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2話 覚えのある魔力

 用意してもらった病室。

 そこに、僕、千羽崎 正司は椅子に座りながら、今もベッドで眠る白髪の少女を眺める。


 今でこそ落ち着いているが、一時は本当に危篤に陥ったのだ。それに、もう三日も目を覚ましていない。ただ、今日は顔を顰めたり、なにか呟いたりと、そろそろ目覚めそうな気もする。


 なんとなく気になってしまって、家にも帰らずずっとここにいる。


 ヤツら――異界からの侵略者(魔物)たちが出現した時を除いて。でも、極力最速で討伐して、すぐここに戻る。そんな生活だ。


 彼女は強かった。


 だからこそ、疑問が生じてしまう。


 一体、何者なのだと。


 ボーッと、顔を眺める。


 小柄で、まだ幼さの残る少女の顔は整っていて、思わず見惚れそうになるほどだ。それに、僕を殺しかけたあの狼型魔物(フェンリル)を倒した時の表情は凛としていて、強い瞳をしていた。

 薄い、水色。晴れた日の空のような瞳の色を思い出して、彼女のクールな雰囲気がそれに合っていて――


「……って、何を考えているんだ、僕は……」


 グワーッと罪悪感が襲ってくる。無意識にぐおお、と呻き声を出しながら頭を抱える。

 そして、出た声が思ったより大きくて、失態を誤魔化すようにパッと背筋を伸ばした。


 そうしたら、目が合った。


「ここは……」


 彼女はそう言いながら、ゆっくりと上半身を起こして、まだ虚ろな目で僕を見た。


「お、おはよう」

「……どれくらい時間が経った?」

「三日」

「……三日?」

「うん」


 物珍しそうにキョロキョロと病室を眺めた後、自分の腕に刺さっている点滴に気がついたのか、ひっ、と声を漏らした。


「こ、これはかの獰猛なるエ・ローロテン・タックルスの触手!?」

「点滴だね」

「やめろ! 母体にはなりたくない!! あの末路は嫌だ!!」


 彼女はそう言って暴れて、点滴の管を引き抜いた。

 まるで何かから逃げるように暴れる姿を見た僕は、まだ完全に意識が戻っていないのだと気が付いた。


 母体。あの末路。


 この少女の人生が垣間見える言葉だった。こんな言葉が使われるだなんて、どんなところだったかは想像に難くない。


 ベッドから降りて、病室を抜け出そうとする彼女をギュッと抱きしめて、目と目を合わせる。


 その瞳にはボンヤリと僕が映る。彼女の視界に僕が入っていることが嬉しくて、少し思考が脱線しかけるが、意識して無視する。


「ここに、君を利用する悪い大人はいない。いたとしても僕が守る。……だから、安心してくれ」


 僕が歪んだ。

 瞳に涙が浮かんでいた。


 そして、心の中で決意を新たにする。


 この少女にここまでのトラウマを抱えさせる存在。思い浮かぶのは一つだった。


「リヴァイアサン……外道共め……!」


 悪の組織『リヴァイアサン』


 誘拐。人体実験。人間と、魔物の融合実験。

 僕が知っているだけでもこれだけの悪事を働いている。ヤツらは外道だ。表沙汰になっていないこれ以上の悪事など万とあるだろう。


 ★


 なんという愚行。

 寝ぼけた頭で、錯乱していたのだ。昔のちょっとしたトラウマが蘇った。


 挙句の果て、幼子のように抱きしめられ、慰めの言葉をかけられた。自分が情けなさすぎて涙がホロリ……


 そんな事件も今では懐かしい。生まれ変わって、二ヶ月ほどが経った。

 この二ヶ月は大した事件もなく、誘拐事件の犯人としてショージが捕まりかけたぐらいだ。


 もちろん、最初はこの体を呪った。以前の戦闘で三日寝込んだ。ならば、それ以上長引いたら?


