〈鈴〉となる気持ち。
半ばプロローグのままですが、お楽しみいただけたら幸いです。
今回は浬南の行動原理というか好きな人が出てきます。
リィナは作者のいうことききません、下書きの段階で独り歩きです、はい。
「んん、ん……」
まぶしい、ゆっくりと目を開けると見慣れた天井があった。
朝……のようだ。
薄い翡翠色をした暖かい朝日に照らされ、部屋を見渡す。
特に変わったものもない、いつも通りだ。
リィナに刺された所をそっと触れてみるが、痛みは感じない。
昨日のことなんて無かったかのようだ。
「夢……か」
そう思ったほうが自然だ。
自殺しようとして、心がうつになっていた。
そうだ、そうに違いない。
ふと、壁に掛かっている時計を見た。
9時15分……。
学校は7時30分からだ。
「あぁぁぁあああ!!」
急いで着ていた服を脱ぎ捨てる。
学校指定の服を着て、ブレザーをはおり、家を飛び出した。
何故か胸の辺りが少しきつかったが、先程同様に異常無いようなので、気にしないことにした。
苛められてるのにどうして学校に行くのかって?
俺には好きな人がいるんだ。
その娘に会うため。
名前は雛宮 千代という。
こんな俺でも接してくれて、性格、顔も良い。
もちろん成績だって。
俺が死ねない理由は、彼女がいるからかもしれない。
体力が落ちたのか、少々走るのがきついな。
というか体が重く感じられる。
やがて学校に着き、誰にも会うことなく、教室前までやって来た。
「はあ、はあ……」
息を落ち着かせてから、教室の扉を開けると、俺は絶句した。
雛宮さんを含む、多数の女子生徒が着替え中でした。
もちろん雛宮さんの下着は見ま……ゴホン。
「え、あ……う、失礼しましたぁぁあ!!」
大きな音をたてて扉を勢いよく閉める。
そういえば、今日の2時間目って体育じゃん。
どうして気付かなかったんだ。
これからの人生どうしよう、と俺は頭を抱えて、廊下にうずくまった。
これからは男子だけでなく、女子からも苛められてしまう。
がらっと扉が後ろで開いた。
おどおどとする俺。
「何で入ってこないの~?」
初めは、俺に対しての言葉とは分からなかった。
「……えと、俺、男……だし」
「え?君、女の子じゃないの?」
「う、うん」
あ、あの雛宮さんと会話してる。
夢のようだ、夢ってパターンは無いだろう。
頬をつねったら痛かったもん。
他にも着替え終えた女子生徒が出てきた。
その中の雛宮さんとよく一緒にいる女子生徒が俺の……胸をわしづかんだ。
「ひゃわっ!!」
突然のことで声が裏返ってしまった。
「男子の制服だけど、胸あるじゃん。女子だよ、女子」
「やっぱり?」
「…………」
は?
そういえば胸の辺りが重かった、髪も肩甲骨ぐらいまで伸びている。
「か、かかか」
「か?」
「鏡……」
雛宮さんがポケットから小さな鏡を取り出した。
「はい」
「あ、ありがとう」
落ち着くんだ、茅ヶ崎浬南。
深呼吸、深呼吸……。
そして、鏡を見た――――。
黒髪の美しい、可愛い少女が映った。
「この鏡って、壊れてたりは……」
「しないよ」
そうだよな、鏡は壊れるもんじゃない、割れるもんだ。
一度、目を逸らして、もう一度鏡を見た。
吸い込まれそうな程に大きな黒い瞳と目が合う。
「お、俺――――」
女になってる!?
