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琴似物語  作者: 松 勇
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バー・ドラキー

 その日は、ガッツ亭で大将や紫苑さんと葉菜のことを話した日の三日後だった。


「じゃあ、洋介っ!また連絡くれよっ!」

「ああ、みんな元気でなっ!また呑もう」


 そう言って別れたのは大学の同期の仲間達だった。久々の再会に思い出話に花を咲かせたのだ。場所はすすきののしゃぶしゃぶ屋。すすきのに何店舗かある、しゃぶしゃぶ、すき焼き、寿司などが食べ放題の店だ。驚くほどリーズナブルな料金で飲み会ができるところが売りである。


 同期たちと別れたのはすでに十一時ごろ。薄田社長の仕事のお陰で今は懐が暖かいし、せっかくすすきのにきたのだ。いい機会なので、ストロベリー・キッスに行ってみることにした。終電には乗れないだろうが、すすきのから琴似まではタクシーで二千円程度だし、ネットカフェに行けばさらに安い。自由業故に翌日をあまり気にしなくていいと言うのもあって、すすきのに出たときは夜鷹をすることが多かった。


「おかえりなさいませ・・・あ、お兄様っ!」


 入り口で案内に出てきたのは、前回と同じアンナちゃんだった。


「あら~、残念ですねぇ。今日はハンナちゃんはお休みなんですよ~。私でもいいですか?」

「そうか。じゃあ、アンナちゃんにお願いしようかな」

「ありがとうございます。代打ですけど頑張りますよ~」


 アンナちゃんは相変わらず元気だった。こういう仕事が心底好きなのだろう。活き活きとしている印象を受ける。


「ハンナちゃん、お兄様のこととっても感謝してましよ。マネージャもケガの巧妙だって。あれから、一生懸命カクテル作る練習もして、お兄様にちゃんと呑んでいただくんだって・・・」

「そうか。楽しみだなぁ・・・でも、今日はアンナちゃんになんかカクテルを作ってもらおうかな」

「ストロベリー・キッスはハンナちゃんに作ってもらった方がいいですよね?スプモーニとかどうですか?私が大好きなカクテルなんですけど」

「ああ、カンパリのカクテルは結構好きなんだよ」

「あら、お詳しいですね」


 アンナちゃんの作るスプモーニは少しカンパリが濃い目で、若干大人の味だった。まだ、私がそれほど酔っていないことを見取ってそうしたようだ。メイドと言うより、バーテンダーとして実力を発揮しているように思える。


「ちょっと妬けちゃうなぁ・・・ハンナちゃんのためにわざわざ足を運んでくれるなんて・・・」

「おいおい、ハンナちゃんだけじゃないよ。アンナちゃんと話すのも楽しいから来ているんだよ」

「またまたぁ・・・お気を使わなくてもいいんですよぉ。ハンナちゃんが目当てだって、認めてくださっても。ふ・・・私は所詮代替品のメイド・・・」

「こらこら。困らせて楽しむのはやっぱりエスかな?」

「はい。私はドエスメイドのアンナでございます」


 アンナちゃんは話術も巧みで、こちらを飽きさせることなく楽しませる。恐らく、このお店でも人気のメイドだろう。


 楽しい会話をしながら、すでにツーセット目に入っていた。今日もそれなりに資金は用意している。





「あ、アンナちゃんっ!なんで、なんで、僕についてくれないのっ!そんなにこの男がいいのっ?!」


 突然、私の後ろから思いつめた若い男の声が聞こえた。振り向けば、メガネを掛け、体格のいい長髪の男がそこで力んでいる。


「お、王子様っ!ご指名いただければ、こちらのお兄様のワンセットが終わったあとに伺いますので、どうか落ち着いてください」


 切羽詰った状況でもメイドの言い回しを続けるところは頭が下がる。とりあえず、私は椅子から立ち上がって、男とアンナちゃんの間から身を引いた。と言っても、カウンター越しの話だ。


「僕はずっとアンナちゃんを指名し続けているっ!アンナちゃんの為なら、カードの借金だっていくらでもするっ!こんな男より僕の方がアンナちゃんにふさわしいはずだっ!」


 どうやらこの男は、店での擬似恋愛と本当の恋愛を区別できないタイプのようだった。そして、店のルールすら理解していない。ストーカーになるタイプの男だろうが、こういう店であからさまにこんなことをすれば、怖いお兄さんとお話をすることになるのではないかと思った。


