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10話.[脅してきたから]

「ちょ、近い……」

　先程からずっとこの距離感だった。

　心臓が落ち着かなくなり始めるから勘弁してほしいのに、先程から何度もこう言っているのに馨は聞いてくれないままでいる。

「光ってよく見るとさ」

「な、なに？」

「いや、よく見なくても童顔だよな」

「身長と一緒で成長してくれなかったんだよ」

　だから格好いいや綺麗に憧れている。

　可愛いもいいんだけど、そのふたつなら明らかだから。

「で、光は最近、内海とよく一緒にいるよな」

「この前のはあれだよ？　雅美ちゃんの方から来てくれたからさ」

　野田君に手伝ってもらうほどではなかったといまでも思っている。

　確かに廊下で寝ていた私が悪いけど、見つけようと思えばすぐに見つけられるから。

　大抵はあそこにいるからそこで待ち伏せしておけばいいわけだしね。

「前にも言ったように嫌なんだよ」

「いつからそんなに気にするようになってくれたの？　結局、いつまで経っても一方通行なんだろうなって思っていたぐらいなのに」

「……はっきり分かったのはこの前だな、嫌だと感じるなんて思わなかったんだ」

「睦に対してもないの？」

「んー、大切な友達であることには変わらないけどな……」

　いいや、そこで断言されない方が私的にはありがたい。

　私はまだまだ睦には勝てていない。

　それでもこれから時間を重ねていけば並ぶぐらいならできるかもしれない。

　チャンスはあるということなんだから悲観しなくていいのは過去と違う点だ。

「はい」

「は？」

「私が触れたいから来てください」

「それなら光からすれば――勢いが強すぎだ……」

　こうして誰かに触れるということをあまりしてこなかったから体温に安心できる。

　なんだろうね、丁度いい温度だからなのかな？

　仮に妹を抱きしめても同じような気持ちにはならない気がするけど……。

「光といないと駄目だな、すぐに手を出すから」

「えー、そんなこと言ったら馨もそうでしょ？」

「あたしはしっかり距離を保っているからな」

「私だってそうだよ」

「べたべた触れるのにか？」

　うぐっ、実は睦にも肩揉みマッサージをしたりしたんだよなあ……。

　そのことを隠していた罰なのかもしれない。

　だって言ったら秘密をばらすとか脅してきたからね。

　あの子が知っている私の秘密ってなに？　となったけど、教えてくれることはなかった。

「じゃ、じゃあ、馨が私にいっぱい触れればいいでしょ？」

「あたしにそんな欲求はない」

「ふーん、そうなんだ？」

「少なくともべたべた触れたりしないからな」

「こうして触れているのに？」

　彼女はまた別の方向を見つつ「知らないぞ」と。

　今度はあくまで真顔だったからどうすれば照れさせることができるのかを必死に探した。

　が、楽しめなくなるのと、揶揄したいわけではないということでやめて彼女と話すことに集中したのだった。