第1話 出会い
光歴24年
――森の奥深く、薄暗いダンジョンの中――
重厚な岩壁に反響する剣のぶつかる音が、洞窟全体に鳴り響く。
数人の冒険者パーティが、無数の魔物と必死に戦っていた。
「ったく!なんて量だ!」
金髪の男剣士が叫ぶ。彼の前に立ちはだかるのは、2メートル近くもあるウサギ型のモンスター。巨大な爪が空気を切るたび、地面に衝撃が走る。
「無駄口叩くな!」
ガタイのいい女性剣士がそう言ってチームに喝を入れる。
その背後では、氷の剣が無数の軌跡を描きながら飛び回り、魔物を次々と粉砕していく。冷気が洞窟内に漂い、白い蒸気となって辺りを覆う。
「気をつけて!コイツら、数も多いしランクも高い!B級はあるよ!」
魔法使いが解析を続けながら警告する。彼女の瞳は魔物の動きを正確に追い、次の攻撃を瞬時に計算していた。
その戦場の中、ひときわ異質な存在があった。
「ブラストフレア……」
男は杖を使わず、低く、しかし鋭い声で唱える。
洞窟内の空気が一瞬で震え、魔物たちは凄まじい爆炎に巻き込まれ、炎と衝撃で粉々に消し飛ぶ。
「すごい……」
その時、その男の後ろに隠れていた15歳程の少女は後ろから顔を出し、思わず目を見開く。
炎の残光が彼女の頬を照らし、呼吸が荒くなる。
「爆発魔法……やるな!レイジ!」
男剣士が声を上げる。レイジという名前のその男に、戦場の中で軽くちょっかいをかけていた。
「今日は、魔法の調子がいいな、」
レイジはそう言って微笑む、
「にしても、、このガキ……何者だよ、
いきなりこの奥深くの洞窟に迷い込んで、素性もわからねえし……」
男は少女を睨むように見つめる。
「うるさい……」
少女は反抗的に身を引きながらも、鋭い眼差しを向ける。
「んだと!」
「リーダーは、顔怖いですからね……」
「………」
男はパーティのリーダーであるらしく、仲間から弄られてはいたが、戦場での緊張感は彼の存在感を一層際立たせていた。
男が近づくと、少女は無意識に後ろへ下がる。
その瞬間、魔物が再び猛然と襲いかかる。
「まずい!」
男は剣を構え、少女を庇うように立ち塞がる。
その瞬間、洞窟全体に爆発の閃光が走った。
レイジが先に魔物に爆発魔法を叩き込む。
轟音と共に魔物は跡形もなく吹き飛び、火花と煙が辺りを覆う。
少女は胸を撫で下ろすが、安心したのも束の間、瓦礫が頭上から崩れ落ちてきた。
煙と炎の中、瓦礫が少女めがけて迫る。
「しまった!」
レイジは一瞬で飛び出し、少女を弾き飛ばす。
「レイジ!」
リーダーである男が叫ぶ。しかし、レイジは瓦礫の下に押し潰されてしまった。
「嘘……」
洞窟内に沈黙が訪れる。爆発の余波で空気は焦げた匂いを帯び、戦場が凍りついた。
少女の瞳に、絶望と恐怖が交錯する。
――――――――――――――――――――――
マルシオン王国の端。
まだ昼過ぎだが、裏路地にはかなり薄暗い雰囲気が漂っている。
そこは治安が悪く、社会からはみ出した者たちが屯していた。
「おい!落ちこぼれのレゼさん〜、儲けそうな依頼あったか〜?」
「やめとけよ、アイツにそんなわかりきった事を……!」
「それもそうか、ハッハッハッ!」
「うっせ、」
上着のポケットに手を入れて歩く男––レゼ。
変な輩に落ちこぼれと馬鹿にされ、1日分の食費のために必死に稼ぐ、そんな日々を送っている。
(どいつもこいつも、)
レゼは周囲を睨みながら歩き続け、王国内のギルドにたどり着いた。
「依頼は確かに、、ほらよ報酬の銅硬貨二枚だ」
ギルドにいる白髪の受付のおじさんが、淡々とレゼに銅硬貨を渡す。
レゼはぽかんとその光景を見つめた。
「は?銀硬貨だったじゃねぇーか!詐欺か?、騙したな!」
「ゴブリン退治!それもたかが、5体。銅硬貨あげるだけでもありがたく思えよな、」
受付の男は言うと、すぐに新聞に目を移す。
渋々銅硬貨を受け取ったレゼは、酒場へ向かった。
「1番安いのくれ」
「あいよ、」
時刻は夕方、依頼を終えた冒険者パーティが次々と酒場に現れ、人々で賑わっていた。
レゼは酒場の隅にひと席空けて座り、静かに誰かを待っている。
今日は、久しぶりに冒険者パーティのメンバーとなった兄、レイジと会う約束をしていた。