 だが、今は怖いお兄さんは間に合わないようだ。


「おまえなんかっ!おまえなんかっ!」


 男は私に殴りかかってきた。あり得ると思って身構えていた私は慌てることはない。すぐさま、自分の座っていた椅子を足で倒し、男に向かって蹴って転がす。見事に男はそれにつまづいた。両手を床につき、四つん這いのような姿勢になる。


「少し、落ち着いてもらえないか?お店のルールぐらい守れないのか?」


 自分としては、話し合いの形にすることで、穏便にすまそうと思ったのだがそうもいかないようだ。


「このっ!おっさんのくせにアンナちゃんに手を出しやがってっ!」


 一瞬、男の言葉に思わず呆然となる。


『こいつと五つも変わらないと思うんだが・・・やっぱ、老けて見えるのか・・・』


 そんなことを考えるうちに、男は立ち上がり、私の胸ぐらをつかんだ。


「この野郎っ!」


 私は胸ぐらをつかんだ方の手首を両手で持った。男の力は意外と強く、ワイシャツのボタンが一つちぎれ飛ぶ。腕力には多少自信があるのかもしれない。男には私の反応は恐怖から手を抑えようとしてのものに見えたことだろう。


 次の瞬間、私は思い切って体の向きをくるりと変える。


「いたっ!うわっ!」


 男は勢い良く床に転び、次の瞬間には私に腕を捻りあげられ、床に顔をつけて押さえ込まれる。


 これはガッツ亭の大将に教えてもらった簡単な関節技だ。大将は若い頃はそれなりに名の知れた喧嘩屋で、空手と共に独学で関節技を身につけていた。他に客がいないときに、ちょっとした話の流れでこの技を護身術替わりに教えてもらったのである。


 どんなに力のある人間でも、手首の力はそれほど強くない。手首をつかんで体ごと向きを変えれば、手首が返り、肘関節が決まる。向きを変える勢い次第では、決められた方の反射的な動作と相まって、床に転がすことが出来、且つすぐに腕をひねり上げることができる。


「まったく・・・酒は楽しく呑むもんだ。この店のメイドさんはみんながご主人様だろ?独占していいもんじゃないってことぐらい理解しろよ・・・」


 男は声を上げることもできないようだった。


 そうこうしているうちに、店の奥から複数の黒服と、一人、恰幅のいいカタギとは違う匂いのサングラスを掛けた年配の男がやってきた。アンナちゃんが要領よく状況を説明する。


「これはこれはご主人様。大変ご迷惑をお掛けしました。こちらの方には奥で話がありますので、どうぞ元の席におかけください」


 そう言ったのはサングラスの男だ。黒服の一人が転がっている椅子を元に戻し、私はその席に座る。隣の空席にサングラスの男が座った。騒ぎの現況の男は、黒服に引き立てられて奥に連れていかれる。


「改めてご迷惑をお掛けしました。ああ、他のご主人様にもご不快な思いさせて大変申し訳ありませんでした!お詫びといたしまして、お一人様一杯ずつ、お店からプレゼントさせていただきます。担当のメイドにお申し付け下さいませっ!」


 後半はお店全体に聞こえるように大きな声で言った。


「失礼しました。私はこの店のオーナー、瓜田丈夫(うりたたけお)と申します」


 そう言って、差し出した名刺には名乗った通りの名前と肩書きが書いてあった。


「黒服からも聞きましたが、先日もメイドがご迷惑をお掛けしたにもかかわらず、ご贔屓にしていただけたとか。本日の件といい失礼ですがお若いにもかかわらず、大変器の大きい方と存じます。お詫びと騒ぎを大きくせずに済ましていただいたお礼に、ボトルを一本お受け取り下さい。ウィスキーはお好きですか?」

「ええ」

「では、メーカーズ・マークのブラックを入れさせていただきますので、ご愛飲いただければと存じます」

「ああ、これは返って気を使わせて申し訳ありません」


 こういう好意は素直に受け取っておくべきものだ。お店としても、自分たちで解決できなかったことには問題はあるから、せめて、こういう形でお店側の度量を示さないといけないのだろう。なによりおっさん呼ばわりされたあとに、『お若いにもかかわらず』と来たので、少しだけ有頂天になった。


