

「“陛下の恋を応援する会”の再結成は認めないぞ」

「えー、本当はお母様の事好きなくせに」

「違う」

「違わないですよ。アンジェロと一緒ですよ。お父様が気付いてないだけです」

「ない」

「なくない!」

「ない」

「なくないですって!」

「ない」

「なくないですってば! もう! 頑固なんだから!」

「お前もな」

「お父様に似たんです! もう、じゃぁいいです! アンジェロに協力要請するもんねーだ!」

「バカ、やめろ! 待て! コラ!」

 早速接近禁止令を破った。


 アルカードの所から飛び出してアンジェロを探し回ると、執務殿の自分のオフィスにいると言う事だったので、そちらに向かった。

 アンジェロを見つけて、その話をした。

「そういうわけで、再結成どうでしょうハニィ」

 膝によじ登ってウキウキと見上げると、ハニィは溜息だ。

「そういうことですかダーリン。道理で休憩時間が終わっても仕事に戻ってこないはずですね」

「あ」

 仕事中だった。

 当然翼が待機する自分のデスクの上は仕事が山積みだ。

「あ、あぁー・・・・・」

「その件は時間に余裕が出来てからゆっくりお考えください。あなたがやるべきことは、今、目の前にある、コレです」

 膝に乗っていたのを小脇に抱えられて、ぎゅむっと椅子に押し付けられた。


 翼は織姫を一瞥して深く溜息を吐きながら、席に戻ったアンジェロの隣のクミルに視線をやった。

「クミルさん、僕と替わりませんか」

「・・・・・いえ」

 断られて翼はガッカリしているが、目の前でそのやり取りをされてしまって若干ショックだ。

「翼、ヒドイ」

「どこが? こっちの身にもなってほしいんだけどねぇぇぇ」

 ギロリと睨まれた。ミナ似の翼だが、恐ろしい事に内面は年々アンジェロに似てきているようだ。

「ごっ、ごめん。まぁいいじゃない。どこまでやった?」

「チッ、えっとねぇ」

「今舌打ちした?」

「してないよ」

「したよね?」

「してないって。話進まないから黙って」

「ちぇっ、なによ」

「今舌打ちした?」

「してないよ」

「したよね?」

「してないってば」

「や、したよね」

「してないって言ってんじゃん。うるさいなぁ」

「チッ、面倒くさ」

「今舌打ちした?」

「してないよ」

「ウソ。したよ」

「してないって言ってん」

「うるさい! いい加減にしなさい! そのやり取り何ラウンドやる気ですか!」

「「・・・・・ごめんなさい」」

 アンジェロに怒られた。他の人たちが声を殺して笑っているか、呆れた視線をぶつけてくる。

 バツが悪くなって俯いて翼を睨むと、翼も同じように睨んでいた。


「もう、翼」

「僕じゃないよね。織姫だよね」

「翼だよ」

「織姫だよ」

「翼だって」

「織姫だって」

「翼」

「うるせぇっつってんだろーが! テメェら仕事しねぇんなら帰れ!!」

「「ごっ、ごめんなさい」」

 とうとうキレられた。

 いくらなんでも帰るわけにはいかないので、そこからは我慢して黙々と仕事を頑張ることにした。

 やっぱりOLさん達は笑っている。少しするとヒソヒソ聞こえた。

「大臣がキレるの初めて見たね」

「だね。ビックリした」

「あの人もお父さんなんだねー」

「なんか生活感のない人だと思ってたけどねー」

「なんか安心したねー」

 なぜか感心していた。

 プライベートではすぐにキレたりケンカしたりするアンジェロだが、ビジネスモードだと常に営業スマイルのポーカーフェイスを演じているので、生活感があまりない。

 アンジェロの感情表現をあまり見たことのないOLさん達には意外だったようで、むしろ安心したようだ。

 しかし、それを聞いて突如不安に駆られた。

 ―――――どうしよう。私子供だし、アンジェロが私に愛想尽かして別れようとか言ってきたら、どうしよう!

 今の関係が「元カノの身代わりの体目当て」という関係(と思っていたのは織姫だけ)からスタートしたこともあって、今の織姫には子供であると言う事はものすごくマイナス要素に感じるのだ。

 そこにOLさん達がアンジェロに興味を持って、誘いでもしたらと考えたら急に怖くなった。

 すぐに翼の腕を引っ張ると、少し不機嫌そうに耳を寄せてきた。


「なに?」

「アンジェロにフラれる」

「急に何言ってんの」

 ちょっと飛躍しすぎた。反省して、質問に切り替える。

「ね、アンジェロ私の事なんて言ってる?」

「可愛いって言ってるけど」

「どういう意味で?」

「さぁ、本人に聞けば」

「やだ、翼が聞いてよ」

「なんで? 自分で聞けば? ていうか、急に何言ってんのマジで」

「だって、フラれちゃう。どうしよう」

「や、だから」

 翼の言葉の端を切って、豪快な破裂音が響く。織姫と翼の顔の間を縫って、壁に銃弾が突き刺さって硝煙を上げた。

 突然のことに、止まった心臓がドキドキと動悸している気すらする。冷や汗を流しながら翼と振り向くと、アンジェロは銃をしまいながらギロリと睨んで、無言のまま仕事を再開した。

(こっ、怖ーっ!!)

(大臣怖ーっ!)

 オフィスのメンバーは漏れなく震え上がったので、織姫の悩みは一挙に解決された。




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