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第六章:リア・ファイル

クリスが階段上の玉座の人物に頭を垂れる。

「よく戻った、クリス。待ちかねたぞ」

間を置くことなく、存外気安い声が頭上からかけられた。その声の若さにミランは思わずぶしつけに玉座を見上げた。王というからにはもっと年配の人物を想像していたのだが、実際その目で見る王はクリスとさほど年が変わらないように見えた。20代後半くらいだろうか、ただ纏う雰囲気は見た目の倍以上生きているかのような妙な威圧感をそなえていた。

「それが、水の賢者か」

「はい。印章に認められた正統な賢者です」

品定めをするような目でじろじろと見られ、ミランは居心地が悪くなって目を伏せる。

「まずは、歓迎しよう。正統なる賢者たち。我が名は、フラガラッハ・ブリューナク。知っているとは思うが、長く絶えなかった王家の跡目争いも私が玉座を継いだことでようやく終わった」

「何番目だ?」

「ん?」

揶揄を含んだ声が頭上から響く。

「あんたは何番目の王子だった?」

王を前にして頭を垂れるどころか、腕を組んで真正面から睨みつけているガルクの態度に焦ったのは周囲の騎士たちだった。

「貴様、賢者とは言え王にその態度は」

「良い。威勢がいいな、火の賢者。私は前王の13番目の末の王子だった」

「末か・・・なら、他は全員殺したか」

ガルクも王も互いにぴくりとも動かずに淡々と会話を続ける。

「仕方ない。玉座とは血によって贖われるものだ。一刻も早く国を平定する為にも、甘いことなど言ってはいられなかった。まあ、そのあたりにおまえたち賢者を呼び出した理由があるのだが」

その前に、と言って王は横に控えていた黒いフードの人物に何かを手渡す。そしてそのフードの人物はゆっくりと階段を下りて、ミランの前で立ち止まった。

「え?」

呆然と見上げると手を指差された。手を出せと言うことだろうか。

何が何だか分からないまま両手を差し出すと、その掌の上に握りこぶし大の蒼い石がそっとおかれた。

「??」

「それが何か分かるか、水の賢者?」

先程よりも真剣みを帯びた声が玉座からふってくる。ミランは一瞬だけ視線をあげるが、すぐに手の上の石に視線を戻した。蒼くくすんだ色の石。水の印章とも違う、不思議な感じの石だった。ちらと横を見ると、ガルクも不思議そうな顔で手の中の石を覗き込んでいる。この様子だと、彼もこの石については知らないのだろう。

「王家に代々伝えられてきたものだ。幾度かの戦乱でそれについての記述の載っていた書物は焼かれてしまった。故に私はその石についてよく知らぬ。賢者が・・・・作ったということ以外は」

王家に伝わる賢者の作った石。確かそれは、この世でたったひとつの王の証。

「・・・・あれ?」

唐突に浮かんだ言葉にミランは小首を傾げた。

何故これが王の証だと分かる?見たことも聞いたこともない、今の今迄存在すら知らなかったこの石の意味が、何故自分に分かるのか。

分からない・・・何もかもが自分の知らぬところで動いているような感覚。

だが理屈ではなく訴えてくるものがあった。

この石は、民の戴く王を示す石。王の手にあって虹色に輝く、それは―――。

「・・・・・・リア・ファイル・・・?」

見えぬ力に促されるように洩らした言葉に、目の前のフードの人物とガルクが激しく反応した。フードの人物は一瞬身を硬くし、素早くミランの手の上の石を取り上げ、ガルクは息を呑んで表情を硬くした。

「リア・ファイルって・・・・・玉座の象徴『真実の石』じゃねーか」

「・・・・し、真実の石?」

「『王の手にあって輝きを失わず、其は真実を告げる石――』」

「黙りなさい!」

リア・ファイルが何を示すものか、伝承に伝わる一文を諳んじようとしたガルクの声をフードの人物の鋭い小さな声が遮った。一言も発しなかった人物の焦った声に、二人は驚いて言葉を失う。

「静かになさい。石の意味をここで語る必要はない、火の賢者」

突然の一喝をした割に穏やかな声が呟きほどの大きさでフードの下から洩れる。そして言うだけ言うと、石を手に踵を返し階段を登っていく。

「・・・・・ど、どうしたんだろう・・・僕何か悪いことを言ったのかな・・・?」

大きな声で話してはいけない気がして、耳打ちするように小さな声でガルクに問いかけた。

「さあ、どうなんだか。だがこの場で声を大にして言うのは、良くねーだろうよ。あれは王を選別する石だからな」

「選別?」

「オレ達の持っている印章と一緒だ。相応しい者が持てば光り輝く。さっき言いかけただろ?あの全文は『王の手にあって輝きを失わず、其は真実を告げる石。玉座に上りし王の許、七色に輝く其の光、遍く全てを照らす導きの灯とならん』となる。つまり王となる者が石を持てば虹色に輝く。それこそが王の証となるのさ」

「虹色に・・・。でも、今の石は」

玉座の隣に辿り着いたフードの人物が、王に何かを耳打ちしている。

その人物の掌にある蒼い石を眺めながら、ミランはガルクの服の裾を無意識で握った。

「輝いてなかった。そう、つまりアレは王に相応しくないってことだ」

ガルクはしてやったりという風に笑っていたが、その表情はどことなく苦々しいものだった。束の間微妙な沈黙が訪れたが、それはすぐに段上から降る声により破られた。

「・・・どうやらこの石は私が望んでいるものとは違ったようだ。・・・・だが、この石が何か分かったということが、お前が間違いなく正統な水の賢者であることの証・・・」

声は変わらず淡々としていた。いや、それどころか愉悦めいた色が含まれている。

本来あるべき反応と違った反応に、背筋が凍った。

「では作り出せるか・・・お前なら、『ウシュク・ベーハー』を」

もったいぶるようにたっぷりと余韻を残して響いた言葉。

ミランが何のことかと尋ねる前に、素早くその目の前にガルクが立ち塞がった。いや、ミランの邪魔をしようとしたわけではなく、守るように。玉座の主から守るようにその背で庇う。


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