表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/9

8話 純粋龍・カンディード

 鷹羅天が去った後、場所を変え、総宗たちは再び会合を開いていた。


 ――ここが、やつらの本拠地。


 その中に、緊張した面持ちの水月郡はいた。


 どうにか鷹羅天の力になれないかと思い、傘下に入ると偽り、総宗陣営に取り入ることに成功したのだ。


 しかし、トントン拍子でことが進んだことに、違和感を感じているのも確かであった。


「うぅ……なんか、怖いところですね……」

「そのメガネ……瀬早か」

「え、私、メガネで認識されているんですか」


 それは、『機関』の地下。一般職員は、否、鷹羅天すらもそこの存在は知らない。


 そこは、一言で表すならば研究室。人が入れるほどの巨大なカプセルに、怪しげな薬品が水泡を立てていた。


 そして、最奥には強化ガラスが使われた、水族館の巨大な水槽のような(ろう)があった。


 郡は目に力を込めて覗こうとしたが、暗闇によって見えなかった。


 総宗は強化ガラスへ手を当てて、奥にいる存在へ話しかけた。


「ふ、今日も調子が良さそうで結構」

「あらぁ、さすが総宗さま。わかりますかぁ? 今日は特に元気が良くてですねぇ、鎖がガチャガチャうるさいんですよ」


 そう言うは、火吹き衆頭領、隠者。


 煽情的な黒のドレスを着ているものの、濃いクマのある目元や、手入れされずに乱雑に伸ばされた髪がチグハグさを生み、美しいとは言えない女性であった。


「こ、これは……」

「ああ、水月君は今日が初めてであるか。紹介しよう。ここにいる存在は、純粋龍・カンディード」


 ガシャガシャと鎖が引っ張られるような音が鳴った。

 うっすらと漏れてくる唸り声には、怨嗟が含まれていた。


 総宗は、優越感に満ち溢れた表情で、こう言った。


「――またの名を『災禍』よ」

「さい、か……?」


 にわかには信じ難い話であった。


 郡の脳内にはグルグルと災禍の情報が巡る。


 五十年前、始まりの魔物として世界を混乱に陥れた存在。


 独尊のヒーローにより封印され、未来永劫復活するはずのない存在。


 ――なぜ、そんな危険な存在を?


 災禍戦争の傑物である総宗が、その身に染みて災禍の脅威を知っているはずの総宗が、なぜそんな災いの芽を抱えているのか。


 ――事実ならば、人類が滅ぶ。


 無論、嘘とは信じたい。


 だが、牢から感じる気配がそれを否定する。


 思わず、郡は己の刀へと手を伸ばしていた。


 しかし、その行動はディグナ・モナに羽交い締めにされたことで制止された。


「くっ、神父……いや、局長どの!利用論に異を唱えるわけではないが、災禍がこんなところにいるとは、異常な事態ではないのか!」


 総宗が近づき、いやらしい手つきで郡の顎を触れた。


「ならば、我らはこの四十五年間その異常を過ごしてきたというわけ、だ」

「なっ……!」

「クク、ああ、そうだな。おい、隠者、アレを」

「はぁ〜い」


 フラフラとおぼつかない足取りで隠者はどこかへ消えた。


 総宗は語る。


「純粋龍は最初、我々人類に協力を呼びかけた」

「……」


 さて、どんな内容であったか。総宗はそう呟いた。


 そのどうにか思い出そうとする様子から、真に忘れているようだと郡は思った。


「クク、語ればくどくなるか。結果を言おう。我々は能力者という存在を得、そして純粋龍の確保に成功した」

「……わざわざ捕らえる理由がわからんな」

「それを見せてやろうと言っておるのだ!」


 クワッと眼を開いた。


 郡は、その勢いに少し気圧された。


「龍を嬲ることにより、我々はその力を抽出することに成功した。それは人の身に尋常ならざる力を宿らせるのだ!しかし、常人ではダメだった。器が足りないのだ。もっと、強く、力を受け入れられる、良い器がッ!」


 唾を飛ばし、顔に血を上らせながら、総宗はそう言った。


 総宗は郡の髪に触れた。耳元で囁く。


「――龍の力は、いらないか?」


 ――ああ。


 その時、水月郡は己の命運を悟った。


 つまるところ、ホイホイとアヒルの稚児のように着いてきた自分は、都合の良い人体実験の道具でしか無かったのだと。


「銀花は厄介であった……愚者の真似をして油断させておいて、我らの真実を暴きかけた。和屍の生い立ち、更には我らと和屍の繋がりに気づきかけた時は、もっと早く殺すべきだったと後悔したものよ」

「な、銀花を、いや、和屍と……!?」


 わからないものがあるなら、とりあえず切ってみる。そんな人生を歩んできた郡にとって、総宗の与えた情報量はあまりに多すぎた。


 気分が乗ったようで、いつになく饒舌な総宗は要らぬことを語り始める。


 郡を抑えているディグナ・モナはひっそりとその濃い茶色の眉を寄せた。


 そして、ディグナ・モナの意識が総宗に行ったことによる、僅かな拘束の緩み


 郡はそれを見逃さなかった。


 拘束を抜け出し、駆ける。


「む……」

「左様ならば、どうやら私たちと局長は矛を交えなければいけないようだ! 失礼する!」


 追おうとするディグナ・モナを総宗は制止した。

 そして、総宗は、ただ震えながら見ていた、瀬早くるみの方を向いた。


「ちょうどいい」

「え……あの……」

「ただいま〜。あら、水月ちゃんはぁ?」

「逃げられた。こいつを使って良いな?」

「ん〜……いいですよぉ」

「い、隠者様……そんな……」


 総宗へ、隠者の手から、目玉ほどの大きさの、琥珀色の宝玉が渡された。


「――水月郡を殺せ」


 そう言って、メガネ上から瀬早くるみの右目へ宝玉を詰め込んだ。


 グチュリ、と何かが潰れる音がした。


「――ぁ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