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未読、既読に勝手に振り回されてる

作者: KMMK
掲載日:2026/02/16

LINEしてると辛い時が必ずある。

LINEって、どうしてこんなに残酷なんだろう。


 送信ボタンを押した瞬間から、時間の流れ方が変わる。

 とくに、好きな人に送ったLINEほど。


 35歳にもなって、こんなことで胸がざわつくなんて思わなかった。


 ──今日はありがとう。楽しかったね。


 会社の飲み会の帰り、駅のホームで打った一文。

 酔いはもう醒めていたのに、指先だけが熱を持っていた。


 彼女は23歳。入社したばかりの、新卒の子だ。

 十二歳差。干支が一周する。


 最初はただの飲み会だった。

 若い子たちの輪に、たまたま席が近かっただけ。


 「え、そんな昔の曲知ってるんですか?」


 そう言って笑った顔が、やけにまっすぐだった。


 かわいいものを集めるのが趣味らしい。

 小さなガラスの置き物や、限定のキャラクターグッズや、淡い色のポーチ。

 スマホの中には、コレクションの写真がずらりと並んでいると言っていた。


 「毎日楽しいですよ。友達とカラオケもよく行くし」


 屈託なく言えることが、少し羨ましかった。


 僕には、そんなふうに胸を張れるものがない。

 趣味らしい趣味もないし、気づけば友達とも疎遠になっていた。

 休日はスーパーに行って、洗濯をして、動画を流しっぱなしにして終わる。


 だからなのかもしれない。

 彼女とLINEが始まったとき、世界が少しだけ色づいた。


 ──今日はお疲れさまでした!


 最初の返信はすぐに来た。

 語尾に絵文字がついているだけで、心拍数が上がる。


 そこから、ぽつぽつとやり取りが続いた。


 「この前言ってたカフェ、行きました?」

 「まだです。今度友達と行こうと思ってて」


 “友達と”。


 その二文字に、いちいち反応してしまう自分が情けない。


 既読。


 それだけが表示されて、画面が止まる。


 たった数分のはずなのに、何十分にも感じる。

 彼女は今、何をしているんだろう。

 友達と笑っているのか。

 新しいコレクションを並べて写真を撮っているのか。

 それとも、別の誰かとLINEをしているのか。


 僕は、ソファに沈みながらスマホを握りしめる。


 35歳にもなって、通知音に人生を左右されるなんて。


 若いころと何も変わらない。

 いや、むしろ悪くなっている気さえする。


 あの頃は、世界が広かった。

 自分にも何かが起こると、本気で思えていた。


 でも今は違う。

 彼女のLINEが一日のハイライトになっている。


 それがどれほど偏った状態か、わかっている。

 わかっているのに、やめられない。


 ──今日、大学の友達とごはんなんです!


 楽しそうな文面に、胸がきゅっと縮む。


 僕のいない世界で、彼女の時間は豊かに流れている。

 僕のLINEは、その世界の端に引っかかっているだけの、通知の一つ。


 たぶん彼女にとって、僕は「会社のちょっと話しやすい先輩」だ。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 それでも、画面に名前が表示されるだけで、こんなにも救われる。


 ──今日もお疲れさまです。


 打っては消し、打っては消す。


 重くなりすぎないように。

 でも、軽すぎて埋もれないように。


 言葉を選ぶたびに、自分の立場が透けて見える。


 既読。


 また止まる。


 胸の奥が、じんわりと痛む。


 勝手に好きになって、

 勝手に期待して、

 勝手に振り回されている。


 彼女は何も悪くない。


 スマホの画面がふっと明るくなる。


 ──返信遅くなってすみません!今カラオケです笑


 “笑”。


 その一文字で、救われる自分がいる。


 同時に、少しだけ惨めな自分もいる。


 35歳になっても、恋愛というものは変わらない。

 むしろ、若いころより臆病で、狡くて、弱い。


 でも、それでも。


 返信が来るたびに、

 世界が少しだけ息を吹き返す。


 たった一つの通知に、

 こんなにも心を預けてしまう。


 LINEって、ほんとに辛い。


 それでも僕は、今日もまた、

 彼女の名前を探してしまう。

どうしたら気にならずにいられるのか。

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