第5話:誤解と事件、そして少しずつ近づく心
ある日の午後、店に慌ただしい足音が響いた。
「レナ様!大変です!領地内で不審な毒殺事件が発生したそうです!」
ミラが息を切らせながら報告する。前世の知識が頭をかすめる――あの悪役令嬢ルートで、私を陥れた陰謀の匂いだ。
「落ち着いて、まず情報を整理しましょう」
私は深呼吸し、冷静に状況を聞く。被害は一件、症状は軽度だったが、疑いは瞬く間に貴族社会へ広がる。悪役令嬢である私は、再び標的になる可能性がある。
そこへセドリックが駆けつけた。
「話は聞いた。お前が関わっているわけではないと、私が保証する」
その言葉に、胸の奥が少し熱くなる。前世では彼にすら疑われ、孤独に破滅した私だった。今は違う――信頼を築く力がある。
「まずは被害者の元へ行き、薬草で回復を助けましょう」
私は籠に薬草と調合済みの薬を詰め、セドリックと共に現場へ向かう。途中、領民の子供たちが駆け寄ってくる。咳や発熱は軽度だが、彼らの不安は大きい。
「大丈夫、これで少しは楽になるはずです」
ミントとレモンバーム、タイムを用いた簡易の解毒茶を手渡す。子供たちの目が少しずつ輝きを取り戻す瞬間、心の奥が温かくなる。これこそ、私が選んだ生き方――人を助ける喜びだ。
その後、領地内の調査で事件の原因が誤解による食材の混入だと判明する。元ゲームの「悪役令嬢の破滅フラグ」は、もはやここにはない。
「つまり、誰も私を陥れようとはしていなかったのね」
私は安堵と少しの悔しさを胸に、事件の顛末を整理する。
夕方、店に戻ると、セドリックが静かに微笑む。
「今日のことで、お前が本当に薬師として人を助けられる存在だとわかった」
私は頬を少し赤らめ、微笑み返す。
「ありがとう、セドリック。これからも一緒に、困っている人を助けてくれる?」
彼は短く頷き、微かな笑みを浮かべた。
庭の夕陽が二人を包み込む。小さな薬草店は、今日も人々の希望を繋ぐ場所として、静かに輝いていた。
そして、前世で刻まれた悪役令嬢の烙印は、少しずつ、私自身の手で塗り替えられていく――。
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