極東編:極東10
聖族の話を聞いていたらかなりの時間が経ってしまったようだ。あの二人のことだからこの程度の聖族には負けないと思うが……四天王は違う。私の到着を待たずに勝手にミカエルに挑んでいたとすればかなりまずい。イザベラ様の話を少し聞いた時には魔貴族と同等かそれ以上の実力と言っていた。二人にメッセージさえ飛ばすことができれば……。情報の遮断、本当に厄介な聖法だと思う。
「多分、上だね。」
大体偉そうな人は上にいる印象がある。王国の王とかもそうだし。
「ミカエル様は上だ。天守閣におられる。」
私は驚いてそちらの方を見る。
「……精神操作魔法は解けているはずですが。」
さっきまで尋問をしていた聖族が発した言葉だった。どうして私にそんなことを言うのだろうか。
「私はどうせ死ぬ。命令を遂行できない存在は、天界には必要ないのだ。」
壁に背を預け、座りながらそのようなことをいう。
「すまなかったな。人間を、奴隷のように扱ってしまって。」
下を向きながらいうその表情は嘘を言っているようには見えなかった。でも……
「なんで今更そんなことを言うんですか。そう思うならもっと早く止めればよかったですよね。」
私は聖族を睨む。できるなら最後まで悪者であって欲しかった。人間なんかが想像できないような思考回路で、まるで災害かのように淡々と蹂躙してくれれば、私も何も考えずに刃を向けられたのに。
「本当に……すまない。ミカエル様の命令には、逆らえない。」
「……聖族は、私たちの敵ですか?」
いつかのご主人様の言葉を思い出す。
『真なる敵を見定める力をつけよ。』
一人一人に異なる正義がある。それを目で見て、肌で感じ、判断しなければいけない。……私たちが刃を向けるべき存在をあやまってはいけない。
「少なくとも私は、この作戦には反対だった。人間は、道具ではない。魔界を支配するのならば直接挑めばよかったのだ。」
そもそも私は魔界を支配するとう部分に納得がいっているわけではない。ただ、聖族には聖族の考えがある。
はぁ……一体私はどうしたらいいんだ。今すぐにでもグルンレイドに戻ってイザベラ様に報告したい。だが、魔界と黒海を繋ぐ時空の歪みも、奴隷としてそれを手伝わされている人たちのためにも、これは『今』解決しなければいけないことのだ。
全てを解決できるという自信が持てない自分が恨めしい。力のなさとか、経験のなさとか、己の未熟さを改めて実感する。
「……人間を救いたいという気持ちがあるなら、今すぐに助けに行ってください。どうせ死ぬ命なんですから、それくらいできますよね?」
「……わかった。」
そんなことを言ったが私は誰も死なせる気はない。私がミカエルに勝てば、彼女が死ぬことはないのだから。できるとかできないとか、そんなことを考える前に私は行動をしなくてはいけない。リーダーである私が迷っていてどうするのだ。
そう思いながら私はこの城の最上階、天守閣と言われるところまで飛んで行った。