「それでは、どうぞごゆっくりお過しください。本日のお会計は結構ですので・・・」


 そう言ってオーナーは席を離れていった。大盤振る舞いとも言えるだろう。会計を無料にして、安い方ではないボトルをポンとくれてやったのであるから。


「お兄様、本当にありがとうございました。実は、あの方は・・・何度か閉店後に待ち伏せをされていたり、他の私を指名してくださる方に因縁をつけたりということがあって・・・」

「いやいや。大変だなぁ・・・それでも落ち着いてメイドとして対応できるところはすごいと思ったよ」

「あぁ・・・まぁ・・・こっちの方が私の地ですから」


 恐縮していたのが、私の様子を見て元の調子に戻したらしい。このへんも大したものだと思う。


「なるほど。身も心もすっかりメイドさんなんだね。家でもメイド服だったりして」

「あら、何でわかったんですか?」

「またまたぁ・・・」


 すぐに元のテンションでの会話が始まった。




「あ、ワイシャツのボタン・・・」

「ん?ああ、さっき胸ぐら掴まれたときに飛んじゃったからね・・・」

「ん、あ、そこに落ちているやつですね・・・」

「おお、そうだそうだ・・・」


 足元に落ちていたボタンを拾った私を見て、アンナちゃんは何か思いついたようだ。


「そうだ。お兄様、ボタンお付けいたしましょうか・・・」

「え?悪いよ・・」

「遠慮なさらないでくさい。お店はお兄様のお陰で大助かりなんですから」


 アンナちゃんに強引に店の奥に連れていかれる。どうしたんだろうか?


「あ、お兄様のシャツのボタン、さっきの騒ぎで取れちゃったので付けますね」


 奥にいた黒服達は特に気にもとめてなかった。さっきのオーナーはすでに帰ったようだ。




「動かないで下さいねぇ~」


 中にインナーも着ているので、ワイシャツを脱ごうとすると、アンナちゃんは私の肩に手をおいて、椅子に座らせた。そのまま、裁縫道具を取り出して、ボタンを縫いつけ始める。


 当然、私の顔のすぐ近くにアンナちゃんの顔がある。僅かに控えめな香水の香りがし、彼女の髪が私の鼻に触れる。正直照れくさい。


「お兄様・・・お兄様の本当のお名前をお聞きしてもいいですか?」


 上目遣いで私の顔を覗き込みながら、そう聞いてきた。


「ああ、竹内洋介・・・」

「私は芹沢杏(せりざわあん)です」

「それでアンナちゃんか・・・」


 そう話しているうちに、ボタンはつけ終わった。ハサミで糸を切ったところで、わざわざボタンを閉めてみてくれる。私がそれを見るために少し下を見た瞬間、急にアンナちゃんが顔を上に向けた。


「え・・・ん?」


 一瞬のことだった。アンナちゃんはそのまま躊躇することなく、私の唇に自分の唇を重ねたのだ。すぐに離れて、顔を赤く染めながら、ボソリと言った。


「ご、ごめんなさい・・・」

「あ、いや・・・い、いいんだ・・・」


 あまりのことに私は何をどうしていいのかわからなかった。




 席に戻ったあとは、先程のことなど忘れたかのように、アンナちゃんいつもどおりの元気なメイドさんだった。


「お兄様?この後はどうされるんですか?」

「ああ、そろそろ閉店時間か・・・」

「そうですね。一応ですけど」


 すでに時計は三時を示している。客がいる間は開けているのだろうが、基本的にはこの店も三時までで閉店だ。只酒を呑ませてもらっているのに、あんまり長居するのはいくらなんでも気が引けた。