久しぶりの再会、そしてレイジの稼ぎもあって、2人は最近の話や依頼の話でお互い助け合うことが恒例になっていた。
しかし、レイジは約束の時間を30分も過ぎても現れない。
レイジは治癒魔法と、上級者しか使えない爆破魔法を使える。
一方、レゼの能力は物理的な危険を察知する程度。 だが察知能力は少し鈍感なところがあり、完璧に見えるわけではない。落ちこぼれと言われる理由はそこにあった。
(遅いな……)
視線を巡らせると、金髪の男と数人の男女が酒場に入ってきた。
見覚えのある顔、レイジの冒険者パーティーだ。
だが、レイジはいない。
「レゼ、ここにいたか、探したぞ。」
金髪の男は空けていた席に座る。
「何飲みます?」
店員が聞くも、ケインは首を横に振る。
「大丈夫だ。直ぐ出る。お前らは外で待ってろ、お前はここだ。」
パーティーメンバーは酒場の外に出て行き、残ったのは15歳程の少女だけだった。
「俺の名前は、ケイン・ハルヴァード、
レゼ・ヴァルネス、レイジの弟……合ってるよな?」
「そうだが、何の用だ?レイジは?見当たらないが、換金にでも行ってるのか?」
レゼが尋ねると、ケインは黙り込み、深呼吸のあと一言告げた。
「レイジは死んだ。」
「は……?」
レゼは頭の中で理解が追いつかない。
レイジは強く、パーティ内でもトップクラスのはずなのに……
「なんでだよ……なんでアイツが死ぬんだよ!」
酒場が静まり返る。
「レイジは強かった、だがコイツを庇って死んだ。」
ケインが指を差した先には、少女が立っていた。
「ごめん、」
少女は頭を下げる。
「誰?」
「知らん、だがなお前を探したのはコイツを預かって欲しいからだ。」
(預かる?ふざけんなよ、そもそもこの子のせいにして自分は被害者ヅラか?)
「とまぁ、そういう訳だ。預かるというか、そいつは全く俺たちと合わない。だが、レイジとは合っていた。その弟なら大丈夫だろうと思った訳だ。じゃあな、」
ケインが立ち上がろうとした瞬間、レゼはケインを殴った。
「ちょっと!?」
少女は驚き、ケインは腫れた頬を押さえて動揺する。
「は、?いきなり殴りやがって……わかったよ、、
そういう事なら付き合ってやるよ。」
ケインのコートが靡き、酒場での喧嘩が始まる。
野次馬が高らかに笑いながら観戦する中、少女は混乱していた。
ケインが剣を床に置き拳を構える。
レゼは耳から聞こえる風を切る音と拳の軌道を察知し、スローモーションのように見える攻撃を避ける。
いつもは、攻撃がかすかに見えるほどだが、今日は能力の調子がやけに良く後も簡単に避けることができた。
そうして、ケインが倒れ込む。
だが、またしても殴りかかって来た。
もう一回避けよう、そうしようとしたその時、
ケインはレゼが飲んでいた酒をぶっかけ、レゼの注意を逸らす。
その隙に拳が頬を打ち、レゼは簡単に倒れた。
(くらくらする、)
視界には心配そうに見つめる少女と、酒場を出て行くケインの姿。
レゼの目には涙が浮かぶ。
――――――――――――――――――――――
「あのさ……怒ってる?」
暗い夜道を歩く後ろで、少女が話しかける。
レゼの頬は、赤く腫れている。
「あ?怒ってねえよ、」
「あのさ、お兄さんの事は……」
言いかけた少女の言葉を、レゼは遮った。
「レイジの話はするな。少なくとも暫くは……まだアイツらから聞いてない、何の依頼で死んだのか、お前は知らないんだろ?」
少女は首を縦に振る。
「うん、気づいたら洞窟で……その、記憶がその前の無くて、」
「そうかよ、」
2人は歩き続けた。
服装は貧相で、レゼは汚れた革のジャケットと短剣一本、少女は薄手の長袖に長ズボン、リュックを背負っていた。
気づけば朝になっていた。
「言っとくけどよ、食べる物とかほぼ無いぞ。1人でもやばかったのに、2人分のお金なんて……」
だが、その時目の前に農園を見つけると、虫のモンスターが大量に発生していた。
「何だあれ、気持ち悪い。」
レゼが言うと、少女は耳打ちした。
「ここで、あの人助ければ何か食べ物もらえるかも、」
レゼは短剣を取り出し、虫のモンスターを退治。
「おお、冒険者だったんですか!