 ……少なくとも、今回以上の代償が体を襲うだろう。それに、剣のキレも全盛期の二分の一あればいい程度。


 正直、滅亡の危機など俺が切れば良いと思っていた。だから、歯痒い。


 まあ、だからといって戦えない訳では無い。多分、龍刀・吉祥丸と灰色世界(フルドライブ)のせいだろう。あれを使わなければ特に問題ないのは確認済みだ。


 退院したあと木刀を振っていたら、ショージに焦った様子で止められた。

 せっかくの機会だ、と十先で勝負して10-0で勝つと、さすがのヤツも俺を認めた。


 最後の方は互いに熱が入って、ヤツも異能だか、能力だかを使って応戦してきた。炎を扱うのが得意らしい。

 あそこまでやって大丈夫ならば体を動かす行為自体は問題ないということだ。


「さて、と」


 高層()()のフェンスの上に乗り、足をブラブラとさせて下界の景色を見ていたが、程々に飽きた。ショージ曰くここは住むところだから、まんしょんだ、と言っていたが、正直そこまで差が分からない。

 だが、最近はこの都会、トーキョーにも適応してきた。そう、謎の岩石はびるという建物だったのだ。


 この二ヶ月、何もしなかった訳では無い。この世界の情報を色々と探っていたのだ。

 そして、理解した。俺の過ごしていた世界と、この世界は別のものだと。


 色々な歴史書を漁ったが、地球(この世界)に祖国の名は無かった。魔王という存在も無かった。それに、最近まで魔物や、能力者という存在すら無かった。


 ある日、『災禍』と呼ばれる始まりの異界からの侵略者(魔物) が現れるまでは。


 世界は魔物に対し、危険度(ランク)を設定した。

 現在史上唯一の最高ランクSSS(トリプルエス)に設定されている『災禍』は『独尊のヒーロー』によって封印され、今も海底で眠っているらしい。


 それが五十年前の出来事。


 その後は魔物に対する組織も整ったようで、能力者は能力が発現した時点で国に保護され、死ぬまで働かせられるようだ。

 一般的には名誉も金も手に入れられるから羨ましがられているらしいが、どうだか。


 まあ犠牲になる人々は置いておくとして、そういう功利主義的な世の中であるらしい。


「ああ、いたいた。探したよ、京楓(きょうか)


 柔らかな声質が耳に入った。探しているのは知っていたが、もう見つかるとは。手をついて、振り向く。


「葬式は終わったか?」

「うん、まあね」


 喪服に身を包んだ男がそこにいた。眉まで下ろした黒のナチュラルヘアに、正義感に溢れた真っ直ぐな赤目。

 なぜか俺の保護者ということになっている、ショージがそこにはいた。


「辛い世界さ。昨日ラーメンを食べる約束をした仲間が、翌日には息をしていない。だから、僕は約束が嫌いなんだ」


 そう言って、俺と同じようにフェンスへ腰掛け、ブラブラと宙に舞わせていた俺の足を、こら、と言い静止させる。

 夕日がショージの影を作り出した。


「でも、よく持った方だったんだ。彼女も。六年になるかな。最近は引退したいとよく言っていたなあ」

「優秀だったんだな」

「それはもちろん」


 珍しくない話だ。俺の世界でも、こっちでも。

 それでも、少年少女はこの地獄に栄光があると信じ、自ら足を踏み入れる。俺もその一人だった。

 こちらの方は選択肢がない分よりタチが悪い。


「仕事終わりに食べたいからって言っていてね。僕がラーメン屋で先に待つようにって。いつまで経っても来ないからさ。……こんなの、ないよな」


 声が震えていた。

 気の利いた言葉の一つでも思い浮かぶのならば、良かったのだろう。ただ、俺はなんと言っていいかわからず、ただそばにいることしか出来なかった。


 長い沈黙の後、一緒に剣でも振るか、と声をかけようとしたその時。


 ――びるが揺れた。いや、トーキョーが揺れた。


 なにか巨大なエネルギーに揺さぶられているような、そんな。


「バカな……このエネルギー……S、いやSS級か……!?」


 ショージが立ち上がるのと同時に、ショージの仕事用の携帯が鳴った。

 出勤らしい。


 クイと黒の服をつまむ。


「行く」

「君が……」


 苦々しく顔を顰めた。

 俺の強さも知っている。同時に、俺の弱さも知っている。


「贅沢を言っていられる余裕があるのか?」

「……」


 まあ、止めたとしても俺は行く。


「死ぬなよ」


 ショージは小さく呟いた。肩をすくめる。これは約束に入るのだろうか。


「さて、この力……覚えがあるのは、俺だけか……」


 誰にも聞こえないように、呟いた。

 異界からの侵略者(魔物)の多くは俺の世界でも見覚えのある奴らが多い。

 最も、その性質はこちらの世界の来る時に変容するようで、全身が黒色の、理性のない怪物になっている。


 で、だ。もし、魔物が俺の世界から来てるとするのならば、この覚えのある魔力は。


 そう、この覚えのある魔力は、もしかしたら――

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