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私だけの友達

作者: 泡沫…

日本語授業の一環として書いていた短編です。

 私、星野水月(ほしのみつき)、高校一年生。

 でも、学校が面白くなかった。遠い所の高校に通ったせいで、周り知っている人は誰もいない。

 そしてなぜか、みんなに距離を置かれている。

 ううん、きっと私が話すのが下手だったからだ。だから、友達一人も作れないんだ。

 そんなことを考えながら、雨を眺めて嘆いた。

 ――その時だった。

「あの、私傘忘れちゃったの。ちょっと入れてもらえないかな?」と、後ろから声をかけられた。振り返ってみると、一人の女の子がにこりと私を見ていた。リボンの色から見ると、同じ学年の子だった。声をかけられるなんて少し驚いたが、周りに人影もいなかった。私に聞いているんだと、ようやく確信を持った。

「い、いいよ……」ああ、せっかく声かけてくれたのに、こんな暗い声じゃ、また引かれちゃうよね……

「ありがとう!助かったよ〜」そう言いながら、彼女は私の隣に並んだ。

 よかった、気にしていなかったようだ……私は少しほっとした。

「わ、私、A組の星野水月!あなたは?」少し勇気を出して、自ら話をかけた。

「D組の浅村真白(あさむらましろ)だよ~よろしくね」


 その次の日、いつも通り学校を出て一人で帰ろうとした時に、なぜか真白ちゃんが校門で私を待っていた。それからほぼ毎日、私たちは一緒に帰るようになり、いつの間に仲良くなった。 

 真白ちゃんがいてくれた一年はあっという間に過ぎ、私たちは二年生になった。真白ちゃんがいたから、一年の時友達すら作れなかった私にも明るくなり、すぐに仲のいい後輩ができた。そして当然のように、かわいい後輩たちと一緒に帰ったり、寄り道したりすることも多くなり、真白ちゃんと帰る日が極端に減った。いつからか、いつも校門で私を待っていた真白ちゃんの姿も消えた。

 浅村真白という人が消えたかのようだった。毎日一緒にいたから、お互いの連絡先を交換することもなかったが故に、連絡が途切れてしまった。このことに、仲のいい後輩ができたことに浮いていた私は、気づくのが遅かったのだった。


 五月が始まる頃に、私の耳にあることが届いた――後輩の花ちゃんが車にひかれ、入院したという知らせだった。

 それを聞いた私は、授業中、ずっとぼーっとして何も耳に入らず、昼休み前に早退した。もちろん、花ちゃんのお見舞いに。


「先輩……」部屋に入った途端、花ちゃんが涙目でこちらを向き、震えている声で私を呼んでいた。

「どうしたの!?」びっくりした私は慌てて花ちゃんの隣に駆け寄ると、いきなり花ちゃんが抱きついてきて、ぼろぼろ泣き出した。しばらく経ってようやく落ち着いたか、事の経緯を話し始めた。

「昨日別れたあと、坂道を降りようとしたら、急に寒気を感じたんです。でも振り返っても、誰もいなくて……それで気のせいかなと思って歩いてたら、今度は人の声が近くで聞こえてきたんです。低いささやきの声で、離れろ、って」

 よっぽど怖かったのか、声も体も震え出した。何か言いにくいことでもあったのか、何度も口を開こうとしていたが、ようやく決心して話し出した。

「水月から離れろって、聞こえました……振り返ってみたら、今度は、今度は……」花ちゃんは急に震えながら私の両腕を強く掴み、大声を出して、

「見えたんです!幽霊が!!」

「えっ?」突然こんな話になるとは思いもよらず、一瞬で耳を疑った。

「本当です!うちらの学校の制服を着た長い髪の……そうだ!髪に白いリボンもつけてたような……」花ちゃんは震えながらも一生懸命思い出そうとしている。

 本当なら、きっと怖くて今すぐ頭から消したいと思うだろうに……思い出さなくていいんだよって、慰められたらよかったかもしれない。

 でも、幽霊なんて考えすぎかもしれないが、どうしても引っかかる。なぜなら……

「そのリボンって、もしかして左側に蝶結びにしてた白いリボン……?」

 なぜなら、心当たりがあるからだ。

「なんで……知ってるんですか?」

 嫌だ。一番聞きたくない答えが返ってきた。

「そんな……あの子がそんなことするわけが……」と言いかけ、最近真白ちゃんにとあまり一緒にいられなかったことを思い出してしまった。そもそも、真白ちゃんのこと、何も知らなかった。まさか、そんな……

