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第3話 話し

「だるい事になったな……」

 ケインがぽつりと呟いたその瞬間――


「ぐおっ!!」

 真正面から強烈な拳がケインの顔を抉る。思わずケインは顔を押さえ、驚きと痛みに眉を寄せる。


「なにしてんの!?」

 イリスも慌てて声を上げ、状況を把握できずにいる。


「なにしてんの、だと?こっちのセリフだ……」

 女性の声は静かだが怒気を含んでいる。


「あ?なんのことだ、依頼はきちんとやったぞ!」

 ケインは反抗的に言い返すが、女性は眉をひそめ、ますます険しい表情を見せる。


「私が言ったのは、人質の解放……それと盗品の回収だ!」

 女性の指先がわずかに指し示され、言葉に重みを添える。


「え、盗品……あ、あ〜……ごめんなさい、」

 ケインはすぐにひざまずき、頭を深く下げる。

「ええ、はや……」

「綺麗な土下座だな、」

 セラとレゼも思わず息を呑む。あまりの素早さと丁寧さに、目を丸くしてしまうほどだ。


「と言うことで、依頼料は金貨6枚から3枚に減らす。」

 女性の声には厳しさが漂い、ケインの動揺をさらに増幅させる。


「は!?そりゃ、なんでも……」

 ケインは言葉を詰まらせ、抗議しようとするが、女性は聞き入れる気配はない。


「あ?」

 女性の視線は鋭く、問いかけるようにケインを見据える。


「いえ、、それで結構です……」

 渋々ながらケインは答える。


 こうして話はなんとか終わり、女性は颯爽とその場を去っていった。

 セラとレゼは、緊張と安堵が入り混じった表情で見送るしかなかった。


「あの人は?」

 レゼがカウンターの方をちらりと指さしてそう尋ねると、ケインは椅子の背にどっかりと体を預け、面倒くさそうに説明を加えた。

 どうやら、あの人物はこのパーティーにしばしば仕事や依頼を持ってくる存在で、国に雇われている役人のような立場らしい。

 つまり、国からの直属の依頼ということになる。そのため、報酬は桁違いに高額なのだという。


「なるほどね、」

 レゼはグラスを片手で軽く回しながら、納得したように頷いた。


「とにかく、お前らはもう部屋に戻れ。ほれ、鍵だ。」

 ケインが無造作に鍵を投げる。木のテーブルに軽い音を立てて落ちたそれを拾い上げると、手のひらに収まった鍵は一つだけだった。


「また、一緒の部屋!? ねぇ!一人部屋ちょうだいよ!」

 セラが椅子から立ち上がり、両手を腰に当てて不満を隠さず声を張り上げる。


 だが、ケインから見れば、セラはまだまだ子供にしか映らない。

 このパーティーの年齢層は、リーダー格のケインとイリスが三十代。ダリウスが二十代後半。そして、レゼとエレーナは二十代前半だ。

 それに対してセラは十四歳で明らかに年若く、背丈も小さく、振る舞いに幼さが残っている。


 その他にも、大人の事情として宿の事もある。酒場の二階にある宿屋には、ほかの冒険者チームも当然のように泊まっており、部屋の数には限りがあった。

 分けたくても分けられないのだ。


「セラ、我慢しろ。」

 ケインが低く言い放つと、セラはぷいと顔をそむけ、肩をすくめる。


「はいはい……」

 不満げに返事をすると、レゼの手から鍵をひったくり、そのまま駆け足で階段を上がっていってしまった。


「まだ子供……」

 ケインが小さく呟く。


「少しね、でも頑張ってるよ。アイツも……」

 レゼはそう言って、席を立ち、セラの後を追った。


「分かってるよ、」

 ケインはぽつりと呟き、再びグラスを口に運んだ。


