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あの時
「なあ、一葉、俺はもうお前に会えないかもしれないこの体ではでも絶対に会いに行くお前がどこにいようとどんな姿になろうと」
「あなた」目から涙が溢れ出す
「行かないで」そう小さく呟いて服を握りしめた。
太平洋の大海原へ飛び立っていく飛行機はとても残酷でとても美しかった。
「あの時もっと、抱きしめてやれたら、あの時もっと好きと言えたら、あの時、あの時」
と正三は心の中で何度も何度も繰り返した。
それから2週間後、正三の戦死報告が届いた。
もちろん悲しかったでも、涙なんて流せなかった。
「子供もいるのに母親が泣き崩れてどうする」
そう思いグッと涙をこらえた。
それからの人生ずっと彼を待ち続ける覚悟でいた。その人生の先もずっと永遠に「あなた」を待ち続ける覚悟でいた。