どういうことだ、昨日までは男だったじゃないか。
昨日……もしかしてアレか。
神様に刺されたアレ。
夢じゃなかったのか。
どうしてくれんだよ、力を与えます、とか偉そうにして。
――――唐突に電信音が聞こえた。
辺りを見回すと、1人の女子生徒が椅子に座ってPS○をしていた。
問題なのは、○SPをしている少女の髪の色が銀色だということ。
ふと、こちらに気がついたのか、気軽に挨拶をしてきた。
「おっす」
「おっす、じゃねぇよ、このエセ神が!」
そう言って、凄い勢いでデコピンを額にかます。
「あいタッ!」
頭が少し後ろに下がり、きれいな銀髪が揺れる。
「どういう事だよ!力をくれたって、俺、女になってるんじゃねぇか」
「もう持ってるじゃないですか」
「知らねえよ、何で朝起きたときいなかったんだ?」
「いや、深夜アニメの時間でしたので。帰ったらそのまま寝ちゃいました☆」
「何で女になってるんだ?」
ニッコリ微笑んでリィナは言った。
「仕様です♪」
「…………」
何だか妄想に入り始めたリィナにもう1度デコピン。
「うう、神様にデコピンって……」
ダメですよぉ、浬南さん~♪とか、ぞっとする想像だったようなので少し距離を置く。
「使い方は簡単、叶えたいことを思うだけ!」
やっぱりアバウトだ。
「雨になれ~、フハハハハ、とか思ってみて下さい」
後半はともかく、やってみる価値はあるだろう。
外の様子を窺った、本日も気持ちの良い快晴ナリ。
雲1つ無い、澄み渡る青空。
雨なんて降るわけがない。
目をつぶって、雨になれ、と念じてみる。
そうして目を開けると、雨にな――――。
「――――ってねぇじゃねぇかっ!」
「いや、ですから、フハハハハまで念じました?」
「そこまでっ?!」
中指の爪を親指の腹に構え、デコピンをしようとして――――。
「そんなわけ無――――」
突然に視界が白く点滅し、少し遅れて大きな音が響いた。
雷が落ちた、と理解するまで少々の時間を要した。
俺はデコピンを構えたまま固まっている。
ざあ、という音が聞こえてきた。
窓に次々と水滴が付いては下へと流れていく。
「なぁああっ!!」
「ね♪」
その後の体育の授業は突然にの雨により中止となった。
体育館は?という方がいらっしゃると思うが別の学年が使用中だ。
「天気予報では晴れでしょうって言ってたのにね~?」
「ね~」
多少の生徒が不審に思いながらも着替えだしたので、俺は慌てて廊下に飛び出した。
しばらくは異常気象の曇天を見上げることにする。
「言った通りでしょう。さあ、神様にデコピンしたことを謝りなさい」
「胸を張って威張るな、エセ神め」
「なっ!エセとはなんですか!エセとは」
「言葉通りの意味だ」
もう一度デコピン、アハハ、綺麗な音がするなあ。
「あいタッ、う~」
「あ、あの~?」
「はい?」
第三者からの介入により、リィナを弄るのを辞め、後ろを振り返った。
早く着替えを済ましたのか、雛宮さんが立っていた。
ああ、やっぱり可愛いなあ。
「失礼だけど、あなたの名前を教えてくれる?誰もあなたのことを知らないみたいなの」
「…………」
まずい、非常にまずい。
茅ヶ崎浬南とは、口が裂けても言えない。
「ああ、この人は茅ヶ崎――――モガッ」
黙ってろ、エセ神。
リィナの口を押さえ込む。
「茅ヶ崎……君?」
「いや、その――――いとこで」
「そっか、それで名前が同じなんだ」
えと、普通は違いますよ?
「茅ヶ崎……鈴、です」
「ん、初めまして、鈴ちゃん。雛宮千代です、よろしくね」
「こ、こちらこそ」
「んーっ!むぐ、むーっ!」
神様でも息が詰まると苦しいのか、リィナが手元で暴れている。
授業だから、と言って雛宮さんは教室に戻って行く。
しばらくして、俺は真っ青になったリィナを解放した――――。
作者「災難だねぇ」
鈴 「全くだよ……はあ」
作者「ま、頑張れ。リィナは操縦不能だからな」
鈴 「…………」
作者「次回予告やっとこ。鈴がリィナに襲われm……」
鈴 「言うなぁああ!!」