 ――――――――――――――――――――――


 部屋に戻ると、そこにはベッドの上で毛布に体をすっぽりと包み込み、まるで芋虫のように丸まっているセラの姿があった。

「セラ……」

 レゼが声をかけると、毛布の奥から くぐもったような低い声が返ってきた。


「なぁに、?」


「話しがあるんだが……」

 レゼは静かに近づき、ベッドの端に腰を下ろす。毛布がわずかに動き、セラの顔だけがのぞいた。


「ほら、これやる」

 レゼが懐から取り出したのは、あの屋敷で見つけた盗品の一つである、小さなナイフだった。


「なにこれ!?」

 セラは目を丸くし、思わず毛布を蹴飛ばして起き上がる。レゼの手からそれを受け取ると、刃の銀色が部屋の灯りを反射し、興奮気味に覗き込んだ彼女の顔がそこに映し出された。


「自分の身は自分で守れるようになれ……」

 レゼの声は静かだったが、その言葉には確かな重みがあった。


 ナイフを握りしめたセラは、不思議な感覚に包まれた。

 それは単に武器を渡されたのではない。――自分が信じられている。頼りにされている。遠回しにそう伝えられたような、そんな温かさが胸に広がっていく。


「うん! ありがと……」

 セラは力強く頷き、満面の笑みを浮かべた。


 その夜、彼女は久しぶりに、安心しきったように深い眠りについたのだった。


 ――――――――――――――――――――――


 部屋の扉を叩く軽いノックの音で、レゼはゆっくりと目を覚ました。

 隣を見ると、セラは毛布にすっぽり包まれて小さな寝息を立てている。昨日渡したナイフが、箱に収められたまま枕元に置かれていた。

「物騒だな……」

 ぼんやりそう思いながら、レゼは髪を手ぐしで整えもせず、寝癖で跳ねたままの頭を揺らして扉を開けた。


「なに?その髪型……」

 そこに立っていたのは、かなり軽装――ジャージ姿のエレーナだった。


「え、部屋間違えたか……」

 レゼは寝ぼけ眼でそう呟き、扉を閉めようとする。しかしその隙間に、すばやくエレーナが足をねじ込む。


「ケインに頼まれたの……あんたを鍛えろって。魔法がメインだけど、体力作りと基本的な武器の扱いぐらいは抑えられる。行くよ、その子起こさないうちに。」

 “その子”――もちろん、まだ眠っているセラのことだろう。


「ちょっ!?……わかったって、!」

 不満をこぼしながらも、手首を引っ張られるがままにレゼは部屋を後にし、半ば強引に朝のランニングへと連れ出された。


 ──

「疲れた!」

 街の広場に着くころには、レゼはベンチに倒れ込むように座り込み、水筒からごくごくと水をあおっていた。早朝の広場はまだ人影も少なく、涼しい風が吹き抜けている。


「……あんた、何歳?」

 横でストレッチをしていたエレーナが、唐突に問いかけてきた。


「それ必要かよ、」

 レゼは思わずむせながらも答える。


「……21。」

「……あっそ。私の方が年上、22。」

 エレーナはそう言い、当たり前のように隣に腰を下ろす。


「一歳差じゃねぇーか、」

 レゼが呆れたように言うと、エレーナはむすっとした顔で、氷の魔力を指先に集め始めた。空気がひんやりと変わり、手の中に二本の氷剣が形作られる。


「これ、模擬戦やるよ。」

 一本をレゼに差し出しながら淡々と告げる。


「は?今!?」

「そう。」


 その突拍子もない行動力に、レゼは半ば呆れる。

 だが、不思議と最近は能力の調子がいい。自分の持つ力――物理的な危機を事前に察知できるその感覚が、日常生活でも冴えてきている気がしていた。


(いける……かも、、)

