第4話:疫病の知らせと侯爵家次男の協力
朝、店に届いた報せに、私は息を飲んだ。
「領地内で、風邪の症状を訴える者が急増……しかも一部は重症です」
ミラが手渡した手紙には、侯爵家の医務官からの緊急連絡が記されていた。前世の知識が頭を駆け巡る。これは、単なる咳や熱の流行では済まない――早急に対応が必要だ。
「セドリックに知らせなければ」
店の扉を開けると、偶然にもセドリックが立っていた。まるで私の決意を見透かしたかのようだ。
「レナ、状況を聞いた。私も手伝う。領民を守るのは、侯爵家の務めだ」
その声には、以前見せた冷徹さはなく、真剣さだけが残っている。
「わかりました。まずは、薬の配布計画を立てましょう」
私は店の棚に薬草を並べ直し、前世で覚えたレシピと組み合わせを頭の中で組み立てる。
タイム、エキナセア、レモンバーム――免疫力を上げ、咳や発熱を和らげる処方を、できるだけ効率よく大量に作る必要がある。
「少しでも早く、村に届ける。セドリック、運搬はお願いできるか?」
「もちろんだ。領民のためなら、私も全力を尽くす」
互いに目を合わせ、短く頷く。言葉は少なくとも、二人の間に信頼が生まれている。
しかし、店の評判が広まるにつれ、貴族社会からの微妙な視線も感じるようになった。
「侯爵令嬢が庶民相手に何をしているのかしら……」
街の噂や冷ややかな視線が、私たちの活動を試すようだ。
「気にすることはありません。必要なのは、困っている人を助けることだけ」
ミラがそっと言い、私も頷いた。確かに、見栄よりも実際の結果が大事だ。
その日の午後、薬を詰めた箱を馬車に積み込み、セドリックと共に村へ向かう。
道中、彼が静かに話しかけてくる。
「領民のために動くお前の姿を見て、考え方が変わった。悪役令嬢……そんなことは関係ない」
その言葉に、胸が少し熱くなる。前世の悲劇を繰り返さないために、私は自分の道を選んだ――その決意を、彼も認めてくれているのだ。
村に到着すると、疲れ切った村人たちが次々と薬を受け取り、表情が少しずつ明るくなる。咳をしていた子供も、薬を口にして顔を上げる。
「ありがとうございます……」
小さな声に、胸の奥が温かくなる。これが、私の望んだ生き方――人を助ける喜びだ。
夕暮れ、店に戻ると、セドリックが馬車から荷物を降ろしている。
「今日一日で、少しは役に立てたか」
「ええ。まだ道半ばですが、これからも続けます」
微かに笑みを交わす二人。小さな薬草店と侯爵家次男、そして一歩ずつ進む新しい物語――その始まりを、静かに噛み締めるのだった。




