第3章:ホワイトアウト・コンスピラシー ―雪の下の汚職を暴け―
1. 埋もれた街と、震える怒り
二月下旬。札幌は、観測史上最大の寒波に見舞われていた。主要幹線道路以外は除雪が放置され、住宅街の道は車一台通れない「白い迷宮」と化している。救急車が雪に阻まれ、高齢者が食料の買い出しにも行けない惨状が続いていた。
「所長、見て。これが阿久津が指示した『優先除雪マップ』よ」
凛がタブレットに映し出したのは、市内の除雪状況だ。画面の端に、作成責任者として〈建設局雪害対策部長 阿久津〉の名が冷たいフォントで浮かんでいる。次期市長の座を狙う野心家として知られ、札幌の雪を自分の出世の階段に利用していた。
マップ上では、阿久津の支持基盤となっている高級住宅街や、有力者の住むエリアだけがくっきりと青く塗られ、「除雪済み」と表示されている。対して、北区や東区の住宅街は真っ白なまま、まるで「市民ごと雪の下に埋めてしまえ」と言われているかのようだった。
「……阿久津と馬場。あいつら、雪を人質に取って票を稼ごうとしてやがる」
燈馬の瞳に、かつての孤児院で「お前たちは選ばれた人間じゃない」と虐げられた時の、静かな怒りが宿る。阿久津の裏で除雪現場を牛耳っているのが、除雪業者の元請けたちを束ねる「除雪連合会」の理事・馬場だ。逆らう業者には一件の仕事も回さず、言うことを聞く者にだけ甘い雪害予算を分け与える――業界では「除雪界のドン」とささやかれる存在。
そこへ、一人の男が事務所を訪れた。ドアを開けた瞬間、まとわりつくような雪混じりの冷気が流れ込む。
除雪業を営む佐藤だ。顔には寝不足と疲労の影が刻まれている。
「……頼む。俺の会社は馬場に睨まれて仕事を回してもらえない。連合会の飲み会で、馬場の言いなりになるのを断っただけでこれだ。だが、このままじゃ北区や東区の生活はどうなる。お願いだ。この『雪の独裁』を止めてくれ……!」
佐藤の肩から、溶けきらない雪がぽたりと床に落ちた。それは、街中に積み上がった絶望の縮図のようにも見えた。
2. 燈馬の演説 ― 凍った心に火を灯せ
燈馬は動いた。彼は氷河に命じ、SNSとカラスの伝声網を使って、市内の除雪業者とボランティアの学生たちを「モエレ沼公園」の広場に集結させた。
雪が吹き荒れる中、集まったのは千台を超える除雪車と、スコップを抱えた数千人の若者たち。 燈馬は一台の重機の屋根に飛び乗り、拡声器を手に取った。
「おい、みんな! 寒い中、ご苦労さん!」 燈馬の声が、熱量を帯びて響き渡る。
「役所の偉いさん(阿久津)は言った。『効率的な除雪のため、重要拠点を優先する』とな。だが、あいつらの言う重要拠点ってのは何だ? お偉いさんの玄関か? 組合トップの私有地か? 冗談じゃねえ!」
燈馬は、凍える人々に力強く指を突きつけた。
「この街で優先されるべきなのは、みんなが毎日通る道だ! 仕事や学校、買い物や通院に向かう歩道だ! そして、救急車が一秒でも早く駆け抜けられる命の道だろ!」
「俺たちは『どんぐり』だ。踏みつけられても死なねえ。雪に埋もれてたまるか! 阿久津や馬場が仕事を回さねえなら、俺たちが勝手にやってやろうじゃねえか! 今日一日、この街のすべての道をピカピカにして、あいつらの汚いツラに雪玉をぶつけてやろうぜ!」
「……やれるか、お前ら!」
地鳴りのような歓声が上がった。 「「「おおおおお!!!」」」 燈馬の放つ『熱』が、人々の心の氷を溶かし、巨大なうねりとなった。
3. 一斉除雪と、断罪の瞬間
直後、千台の除雪車が一斉にエンジンを始動させた。 氷河が空からルートを指示し、剛士が先頭に立って道を切り拓く。学生たちは凛の統率のもと、歩道を魔法のように掃き清めていく。わずか数時間で、札幌市内の「不通エリア」が消滅していった。
その頃、阿久津部長は馬場理事と料亭で祝杯を挙げていた。 「……これで市長の椅子は私のものです。市民は今頃、無能な現市長を呪っているでしょう」
だが、そこへ結衣が壁を突き抜けて現れた。 「あーあ、阿久津のおじさん。残念でしたー! ちょっと外をのぞいてごらんよ」
「なっ、何だと……!?」 阿久津が窓を開けると、そこには、完璧に除雪された道路をパレードのように進む市民たちの姿があった。
さらに、凛が警察の捜査員を引き連れて入室する。 「阿久津部長、および馬場理事。あなた方が隠蔽していた『優先除雪と引き換えの贈収賄記録』、および銀行口座の裏帳簿。……私が綺麗に『掃除(発掘)』しておきました」
結衣が金庫から透過して盗み出した証拠書類と、凛が復元したシュレッダー文書。 「……そんな、馬鹿な……。私は……次期市長になる男だぞ……!」
「……市長? 笑わせるな」 背後から現れた燈馬が、阿久津の胸ぐらを掴んだ。 「お前が市長になったら、札幌はただの巨大な冷蔵庫になっちまう。……冷え切った牢獄の中で、一生、雪の味でも噛み締めてな」
捜査員によって手錠をかけられ、無様に連行されていく阿久津と馬場。その姿は、市民がアップしたSNS動画を通じて瞬く間に拡散された。
4. どんぐりたちの春
数日後。市長室で、現市長から感謝状を手渡される5人の姿があった。
「……いやはや、君たちの『演説』には参ったよ。市始まって以来の、市民による自主除雪プロジェクトだ。これからは、君たちを『雪害対策特別顧問』に任命したいと思う」
「顧問、ねえ。凛、給料はどうなんだ?」
「悪くないわ。今までの便利屋稼業の十倍は固い数字よ」
事務所に戻った5人を待っていたのは、剛士が用意した豪快な「十勝牛のすき焼き」だ。
「……今回は、みんなの勝ちだ。あいつらに、俺たちの街は渡さない」 燈馬が熱い肉を口に運びながら、笑った。
「所長、次は『ゴミ拾いボランティア』のトップを狙おうよ! 私、また演説の動画撮るから!」
結衣の呑気な声が響き、札幌の街に、少しだけ早い春の足音が聞こえてきた。
燈馬: 「ふぅ……1000台の除雪車を率いるのは流石に疲れたぜ。ご褒美に評価ボタンをポチッとしてくれると、疲れも吹き飛ぶんだがな!」
凛: 「市長からの報酬も入ったし、次は事務所の備品を新調するわよ。あ、皆さんの感想やブックマークも、大切な『資産』として計上しておきますからね」
結衣: 「私の潜入シーン、かっこよかったでしょ!? 感想欄で褒めてくれないと壁に埋まっちゃうぞー!」
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