 そんな自信を胸に、氷の剣を構えて挑んだレゼ。


 ──結果、惨敗。

 剣を交わす間もなく、あっさりと叩き伏せられた。


「なぜ、?」

 レゼは仰向けに倒れたまま青空を見つめ、息を切らしながら呟く。


「あんた、もう少し動けると思ってたんだけど……全然攻撃も当たるし、」

 エレーナは呆れ混じりに息を吐く。


「おかしい……攻撃が、危機としてわからない。」

 そう言ってレゼは勢いよく起き上がる。額や頬にはすでにいくつものたんこぶが浮かんでいた。


「明日も、これからも朝はこうして運動ね。じゃあ、また昼……」

「は!? おい……マジで言ってるか?毎日!?」

 驚くレゼの声に、エレーナは肩をすくめて返す。


「毎日付き合う私の気持ちにもなって。あの人に比べたら全然だよ。」


「あの人」――おそらく、レイジのことだろう。


「アイツと比べんなや……」

 地面に座り込み、悔しさを押し殺しながらも再び空を見上げるレゼ。


 そうして、“その日”の朝練は幕を閉じたのだった。


 ――――――――――――――――――――――


「お、レゼ!」

「レゼ君!」


 階段を降りて一階の酒場兼食堂に出ると、そこにはイリスとダリウスがテーブルを囲み、昼食を取っていた。焼きたてのパンの香りや、スープの湯気が漂う中、二人はにこやかに手を挙げてレゼを迎える。その隣には、すでにエレーナが腰を下ろしている。


