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蜂ヶ崎妃の華麗なるダンジョン探索記【お試し版】

作者: 高塚ナツ

※短編は基本的に後々連載へ持っていきたいプロットのお試し版です。

 ヒュッ、と空気を引き裂く音とともに朱金の光が走る。グリップに掛かる負荷はほとんどなく、インパクトの瞬間に鋭利な刃物と化すこの武器は本当に優秀だ。対峙していたモンスターが光となって消えていくのを横目に周囲を見渡せば、あれだけ濃厚だったモンスターの気配がなくなっている。いまのが最後の一匹だったのだろう。


「ふう……終わったぁ……」


 良かった、今日も誰にも見られずに済んだ。ほっと胸を撫で下ろしながら、あちこちに散らばった魔石やドロップアイテムを回収して歩く。先ほどまで使用していた武器は、戦闘が終わると同時にいつもの姿に戻っているので、いま他のダイバーが通りかかっても「ちょっと年増の女がソロで剣士やってるな」くらいにしか思われない、はず。

 もっとも、腰に装備した短剣は滅多に抜くことがないのだけれど。


「ソルジャーアントの魔石が8つに、キラーアントの魔石が3つに、ポーションが1つ、と。やっぱりキュアジェル(解毒剤)はレアドロップなのかな……?」

『ポーションのドロップは2つです。マイマスター』


 まるで「あちらに」とでも言うように、右手首で揺れるブレスレットから細い鎖が伸びる。抉り取った地面に隠れるように落ちていた手のひらサイズの細長い小瓶に巻きつくと、そのまま運んできてくれた。透かし彫りのような銀色の蔦模様に、透明度はダンジョンの明かりの中でもよくわかるほど澄んだ青。ランクAのポーションだ。


「……ほんと、便利よね。キミ」

『光栄です。ところで、』

「言わないで」

『………………』


 手首からなぜかジトッとした視線を感じる。いや、無機物に視覚はないハズなので、この場合は気配なのかもしれない。この不穏な気配を直訳すると「時間の無駄なのでさっさと拾ってくださいマイマスター」というところか。


「わかってる……わかってるんだけど、さすがにこれはどうかと思うのよ」

『大変よくお似合いになるかと』

「ねぇ、それ本気で言ってる?」


 これに関しては常に最上級の答えしか返してこない相棒に、げんなりと顔を顰める。ちなみに、当の相棒はそんな表情にもよく似合うだろうと確信しているが、それでも主人の機嫌をこれ以上損ねると探索に差し障ると口を噤んでいたりするのは、本人ばかりが与り知らないことである。


「うう……嬉しくない……」


 そうボヤキながらも、先ほどからずっと――正確に言えば群れのリーダーらしき個体を倒したときから――視界の隅に転がっていたドロップアイテムを拾い上げた。

 きらきらと、無駄に煌びやかな光を放つそれを摘み上げると、想像通りの品物でおもわず天を仰ぐ。この世の中、ダンジョンの中でも世知辛い。


「―――どうして、……どうしてこんなのばっかり、ドロップするのよぉ!!!」


 アポイタカラのバカぁーっ!

 周囲に響いた盛大な嘆きをよそに、手の中に収まった金と大振りな宝石で埋め尽くされたティアラは、まさしく女王然とした風格と優美な光を湛えている。誰がどう見ても一目瞭然なレアドロップアイテムだった。


『わたくしめに言われましても……』

「もっとこう……普通の、いえ、百歩譲って武骨なダイバー仕様でもいいわ! せめてダンジョンで可笑しくない装備が欲しい!!」

『ふむ。わたくしめの他にそのような装備品をご所望とは……。さすがマイマスター、更なる探索意欲をお持ちで』

「いえ、持ってないから」


 手首に巻きついてブレスレットに擬態する相棒の言葉を聞き流しつつ、がっくりと肩を落とした。これ、どうやって処分しよう……。

 値付けできず買い取りを拒否され、個人売買でも引き取り手が見つからず、そのまま不良在庫になりそうなアイテムが、こうしてまた一品増えるのだった。



【01.ドロップアイテムにも色々ある。】



 蜂ヶ崎妃(はちがさき きさき)、二十八歳、万年派遣社員。

 それが以前の自分の肩書きだった。

 いまも派遣社員という肩書きはそのままだけど、ひとつだけ大きく変わったことがある。


 蜂ヶ崎妃、二十九歳、万年派遣社員、兼特殊地下空洞探索者。

 通称、ダイバー。

 これは、日常に突然現れた巨大地下空洞、通称ダンジョンと半ば強制的に関わることになった、わたしの物語だ。



というお話をちまちま書いていたりいなかったり。ひとまず書きたいところは書けたので楽しかったです。

ありがとうございました!

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