ある日の〈記憶〉。
ごめんなさい!!
諸事情により何日かに一回の投稿に戻させて頂きます。
成績が……うん。
後書きも今回は省略していますのでご了承下さいませ。
始めに見えたのは涙を流して俯いているリィナだった。
「ーーーーーーーー」
その名を呼んでも口から空気が漏れるだけ。
手を伸ばそうにも体はいうことを効かない。
狭い視界の中、見える彼女は俺のことを呼んでいた。
「ーーーーーーーー」
(さあ、体を願いに沈めろ、私に身を任せろ)
体内であいつが何やら囁いている。
ああ、俺は……リィナたちを守りたい。
もう目の前で人が死ぬのは見たくないんだ。
二度とあの孤立感は嫌なんだ。
一人ぼっちの何か物足りない、自分が自分でなくなってしまう。
色あせた世界に取り残された俺は生ける屍のようだった。
二年前のあの日は雨が降っていて、いつものように妹とショッピングに出かけたんだ。
「どっちの服が良いと思う?」
白色のコートと薄い水色のカーディガンを広げて見せてトレードマークのポニーテールを揺らしながらアイツは俺に笑いかける。
「どっちでも良いだろ、両方買えば?」
「お兄ちゃんに選んでもらった服がいいの!」
「……お前、稀に凄く恥ずかしいことを平気で言うよな」
「エヘン」
「いや、褒めてねぇから」
こうなったら俺が選ぶまで一時間でも悩むような奴だ。
別に待っていても構わないのだが、周囲には女性向けの店ばかりが立ち並び、男一人でその中にずっといるのはかなりきついところがある。
「カーディガンの方が良いんじゃないか?」
「あ、やっぱり〜?私もそう思ってたんだよね」
決まってたんなら聞くなよ、呆れて溜め息を吐いた。
パタパタと足音をさせてコートを元あった場所に戻すとアイツはそのままカーディガンを持ってカウンターに向かう。
紙袋を抱えたアイツは満面の笑みで同じように戻ってきた。
「帰ろっか?」
「ああ」
アイツは小さい頃からお菓子とかを買うために俺を連れて回っていたのもあってか、どこかに行くときはとりあえずは俺を連れていくようになった。
この日もいつもと同じとばかり思っていたんだ。
「エヘヘ〜♪」
「……気持ち悪いからその笑い方止めろ」
「お兄ちゃんに買ってもらった服……エヘヘ」
先ほど買った水色のカーディガンを着てクルクルと回ってみせてくる。
その裾が蝶のように舞い、柔らかに色を映えさせる。
「あー、もう幸せだなー。嫌だな、ーーーーなんて」
「え、何て?」
「んーん、何でもないよ」
表情を一瞬だけ曇らせるアイツは薄く笑って俺に最期の言葉を呟いた。
「お兄ちゃんは幸せになるんだぞ?いくら不幸でもいつかそれに釣り合う幸福がやって来るんだから」
この後のことはあまり覚えていない。
鮮明に覚えているのは目の前で拡がる赤い水溜まりに投げ出されたアイツと妙に冷たい雨がただ降っていたことだけだ。
そのうちに誰が呼んだのかパトカーのサイレンの音がして、長い間連れていかれた警察署で事情聴取された。
ダレガヤッタンダ。
アンナザンコクナシタイミタコトナイ。
聞こえてくる声は耳を通り抜け、言葉として理解できない。
いや、そうすることを拒否している。
中年の太った警察官が俺に向かって話しかけてきた。
「いいかい?君の妹は死んだんだ……」
「…………」
「もうこの世にはいないんだ」
黙れ、事実を並べ立てるな。
聞きたくない、喋らないでくれ。
頼むから、ホントノコトヲイワナイデ。
(願いは理解した、体の力を抜け)
「ーーーーーーーー」
言葉にならない叫びは、願いは空気を震わせる。
自分の体から少し離れて後ろから見ているような感覚が襲う。
そして動かなかったはずの俺の体は自然に立ち上がった。
世界が狭く見える、全てを知ったような感覚だ。
〈混乱〉が何やら喚いているが今は生き返った嬉しさで今は気にならない。
生きている。
俺は、生きている。
その気持ちが体にも伝わったのか口元がゆっくりとつり上がるのを感じたーーーー。