「ん?そうだなぁ・・・どうせ始発まで時間はあるし・・・朝までやっている知り合いのスナックで時間を潰すかな・・・」

「あら、なんてお店ですか?」

「ドラキーって、スナックというか、バーというか・・・」

「あ、名前は聞いたことありますよ。ダーツマシンも置いているところじゃないですか?」

「そうそう、ダーツもあるし、カラオケとかもあって、店員とお客さんが一緒に楽しめる店だよ」


 バー・ドラキーは薄田社長の行きつけで、社長に紹介してもらった店だが、すっかりハマってしまっている。ドラキーに行ってから私はダーツを覚えた。


「お兄様は本当に飲み歩きが大好きなのですね」

「いやあ、この前の薄田社長の影響かな・・・」

「そうですか?あのご主人様も相当でしたけど、お兄様の年齢を考えると・・・」

「おいおい、すすきので遊べるような金ができたのなんて、やっとこの一年ぐらいさ」


 そんな会話をしながら、最後の一杯を煽り、ストロベリー・キッスを後にした。




「ども。お久しぶり」


 そう言って、バー・ドラキーのドアを開けた。顔なじみの店員が挨拶を返してくる。


「ああっ!竹内さん!いっらっしゃい。珍しいですね。お人でなんて・・・」

「ああ、こーちゃん。今日は社長とは一緒じゃなかったんだけどね。終電逃したから、朝までここでと思ってさ」

「そうですか・・・ボトルでいいですね?」

「よろしく」


 金ちゃんはこのお店のマスターではないが、マスターは不在であることが多いので、その留守を預かるチーフのような立場の人だ。麻野幸治(あさのこうじ)。まだ二十代半ばの若さだが、この商売がすっかり板についているらしい。


 店には他に客がいなかった。日によっては、この時間であれば、アフターのキャバ嬢やホステスがプライベートでやってくる店なのだが、この日は平日。客は私だけだった。薄い焼酎の水割りを呑みながら、下らない話に盛り上がっていると、意外にも新しい客が入って来た。


「いらっしゃいませ・・・あ、始めての方ですか?それともマスターと・・・」

「始めてですけど、よろしいですか?」


 ん?どこかで聞いた声のような気がする。


「ええ、どうぞどうぞ!」

「お隣よろしいですか?」


 話しかけてきたのは私に対してだ。怪訝に思いながらも、それを顔に出さないようにして、その女性の方を向いて答えた。


「ええ、どうぞ・・・って・・・あれ?」

「へへ・・・来ちゃいました」


 それは、アンナちゃん、いや、店の外にいるのだから、杏ちゃんと言うべきだろう、とにかく、先程までメイド服を来ていた彼女だったのだ。


「竹内さんのお知り合いですか?」

「ついさっきまで呑んでいたお店の娘だよ」

「そうですか。それじゃ、私はこの店の従業員で麻野幸治です。よろしくお願いします」


 そう言って、名刺を差し出した。


「あ、芹沢杏です。私、プライベートでは名刺はだしちゃいけないことになっているので・・・」


 この時点で、こーちゃんは大体どんな店かの予想を着けている。キャバクラやニュークラ、スナックであれば当然常に名刺を持ち歩いてばら撒く。そうでない店は珍しい。すすきのでも、知る人ぞ知るバー・ドラキーのチーフともなれば、夜の世界に詳しく、めぼしい女性店は営業で回っている。


「ひょっとして・・・メイドさんの方ですか?」

「あら、わかっちゃいますか?」

「まあ、名刺を配っちゃいけないってなると、そうかなと」

「バーテンダーさんすごい・・・」


 夜の世界の仕事人同士の話が盛り上がり始めた。が、私は彼女がここに来たことに驚いている。


「あら・・・竹内さん、ご迷惑でした?」

「やっぱり店の外に出るとメイドさんじゃないんだねぇ。今は杏ちゃんと呼んだほうがいいのかな?」

「はい。でも、自宅にもメイド服があるのは本当ですよ」

「ははは・・・」

「へぇ・・・竹内さんもそういう店に行くんですねぇ」


 意外そうな顔でこーちゃんが尋ねてくる。


「まあ、この前薄田社長のお供で行ってね。ちょっといろいろあって、ちょくちょく顔を出すことにしたのさ」

「やっぱり・・・ハンナちゃんがいいですか?」


 急に、お店にいるときには見せない表情で杏ちゃん訪ねてきた。が、私が答える前にこーちゃんが反応する?


