舞い降りる少女の福〈音〉。
今回はリィナについてのお話です。
一話から三話の短い間の心の中身をお楽しみ頂けたらと思います。
一話の少し前からスタートです、はい。
「お前ちょっとこいつの人生変えてきてくれる?」
最初その言葉を聞いたとき、私は思わず聞き返してしまった。
「え、どういうことですか?」
「だからね、この〈茅ヶ崎浬南〉って子?あまりに可哀想だから適当に幸福にしてきてってこと、分かる?」
「それはつまり、人間界に行ってこいと?」
「そういうこと」
近頃、私が人間界にのゲームやアニメに入り浸っていることを知っていた神様は君の方が暇だし、詳しいでしょ、と半ば強制的に空の上から私を追い出した。
そんな理由で私は人間界に来ています。
現在はターゲット〈茅ヶ崎浬南〉さんを追跡中。
幸福にすることは相手のことをよく知らなければ、とても難しいことです。
普通の人は私のことなんて見えないから、隠れる必要も無いのですが、そこはもう雰囲気に服まで「ワトソ○君」とか言ってそうな人に合わせてみました。
一人で登校している浬南さん。
周りには大勢の学生がいるのに、いつも独りぼっちです。
登校後、授業が始まりました。
なのに彼はじっと一方向を見ています。
その先には毛先の跳ねた茶髪の可愛い女の子がいる。
スタイル良いな、食べちゃいた……。
気を取り直して放課後、彼は椅子の上でじっとロープの輪を見つめています。
大抵は二時間ほどそうしてから寝てしまいます。
家の中はすごい荒れようで、とても人が住んでいるとは思えません。
学校、下校途中に苛められ、生傷を作り、家ではガラスの灰皿を投げつけられ頭から血を流していました。
けれど、彼の寝顔はそんなこと忘れているかのように幸せそうです。
この時間だけが彼にとっての休息なのでしょう。
ああ、不幸ってこういうことなんだ。
他人事ではなく、まるで自分のことのように思ってしまった。
寝てしまった彼から目をそらし、机の上を見ると、二つの写真が飾ってあった。
一枚は学校で彼が見つめていた少女が写っている。
もう一枚は仲が良さそうに笑っている彼の家族の写真。
そこには、その日観察した彼には無い本当の姿があった。
「…………」
写真には四人の人物が写っている。
彼にその両親、もう一人は妹、だろうか。
彼より小さく幼い少女で、長い髪をポニーテールにまとめて、整った顔が印象的だ。
幸せだった頃の日、彼にもこんな日があったのだと思う。
それから一週間後、私は彼に話しかけた。
「パッパラパ~♪おめでとうございます!茅ヶ崎浬南さん」
驚いた彼はバランスを崩して、椅子から落ちてしまう。
私を見て何かを悟った彼は言った。
「――――俺は天国、でいいんだよな?」
悲しくなってしまった。
彼はこんなにも死にたがっている。
何でもっと早く救えなかったのだろう。
どうにもならない気持ちで胸が一杯になる。
このときかも知れない、彼を好きになったのは。
死にたがりを見て、惚れるなんてどうかしてる。
でも、そんな彼を幸せにしてあげたい。
だから私は彼を刺したのだ。
昏倒した彼をベッドの上に寝かせる。
苦しそうにうなされている彼が何かを呟いたが、聞こえない。
すると、早送りしたかのように髪が伸び始め、風船が膨らむかのように胸が大きくなった。
体つきも女性のそれになり、別人のようだ。
私はそんな彼にそっと唇を合わせた。
表面だけの軽いキス。
「あなたは私が幸せにして見せます」
それが誓い、私の願い。
苦しそうな彼の顔が少しだけ穏やかになった気がした。
私は彼を見つめてから部屋を出た。
翌日、驚くことに彼は女の子のまま学校に行ってしまった。
面白そうなので、私は急いでいる彼を追いかける。
何だかとても色っぽい。
本人は気付いていないだろうが、すれ違う人々がみんな彼を振り向いている。
そりゃそうだよ、すごく美人だもん。
そして学校に着いた彼は扉を開ける。
私は先回りしておいて、ゲームをしている振りをする。
扉を開けたときの顔といったらね、可愛いの一言しか言えません。
ほんとに抱きつきたい、襲いたい。
「どういうことだよ!〈世界を好きにできる力〉をくれたんじゃなかったのかよ」
でもって、怒る彼もまた可愛いんです。
高ぶる感情、主に欲望を抑えながらも力について説明する。
デコピンされると嬉しいな。
え?
