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河童だって愛してる


 たまたま通りかかった物だから、仲睦まじい二人の様子をジョヴァンニとレミ、クリスティアーノが上階のベランダから見ていた。


「またチューした」

 呆れたようにレミが言う。

「マジ異様な光景なんだけど」

 少し顔色を悪くして、ジョヴァンニが言う。

「アイツ10か月もミナと離れて、戻ってきたらミナが死んで織姫は子供で、もう1年以上何もしてねぇことになるけど、睾丸爆発したりしねぇかな?」

 クリスティアーノが言って、下品な質問にジョヴァンニが引いた。

「いっそ爆発すればいいと思うよ」

「だね。こうもプラトニックラブが似合わない男、いないもん」

「でもよぉ」

 同調したレミの返事を流しながら、煙草に火をつけながらベランダに寄りかかった。

「アイツ多分、もう精神的に他の女は受け付けねぇんだよな。織姫と結婚するまでは多分大事にするし、結婚してからも大事にするだろ。織姫は、まだしばらくは成長しねんだから」

 魔法で抑えた力は、成長も止めた。織姫はしばらくずっと子供の姿で、恐らく結婚を約束した年齢―――――15歳になっても子供のままだ。

 大人の姿になるには、きっと100年くらい必要とする。

「聖職者の癖に、ジュリオ様が許したからって女遊びなんかするから。あ、またチューした」

 呆れるレミの視線の先では、またチューしている。織姫の黒髪に指を絡ませて、角度を変えて何度もチューしている。

「レミ、知ってる?」

「なにを?」

 振ってきたジョヴァンニに、引きながら振り向いた。

「修道女のウィンプルベール」

「あぁ、あの頭にかぶってる奴?」

「アレさ、意味あるんだよ。イスラムだって女の人は頭からすっぽりかぶるだろ」

「あぁ、どういう意味?」

 レミが尋ねると、ジョヴァンニも煙草を吸いながら、織姫の髪を撫でるアンジェロを見下ろす。

「ウィンプルベールには処女性って意味がある。女の髪は男を誘うから、隠す」

「・・・・・織姫様に被せちゃおうか」

「髪位触らせてやれ」

 ちょっと意地悪を言ったレミをクリスティアーノが窘めた。



 笑いながらアンジェロと織姫に視線を戻すと、アンジェロは織姫の耳元に顔を寄せて、織姫は何だか嫌がっている。離そうとする織姫の手を掴んで、耳を舐めて首筋にキスをする。

「出た、アンジェロの十八番“ちょっとくらい、いいだろ”」

「うっわ、マジ危ない光景だよ」

「子供でも感じるのか?」

「さぁ?」

「今から開発する気か・・・・・あ」

「あ」

「あ」

 3人で引きながらその様子を見ていたら、危険なカップルの前、織姫の背後に王様が突然現れた。

 そしてアンジェロと織姫を引き離し、アンジェロを蹴っ飛ばす。蹴られたアンジェロはすぐに起き上がって、アルカードにわぁわぁ文句を言う。

 更にそれでアルカードがキレて、織姫をほったらかして大喧嘩が始まった。


「アンジェロ、完全に悪い虫だな」

 クリスティアーノの呟きに二人が同調する。

「婚約者だから許されるんだろうけどさ」

「や、許してないから、陛下怒ってるんじゃん?」

「怒るだろー。そりゃ怒るだろ。4歳の愛娘にセクハラだぞ」

「そりゃ怒るよねぇ」

 アンジェロとアルカードは取っ組み合いの大喧嘩で、しまいには使い魔と銃をそれぞれ出して、割と本気のバトルになり始める。

 織姫はその様子を呆然と見ていたが、少しすると泉の前に座り込んで、泉の中の魚を眺め始めた。

「・・・・・織姫様」

「出た、織姫の十八番。“勝手にやってろ”」

「相変わらず男泣かせだな」

 私の為に争うのはやめて! 的なセリフは、織姫からは一度も聞いたことはない。

 ―――――あーあ、また始まったよ。もう面倒くさい。ほっとこう。

 というのが基本スタンスである。

 ふと織姫は立ち上がってどこかに走り去ってしまった。が、すぐに小さな箱を抱えて戻ってきた。

 泉の前に立って、箱から何かを取り出して泉に放り投げている。

「ん?」

「あぁ、アレだよ。津軽たちのエサ」

「津軽ってなんだよ」

「魚の名前だって。後はニコラスとか、マドレーヌ、東雲しののめ

「・・・・・少しはマシになったね」

 ネーミングセンス。昔飼っていたカナリアは、黄色いからキロと名付けていた。


 織姫は餌を投げ入れて、魚が餌を食べる様を眺めている。寄って来た魚たちがぴち、と水面に顔を出して餌をついばむ。

「織姫釘付なんだけど」

「マイペースだなぁ・・・・・」

「まぁ、面白いけどよ」

「織姫様、背後はもっと面白いことになってますよ」

 魚に釘付けの織姫の後ろでは、アンジェロがアルカードにコブラツイストをかけられている。さっきはローリングソバットを見せてもらった。

 格闘技観戦にチェンジした3人は、アルカードの繰り出す技に感嘆の溜息を漏らす。

「陛下の意外な万能さには脱帽」

「伊達に長生きしてねぇなぁ」

 アルカードは今年の誕生日で666歳だ。ちなみに本人はミケランジェロから聞くまで、自分の誕生日をすっかり失念していた。

「俺らも軍隊格闘くらいなら必死で訓練したのに」

「そもそも力の差がね」

「実戦力に劣るプロレス技にやられてる時点でな」

 実戦力なら軍隊格闘やケンカ戦法が一番だと思う。

 アンジェロもそこそこ鍛えた方だし、魔力もかなり強くなって上から数えた方が早い。

 魔力ではミケランジェロと翼が2トップ。続いてアルカード、アンジェロ、リュイ、クライド、ボニー、シュヴァリエ、アミン、ミラーカに織姫、と言った順だ。

 1位の二人と2位の間は僅差と言えるが、2位と3位の間では結構な開きがあるし、純粋に吸血鬼として強い上位3人に比べて、アンジェロは悪魔を騙して強化させたので、吸血鬼の魔力とは微妙な違いがある。