「先輩……?」

 ああ、最悪。お見舞いに来たのに逆に心配されている。

「何でもないよ。大丈夫、幽霊なんていないよ。きっと、きっと、びっくりしてただけだと思うの。あまり考えないでゆっくり休もう?また来るからね」そう言って、今日は帰ることにした。花ちゃんに悪いけど、これだけは絶対確かめないと気が済まない。


「あさむらましろ?ごめんなさい、クラスにあさむらっていう人もいないんですよ。間違えていませんか?」

 翌日、私は直接に真白ちゃんに話を聞こうとD組に行ったが、「浅村真白」という人はいないことがわかった。

 友達になって一年も経ったのに、連絡先どころか、クラスに探しに行ったり、学校ですれ違ったりすることもなかった。今となってどうしようもないぐらい笑い出した。認めたくないけど、私は、真白ちゃんのこと、本当に何も知らなかったなと。どうして今まで知ろうともしなかったんだろうと。ショックを受けた私は、上の空で教室に戻った。


「ねぇ、あさむらましろって、もしかしてあの浅村真白?」

「えっ?ウソでしょ!?」

 なんて、後ろの女子生徒がそんな言葉を交わしたことにも気づかなかった。


 なんだかんだで学校が終わり、どうすればよいのかを考えながら学校を出ると、

「あら、私のこと、探しているの?」と、馴染んだ声が横からかけてくる。

 どんな反応していいかわからなかった。ただ恐る恐ると頭をゆっくりと横に振り向けると、いつもの白いリボンを左側に蝶結びでつける真白ちゃんがいた。

「真白……ちゃん?」

「はい。今日は一緒に帰られそうだね」少し震える私の声に対し、真白ちゃんは少し嬉しそうに言葉を返した。あまり他の人に聞かれたくないから、とりあえず人気の少ない場所に移動することにした。

「私の後輩でね、花ちゃんっていう子がいるの。この前、家に帰る途中で誰かに驚かされて走ったら、車にひかれちゃって」

「あらら、それはお気の毒に」少しも驚く様子もなく、まるで他人事みたいに答えた真白ちゃんに、怒りを抑えるのに必死だった。

「あれやったの、真白ちゃんなの?あの子が教えてくれたの。白い、蝶結びのリボン……どうして、そんなことするの?」

「あら、バレたか。水月に褒めてもらったこのリボン、どうしても外せなかったのよねー」相変わらずの微笑みで、淡々と認めた。

「なんでそんなひどいことするの?確かに最近はあんまり構ってあげられなかったけど……なんで花ちゃんにあんなこと言うの?人を傷つけるなんて最低!」真白のその態度が頭に来て、出まかせを言ってしまった。

「だって、水月は、私だけの友達だもの」

 そう言いながら、真白ちゃんは私の頬を触った。

 手が、冷たかった。なのにその瞳には今までにない暖かな何かを感じる。まるで、自分の愛しい子を見つめているかのように。だがその目に映っている自分は、恐怖という名の顔をしている。

 この瞬間、私はようやくすべてを理解した。連絡先交換しなかったのは、なかったからだ。この通学路以外に会えなかったのは、そもそも姿を見せることができないからだ。

 花ちゃんが見たのは、本物の幽霊だった。



「あー、今日はみんなに聞きたいことがある」翌日、二年A組の朝礼。「この中に、最後に星野を見た人、いつ、どこで見たのか教えてほしい」

 一瞬、教室がざわめく。

「せんせー、星野さん何かあったんですか?」

「あぁ、それがね、昨日から帰ってこなかったらしい。連絡もつかなかったんだ」


「あの噂、本当だったんだ……」教室の隅で、生徒の二人が小さな声で話しをしている。

「え?何の噂?」

「ほら、あれよ。三年前帰宅中に車にひかれて亡くなった人の幽霊が、学生をさらうって噂」

「あぁ!あれか!確か名前は、浅村だっけ?」

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