Mじゃないですよ、彼だから嬉しいんです。
力によって作られた、厚い雲に覆われた空を見る彼。
そこにあの少女話しかけてきた。
「あ、あの――――」
彼を紹介しようとしたら、口を塞がれた。
急接近して、彼の匂いがする。
「んーっ!むぐ、むーっ!(萌え死ぬっ!死ぬ!死ぬって!)」
あのとき私はそんなことを言っていた。
幸い彼には気付かれなかったようだ。
その後は学校からあまり離れていない大きな公園に行った。
彼が嬉しそうに笑っているのを見て、私も嬉しくなった。
でも、少し胸が痛い。
彼はあの少女のことを思っている。
その思いの中に私はいない。
彼に抱きついた。
もっと私を見てほしい、その一心で。
少しして、頭に水が降ってきた。
雨?
上を見ると、彼が泣いていた。
「……しばらく、こうしてもらってて……いい?」
少しでも彼が楽になるように、力一杯彼を抱きしめた。
こんなことで嬉しいのなら、いくらでも私はやってやる。
可愛い少女が涙目で至近距離。
直後にまあ、何だ、理性が壊れた。
彼を知って、まだ二週間も経っていない。
だが、私は世界中の誰よりも彼が好きだ。
それだけは確かな感情。
変わらない思い。
「何笑ってんだ?」
「ん~、何でもないです」
日も暮れてしまい、私たちは彼の家へと向かっている。
「~♪」
「何歌ってんだよ」
「人間幸せなときは歌うのが一番良いんです☆」
「それがアニソンでもか?」
「はい」
今はまだ気付いてくれなくたっていい。
私は彼の傍にいる――――そう決めたのだから。
今日一日だけでも色々な彼をを知ることが出来た。
彼の全てを知りたい。
いつまでもそんな日が続けばいい。
やがて家に着き、私はずっと気になっていたことを尋ねた。
「あの写真の娘、妹さんですか?」
「……ああ、死んだんだ。二年前、事故でな」
「…………」
「気にしなくていいよ」
「でも……」
何だかおかしな空気になってしまった。
何も考えずに言ってしまった私は、俯いてしまう。
ばさりと何かの落ちる音がした。
顔を上げると、彼が床にロープを落としていた。
「もう俺には必要ないかもな、ありがとう、リィナ」
「…………」
かあっと頬が熱くなるのを感じた。
駄目だ、何も考えられない。
「ま……また明日!」
「じゃあな」
彼が片手をあげるのを認めると、私は急いで外に出た。
心臓が速く鼓動を打つ音が聴こえる。
幸せにする側が幸せにされてしまった。
私は神様。
彼は人間。
二人は結ばれてはいけないのだろうか。
彼はあの少女が好きなのだ。
叶わない恋。
様々なことを考えてしまう。
とりあえず考えることを止めることにする。
「はあ……」
空を見上げると、一面に光る星があった。
これからのことはこれから考えよう。
そう思った私はまだ収まらない熱を抑え、闇夜の空に飛んでいった――――。
作者 「純情だったんだ……」
リィナ「何かいけませんか?自分で書いたくせに……」
作者 「暴走してたじゃん、軌道修正だよ。考えてるラストに行けないもん」
リィナ「まあ良いですけど」
作者 「てかここは初登場じゃない?四話目なのに。何か話すこと無いかな~?」
リィナ「じゃあ鈴ちゃんの可愛さについて語……」
作者 「るわけにはいかないので、次回予告~」
リィナ「私、浬南さん(鈴ちゃん)とデートしてきました!」
作者 「何気に長いので前編後編に分かれるかもしれません」
リィナ「てか更新遅くない?」
作者 「そろそろ化け物たちにも出てきてもらいたいな~」
リィナ「会話に困ったら無視する手段止めて?たまに本編でもあるよね」
作者 「本人がデートって思ってるかはともかくシリアスの影が!」
リィナ「じっくり後で今後について話し合いましょうか?(普通のナイフを持ちながら)」
作者 「…………はい」
リィナ「ではでは~(作者を引きずりながら)」
作者 「……(涙)」