 意気軒昂、ヴァンパイアファイトを見守っていたが、やはりと言うべきか。

 ジャーマンスープレックスを駆けられたアンジェロは、体が宙に浮いた瞬間、足の反動を利用して体をねじってそれから抜け出す。倒れたアルカードにエルボーをブチ込もうと肘を立てて倒れ込むと、すかさずアルカードは転がって避ける。

 ずぐっと肘は地面にめり込み、素早く体を起こしたアルカードが右手を軸にして地面を蹴り、アンジェロの胸をめがけて強烈なローキック。

 まともに喰らったアンジェロは呻き声を上げて吹っ飛ばされる。その吹っ飛ばされた先。

「あ!」

「織姫!」

「きゃぁぁぁ!」

 池の前に座り込んでいた織姫に衝突。そのまま織姫は池に転落してしまった。

 バシャンと水しぶきが上がって、自分がぶつかったせいで織姫が落ちてしまったことに気付き、慌てて駆け寄ってきたアルカードと立ち上がったアンジェロはスーツのジャケットを脱ぎ捨てて泉に飛び込んだ。

 見ていたクリスティアーノ達もベランダから飛び降りて、二人のジャケットを拾って水面を覗き込む。



 織姫は呼吸をしていないから、水に落ちても苦しいと言う事はない。その代り、体内に空気がないために浮かんでくることはできない。

 弱い小さな体で、ゴスロリのひらひらした服は水を大量に吸い込んで体に纏わりつき、巧く泳げない。

 ―――――最悪・・・・・どうしよう。住めってか。ここに住めってか。

 途方に暮れて、水面を微かに照らす月に手を伸ばした。その瞬間、誰かが織姫の体を抱いた。そしてものすごいスピードで水面まで上昇していく。

 

 ざばっと水面に現れた織姫。安堵して、ジョヴァンニが織姫を水面から引き揚げて濡れた髪を撫でてくれた。

「よかった、織姫。どっちが・・・・・」

 水面に視線を移したジョヴァンニは、固まった。クリスティアーノとレミも固まっている。

 振り返ると、友達がそこにいた。

「アウェパトリオータ! 姫様大事在りませんか?」

「はい! 今泉さんありがとうございます!」

「御役に立てて光栄です! 陛下と太政大臣も潜ってらっしゃいましたが、もう大丈夫だと伝えてまいります!」

「ありがとうございます。アウェパトリオータ!」

「アウェパトリオータ!」

 若草色をして水かきのついた手を額に当てて、“今泉さん”は水の中に潜って行った。程なく帰還したアルカードとアンジェロ。顔色が悪い。

「なんだあれは」

「なにアレ」

「今泉さん。昔からここに住んでるんだって」

「名前を聞いてんじゃないんだけど」

「アレも国民だったのか・・・・・」

「住所はここで、もう住民登録も済ませてますから」

「意外に仕事が早いな、お前」

「お魚の面倒も見てくれるし、今泉さん優しいんです。ドルフィンリングとかやってくれるんですよ」

「織姫、会話しようぜ」

「・・・・・」

 相変わらずマイペースだし、なぜコイツはすぐに変な友達を作るんだ、とアルカードを始め全員が思ったが、織姫の命の恩人だ。その内礼をしなければならない。



 アンジェロがテレパシーで呼んだらしく、翼がタオルを持ってきて織姫を拭いてくれた。

「もー、なにやってんのぉ?」

 口をとがらせて織姫を拭く翼に、レミが事情を説明。呆れる翼。

「国の2トップが、なにしてんですか」

「・・・・・すまない」

「お父さんもですが陛下も、娘萌えも程々にしてくださいよ。王宮では周知の事ですけど、都民達にまで知れ渡ったら恥ずかしいでしょ」

「・・・・・」

 説教される国王陛下。伊達に翼はミナとアンジェロの子供ではない。怖いものなしだ。

「お父さんも無闇に陛下とケンカしない! わかった!?」

「・・・・・わかった」

 説教されて項垂れる国のツートップ。

「ていうか」

 今度は説教相手をクリスティアーノ達に定めたようだ。

「3人も見てたなら止める! 陛下とお父さんがケンカはじめたらロクなことにならないんだから! わかってんでしょ!」

「ゴメン」

なぎさちゃんがいてくれなかったら、まだ救出に時間がかかったよ! この泉は底に藻が茂ってて危ないんだから! 今度から注意してよ!」

「スマン」

「ていうか汀ちゃんって、誰」

「さっき会ったでしょ! 今泉汀!」

 さっきの若草色の水棲生物。翼と二人で散歩しているときに出会って、名前がないと言うので翼がゴッドファーザーになったのだ。


 あの生き物女だったのか、と説教された面々は衝撃を隠し切れなかった。




【登場人物紹介】


《今泉汀》

獣人の一種で、見た目は微妙に人の姿に似ているものの、髪はワカメっぽく、肌は若草色で、水かきがあって皮膚は鱗に覆われている。

 主食は水中の水草や、泉の周りに咲いている花。水棲生物なので、水から出たら干上がってしまう。

 お魚とお話ができる。エラ呼吸。

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