「ん?ハンナちゃんというのは?」

「私の後輩のメイドさんなんですけど、始めていらしたときに、誤って竹内さんの頭にカクテルをかけてしまって・・・」

「あっちゃ~・・・」

「でも、竹内さんは優しいから、気にしないって言ってくれて、彼女のためにお店に来てくれたんですよ。席を蹴立てたり、二度と来ないって言われたら、ハンナちゃんクビになっていたから・・・」

「竹内さんらしいねぇ・・・で、その娘に惚れちゃったの?」

「そ、そんなじゃないですよ」

「じゃ、この杏ちゃん?」


 妙な方向に話が進みだした・・・。


「私はハンナちゃんの代打だから・・・」

「そんな卑下することないじゃない・・・まあ、ハンナちゃんのことも指名しないといけないと思っているけど、杏ちゃんにも会いにいくよ」

「あの・・・お店じゃルール違反なんですけど、今はプライベートだし・・・アドレス交換してもらってもいいですか?」

「ん?あ、ああ・・・」


 せがまれるままに、赤外線を使ってメールアドレスと電話番号を交換した。こーちゃんがやたらとにやにやしながらこちらを見ている。杏ちゃんは二杯目からは私のボトルを呑んでいるが、話を聞きながら彼女のグラスにつくっている水割りはやたらと濃いように見えた。


「すすきのに来るときは連絡くださいね。お店に寄る予定なくても・・・」

「ん、ああ、そうさせてもらうよ・・・」


 なんだかよくわからない。


「そうだ、竹内さんはどの辺に住んでいるんですか?」

「琴似の少し外れだけど・・・」

「あ、私も時々琴似で遊ぶことがあるから、今度、琴似で一緒に呑みませんか?」

「ああ、いいよ」


 なんだかすっかり杏ちゃんのペースだ。


「やった!連絡しますね・・・」


 興奮した様子の杏ちゃんは、しばらく談笑した後、上機嫌で先に帰っていった。




「竹内さん・・・やりますね・・・」

「ん?何が?」

「さっきの杏ちゃんって娘ですよ・・・あれは・・・」

「まあ、普通に機会があれば一緒に飲もうって話だろ・・・」

「にぶいっ!本当ににぶいっ!ちゃんと考えてみてください。彼女の行動にいろいろ思い当たるフシはありませんか?」


 冷静に考えればありすぎる。そもそも不意打ちでキスされているのだ・・・。


「営業じゃないのか?」

「ひどいっ!それはひどすぎますっ!プライベートっていっても、お店で行き先を聞き出して、閉店後にここに来たんですよっ!それだって、バレたらちょっとした問題になります。リスクを覚悟で、竹内さんを追ってきたんですから・・・」

「はぁ・・・」


 そう言われたところで、私にはどうしていいのかわからない。


「で、ちなみに話にでていたハンナちゃんと杏ちゃん、どっちが好みなんですか?」


 考えてもいなかった。どう答えたらいいものか。


「ん~ん・・・どっちもタイプは違うけど、かわいいと思うけど・・・」

「あぁぁぁ、鈍い上に優柔不断っ!こりゃまた大魚を逃すかっ!」


 実を言えば、始めてこの店に来たとき、薄田社長は電話で呼び出されて先に帰っていった。一人で呑んでいると、キャバ嬢やら学生やら女の子ばかりが来店し、カウンターを占領。私の周りには女の子ばかりだったことがある。私は彼女らの会話を聞きながらずっと呑んでいたのだが、後日、薄田社長と再来店したときに

、その様子をこーちゃんから聞くと社長は私を叱りつけた。


『なんてもったいないっ!そんなことしてちゃ本当に結婚できんぞっ!せめて話に参加して、電話番号ぐらいは・・・いや、あわよくばお持ち帰りで・・・』


 それ以来この店では、超奥手の竹内で通っている。否定はできないのだが。


「わかりました。これだけは約束してください」

「は、はあ・・・」

「後日、間違いなくさっきの彼女からは琴似で飲もうという誘いがあります。その時は、ちゃんとおしゃれにキメて、できれば、個室、二人でゆっくり話ができる店を選びましょう。そして、ちゃんと部屋は片付けておくことっ!琴似にはブティックホテルはありませんから・・・」

「は、はぁ・・・」

「はぁ、じゃありませんっ!据え膳食わぬは男の恥ですっ!」


 なんだか、こーちゃんが一人で盛り上がっている。どうしたものか・・・

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