どうぞ、助けてもらったお礼に……」
お礼として、果物や野菜をもらい、リュックに詰める。
「入るか?」
「なんとか……」
「お前、名前は?」
レゼがそう言って、少女に名前を尋ねる。
「セラ、、14歳……」
「そうか、、」
2人で食糧を確保し、そうしてギルドに向かった。
ギルドには依頼が少なく、銀硬貨や金硬貨の依頼は残っていなかった。
最も、金硬貨の依頼なんて殆どないが、
残っているのは銅硬貨の物ばかり、
その時、女性が男達に絡まれているのを見つけ、セラはレゼを促す。
「マジかよ、」
セラがレゼの瞳を見つめる。
「分かったよ、」
レゼが女性に近づくと、次の瞬間周りの男達が倒れ続いてレゼに向かって氷の刃が襲いかかる。
慌てて回避すると女性は少し驚いたように見つめるが直ぐに、冷静を取り戻したようだ。
「助けようとしてくれたの?ありがと、もう少しであなたの顔ぐちゃぐちゃにするところだった。
でも、助けは要らないから、」
そう言って、彼女は冒険者チームのメンバーらしくパーティーに戻っていった。
「ねぇ、あれって」
セラが指差すのは、ケインのパーティーメンバー。
女性はそこに入っていった。どうやら、ケインの所の奴だったようだ。
なぜ依頼がないのか、受付で聞いてみると、
最近は、ケインのパーティーが依頼を刈り尽くしていたようだ。
「嘘だろ、」
レゼは落ち込む。
だが、その時何を思ったのかセラは直ぐにケインの元へ行き、パーティーの加入を願う。
最初は止めるレゼだったが、セラは聞かない。
「私たちをパーティーに入れて」
「んだと?、、いいだろう。」
ケインの予想外の返事に、レゼは耳を疑った。
「だが、条件だ。
あそこに水晶玉がある。あれは、当人のランクを表す。ランクは下からE級、D級、C級、B級、A級そして、S級、SS級がある。最高はそれをも超えるSSSだが、A級に達すれば、入団を許可しよう。」
悪い笑みを浮かべている。
最後に測ったのは、D級でありA級冒険者など滅多にいない。
最もこの冒険者チームも全員A級以上が条件となっている。
ケインは確かS級、最初から入れる気が無いようだ。
「だが!そのガキを捨てるならB級でもいいぞ?」
(何バカなこと言ってんだ……レイジはこんな所に入っていたのか、)
「セラ……こんな奴のところ入らなくてもいい……」
「でも、ここは1番稼ぎがいいと思うよ?」
それはごもっともな意見だ。
そうして、レゼは渋々入団試験を受けることになった。
「……はぁ、」
水晶玉の前に立ち、レゼは手をかざす。
そうして、水晶玉は光を放つ。
E級、D級、そこからまったく進まない。
「ふっ、ここまでだな……」
「いけるよ……」
セラがレゼに近づく。
その時、水晶玉の光の色が少しずつ変わっていく。
「嘘だろ、」
「……!」
パーティーメンバーも驚きながらも様子を伺う。
C級、B級、そしてA級、
水晶玉に映し出されたその階級にケインは驚きを隠しきれなかった。
「マジかよ、落ちこぼれが……A級!?」
「うそ、」
レゼ本人でさえも驚いていた。
だが、ケインは気づいていた。
(あの水晶玉、微かに光ったあの色……S級の色……?)
「これでいいでしょ?入れて」
ケインがメンバーを見回す。
「いいんじゃない?」
先ほどの女性がそう言ってケインを見つめた。
「ああ、ったく…分かったよ……加入を許可する、」
だが、その時レゼは言った。
「セラを捨てるとか言ったか?レイジが命を捨ててまで守った子だ。捨てる訳ないだろ……」
レゼはそう言ってケインを睨む。
「……わかってる、すまなかった………」
ケインは頭を下げた。
レゼはケインを睨みながらも、なんとかパーティに加わることができた。
なんとかこれで収入を得られるようになったが、レゼはまだやるべき事、依頼の詳細を聞かなければならなかった。