「おう、、ケインは?」

 辺りをざっと見回すが、リーダーの姿はない。


 イリスがスプーンを口に運びながら、肩をすくめて答えた。

「ああ、アイツは今エリシア、昨日いた紫色の髪色をした女のところにいる。」


「なんで?」

 レゼが首を傾げると、イリスは苦い顔でコーヒーを啜り、一言。


「あのバカへましたから次の依頼をすぐ貰いに行った。」


「ほんと、絶対気まずいのにあの人メンタル強いよね、、」

「全くだ……」


 呆れたようにダリウスが相槌を打ち、イリスも苦笑を漏らしながらパンをちぎって食べ続ける。


「だから、盗品持ってこうって言ったのに……」

 セラが横から口を挟み、子供のように胸を張る。

「あたしを子供扱いするからだね!」

 ケインの失態を、これ以上なく嬉しそうに笑っていた。


 そんな様子を一瞥しながら、イリスはすぐに本題を切り出す。

「って事で、レゼ……武器買いに行くよ」

 言うが早いか、レゼの肩にがっしりと腕を回して引き寄せる。


「僕も付き合う。」

 ダリウスが落ち着いた声で言葉を添える。

「レゼ君は、弓?それとも剣?双剣とか、色々スタイルがあるけど……」

 どうやら彼らが集まっていたのは、レゼのための武器調達が目的らしい。


「なぁエレーナ、剣は何教えてるんだ?」

 イリスが視線を向けると、エレーナは気だるげに答えた。

「ん?ああ、、えっと普通の片手剣のやつ……」


「ふむ……」

 イリスは腕を組み、しばし思案するように眉をひそめる。

「ここら辺で良い剣の店か……」


 すると、ダリウスが手を挙げた。

「ここら辺で良いところを知ってる。行きつけの店なんだが、、丁度矢が欲しくてさ。そのついでに来るかい?」


 三人は行く気満々だ。しかし一人、エレーナは苦々しい顔をしていた。

「私はパス。そいつの相手は疲れるから、、」


 だが、イリスは容赦しない。

「ダメだ。エレーナも来い、チームなんだから、私らは……」

 そう言いながら腕を回し、肩を強引に組む。


「ええ…………わかったわよ、、」

 渋々ながらもエレーナは立ち上がり、肩をすくめた。


 こうして五人は、昼下がりの街並みへと歩き出し、武器屋を目指すのだった。


 ――――――――――――――――――――――


「セラはどうするの?武器、」

 イリスがそう聞くと、セラはぱっと顔を輝かせ、腰に差していた短いナイフをすぐさま抜いて見せた。

「レゼから貰ったこれがあるから要らない!」

 刃を軽く振ってきらりと光らせると、無邪気に笑みを浮かべる。

 よほど気に入ったらしく、宝物を自慢する子供のように満面の笑みだ。

「そうか、良いナイフだな」

 イリスが頷くと、セラは胸を張り、ますます嬉しそうだった。


 ――武器屋――


「やっしゃっい!いらっしゃっい!何をお探しで!?」

 店の扉を開けると同時に、店主の張り上げた声が飛び込んできた。

 ごつい体格の男がカウンター越しに身を乗り出し、両手を広げて出迎えてくる。異様に元気で、その勢いに一行は一瞬たじろぐ。


 だが、視線を巡らせた店主が常連の姿を見つけると、さらに目を輝かせた。

「ダリウス!!会いたかったっぜ!My brother!」

 嬉しさ全開で駆け寄るその勢いに、空気が一気に明るくなる。

「おう!待たせな、矢をくれ、それと剣……」

「任せろよ!」

 固く拳をぶつけ合う二人の姿からは、長年の付き合いが滲んでいた。


「……テンション高すぎじゃない、?」

 セラが小声で呟くと、イリスもやや引き気味に答える。

「そ、そうだな、」

「は〜あぁ、」

 呆れ混じりのため息を吐いたのはエレーナ。対照的に、二人の男は全開で盛り上がっている。


「この剣、どうだい!?ダイヤモンドで出来てるんだ、めちゃくちゃ頑丈で持ち主の可能性を最大限高めてくれる!!」

 店主は勢いそのままに奥からちょうどいい大きさのダイヤで出来ている剣を運んできた。刃全体が鈍く光り、見るからに重厚。だが、持ってみると扱いやすく軽い。

 念の為、エレーナの解析眼によるとどうやら本物のようだ。

 彼の顔は自信に満ちている。


「……じゃあ、これで……」

 レゼは迷うことなく答えた。

「え!もう決めちゃうの!?もっと他の見ても、、」

 イリスが慌てて止めるが、レゼは一番最初に差し出されたものこそ運命だと思ったのだろう。


「レゼ君なら、上手く扱えるんじゃないかな」

 ダリウスが口を挟み、頷く。

「なるほどね、わかった。レゼが決めるならいいと思うよ、」

 イリスも渋々ながら納得した。


「値段は?」

 レゼが尋ねると、店主は胸を張って答える。

「金貨4枚!」

 即答に場が凍りつく。イリスもダリウスも思わず目を見開いた。


「ちょっと高すぎるだろ……」

 苦い表情を浮かべる二人。だが次の瞬間、店主はにかっと笑って言った。

「まぁダリウスの顔だからな、友達価格で金貨2枚でいいぜ!」


「まぁ……半分は僕も出すよ、」

 ダリウスが当然のように言った。

「いいのか!?」

 レゼが驚きの声を上げる。彼の財布には前回の稼ぎで金貨1枚しか入っていない。足りないことを、ダリウスはとっくに承知していた。

「まぁ、後輩の最初の武器だしね!」

 爽やかに笑う先輩の姿に、レゼは胸が熱くなる。


 こうして、二人で金貨を出し合い、レゼはついに初めての正式な武器を手に入れた。


 ――夜、酒場――


 四人で机を囲み、買ったばかりの剣を眺めながら話を弾ませていると、酒場の扉が勢いよく開いた。

「……っはぁ、っはぁ……」

 入ってきたのはケイン。口から血を吐き、壁にもたれながら足を引きずっている。


「おい!どうしたその傷!?」

 イリスが真っ先に駆け寄る。顔を青ざめさせ、ケインの体を支えた。


 だが本人は唇の端を吊り上げ、息苦しそうに笑った。

「あのクソ女と交渉して……仕事もらったぜ……!賭け事をしてな、、ギリ勝った、危うく地下労働させられるところだったぜ……なんとか奴隷を出して皇帝を負かすことができた……」

 咳き込みながらも、どこか誇らしげに言う。


「ほんと呆れる、バカかよ、」

 イリスは眉間に皺を寄せ、肩を落とす。

 ケインの無謀さに呆れるというより、もう諦めに近い。


 ダリウスも酒を持つ手を止め、冷ややかな視線を向けていた。

 そうしてケインは血を拭きつつ、何事もなかったかのように次の依頼の話しを始めたのだった。



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