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第七章:課せられた選択

「ガ・・」

「黙れ」

己より遥かに大きな背中に視界を塞がれて、ミランは戸惑う。

「・・・・っく・・・くく・・は、ははははは」

狂ったかと思えるような笑い声が響いて、ミランは本能的な恐ろしさで身を縮める。

「そうか・・・お前は知っているか、火の賢者。ならば私の求めるものも分かるな?」

「知りたくもなかったが」

「そしてお前がそれを隠すということは、それが私の望むものを作り出せる可能性を秘めているということだな?」

「知らん」

「・・・・・・ふっ・・・」

取り付く島もないほどにべもない返答を返すガルクを余裕の表情で見返すと、王は軽く右手をあげる。その瞬間に部屋の中央に跨る絨毯の両脇に控えた兵たちが、槍を一斉に前に突き出す。

「ひゃっ・・!?」

驚いたミランはガルクの背中にへばり付き、ガルクは更にミランを庇うように右手でその身体を支える。ちらりと視線だけ後ろの入口に向ければ、後方も既に兵によって囲まれている。

「・・・・何のつもりだ」

「察しの良い火の賢者なら分かると思うが?・・・・・・私にはどうしても、そこの水の賢者が必要なのだ。他の誰よりも、な。クリス!!!」

ガルクの鋭い視線から目を逸らさずに、階段の下に控えているクリスに声をかける。兵に囲まれる二人の数歩前にいるクリスはかすかに躊躇う素振りを見せたものの、振り向いてその静謐の青い瞳をひたとミランに定めた。

「・・・・長き王家内乱により、隙をつかれ他国からの侵略が相次いで最早一刻の猶予も許されない状況です。かつての王と四賢者で交わされた契約を覚えておいででしょうか?今こそその約束を果たす時、どうぞお二方、我らの王の為にそのお力をお振るい下さい」

「・・・・つまり手駒となって戦争しろってことだな」

「端的に申しますと」

「・・・だがそれと、ミランを欲しがるのは別だろう?」

「・・・・・言葉が足りなかったようです。ミラン殿以外の三賢者の方には、戦の為にお力を貸して頂きます」

「・・・・・・・・断ると言ったら?」

クリスの片眉が一瞬だけあがる。

「貴方に縁ある者すべてが死ぬことになります」

「その様子じゃ村に第二部隊を送ったか・・・・・」

「ご明察」

ガルクは既に大方の予想はついていたので取り乱しもしなかったが、この会話を聞いて誰よりも驚いたのがミランだった。ガルクの背中にすっぽり隠れていたのを、慌てて顔だけ出す。

「・・・・・っ・・ちょ、ちょっと待って下さい!それってどういう・・」

目の前の金髪の騎士を必死で見つめる。少しだけ彼の青い瞳が揺れた気がした。

「・・・残念ながら、貴方も例外ではないのです。ミラン殿。既にフスク村は我が国の騎士団によって包囲されています。あなた方が拒否をなされば、その時点で村は滅ぶでしょう」

「・・・・・っ・・・な・・・・・な・・・んで・・・そんな、こと」

「どうあってもその力が欲しいからに決まってるだろ」

不快感を顕わにしてガルクが呟く。ミランを押さえる手の力が少し強まった気がした。

「村人は人質だ、イエスと言わせる為の。だけどすんなり従うんじゃねーぞ、ミラン」

「・・・ガル・・」

背後に隠している子供の気配が酷く頼りなげに揺れている。突きつけられた現実に戸惑っているのだろう。

「あなたが王に協力すると仰って下されば、危害を加える気はありません。ですからどうか・・・・・お願いします、ミラン殿」

そう訴えかけてくるクリスの瞳が揺れている。わずかだが、苦しそうだと思うのは自分の勝手な思い込みだろうか。こんな手段を使う人じゃないと、短い期間しか一緒に旅をしなかったけど、信じていたかったからだろうか。

けれど。

「・・・・最終的にどういう判断を下すかはお前次第だけど、先に言っとく。例えここでお前が協力すると言ったところで、村人たちの命の保証はねーんだぞ」

怒気を含んだ低い声が随分近くで聞こえた。気付けばガルクがミランの方を向いて、声が聞こえやすいようにわずかに膝を屈めている。

「ヤツが欲しがっているのはお前の能力だけだ。もし、お前が能力を自由に操れないと知れば、力を発揮させる為にお前の大切な人たちを殺すこともするだろう。逃げ場を失くす為に、お前の知らない内にさっさと村を滅ぼしているかもしれない。そうでなくても、戦をする気なんだ、その最前線に村人全員送るかもしれない。・・・・考えられる事態はいくらでもあるけどな、どのみちハッキリしてんのは、イエスだろうがノーだろうがお前の命だけは助かるってことだ」

「・・・・」

「裏を返せばお前以外は死ぬ確率の方が高いし、お前だって命は助かっても精神的にどんな負担を架せられるかは分からんぞ」

ガルクの言葉は真実だと思えた。

少なくとも、信じたくても信じきれないクリスの言葉よりは。

視線が無意識に下がる。何か掴むものがほしくて、ガルクの服を今迄以上に強く握った。

選ばなければ。決めなければ。

どちらを信じるかを。


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