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極悪辺境伯の華麗なるメイドRe  作者: かしわしろ
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メルテ・ローズ3

「アドルフ様、もう少し集中してください。」

「わ、分かってる!」


分かってはいるのだが、こんな状況で集中する方が難しいだろう。今、俺はメルテに魔法の指導をしてもらっている。体内魔力を練りこみ、魔力密度を上げるということをやっているのだが、やはりこれは近すぎる!


「こうしなければ、アドルフ様の魔力密度を感じることができません。」


俺の後ろから肩に触れるような形で手が置かれている。確かに相手の魔力密度を正確に感じるには、身体的な接触が一番手っ取り早い。自身の魔力空間で相手を包み込んで、相手の魔力空間との差分で測るという方法もあるが、やはり『直接接触』に比べると精度もやりやすさも劣る。


「アドルフ様、さすがです。数日でこんなに魔力をコントロールできるようになるなんて。」

メルテが少し動くだけで、いい匂いがする……なんて考えるな。集中しろ!そして、たまに大きな胸が当たるのももどかしい。


剣術の稽古でも同じようにメルテから注意をされる。剣を持つ腕の形を教えるために、メルテが俺の後ろへ回って、腕に手を添えるのだ。


「少し胸を張ってください。」

メルテが手本として胸を張ると、背中に柔らかい感触がする。集中しろというほうが無理だ。


 だが、確かに魔法や剣術の教え方はすごく分かりやすい。俺の特徴をすぐにつかんで、長所を伸ばし、短所を改善するような情報を与えてくれる。だが、たまに荒っぽい教え方になるのが玉に瑕だ。この前なんてヒートボールを使うことができない俺に、『とりあえずヒートボールで鉄を溶かしてみてください。』なんて言ってきた。倒れそうになるくらい魔力密度を上げて、やっと鉄の一部分を溶かせるようにはなったが。


 そしてもう一つ分かったことがある。分かったというかもともと半信半疑だったことが、確信に変わった感じだ。やはりメルテの魔法の実力は異常だ。また、本人は『剣術は苦手でして』といっていたが、俺からしてみれば十分すごいものだった。身体強化魔法を常に発動しながら、剣に魔法を付与して切れ味を上げたり、炎をまとったりしていた。アイスロックを見せてもらったときと同じような、魔法の多重操作というやつだ。


普通は剣士は魔法を使えない。魔法を使えるのであれば魔法士になるからだ。逆もまたしかり、魔法士は剣士にならない。魔法を使えるのに剣術を習う必要がないからだ。メルテが使っている『華流』というものは剣術に魔法を織り込むという新しい技術なのだそうだ。


「すごいな、メルテは。」

一日の予定がすべて終わり、もう寝るだけだというのに、柄にもなくそんなことを言ってしまった。メルテは他のメイドとは違う。変に俺を怖がったりもしないし、言いたいことは割とはっきりという(奴隷としてどうなのかと思うが)。だが、そういうところもいい。と思えるくらいには、俺も変わったのかもしれない。


「ありがとう、ございます。」

いつも見ることができない、メルテの少し驚いたような顔は新鮮だった。メルテはいつも俺が寝るまでこうやってそばにいる。お前も自分の部屋で寝たらどうだ、と最初のうちは何度も言っていたのだが、頑なにそれを断わられた。別に、俺も嫌というわけではないからかまわないのだが……。


「華持ちは、みんなそんなにすごいのか?」

ろうそくの明かりで、薔薇の絵が描かれたバッジが光った。以前もこのようなことを聞いた気がする。


「えぇ、そうですね。私より強い人たちもたくさんいます。」


……冗談じゃない。メルテ以上の実力者がそんなにたくさんいてたまるか。だとしたらそれはもう一つの軍隊といえるのではないか?それが本当だったら、王都の軍勢も敵ではないだろう。


「メルテは……例えばグルンレイド辺境伯から呼ばれたとしたら、ここを離れるのか?」

こんなに強い力を持つものを、そんなに簡単に売ることができるものなのか?まだ何かしらの制約があって、ふとしたことでここを離れてしまうのではないかという不安が生まれる。


「……私は、アドルフ様のものです。」

メイド服が擦れた音がした。おそらく椅子から立ち上がったのだろう。つむっていた目を開き、そちらの方を向く。


「グルンレイド様はそのようなことはなさらないと思いますが、もし呼ばれたとしても私はアドルフ様のそばを絶対に離れません。」

俺の目を見てはっきりという。片目しかないが、とても強くて美しい目だと思った。


「そう、か。」

奴隷のメイドなんて認めない、といっていた頃の俺は子供だった。奴隷とか平民とか貴族とか、そんなものを気にする必要はないのだ。能力のあるものがその役職に就く。それでいいではないか。


「俺、メルテの主人として恥ずかしくないような人間になる。」

今の俺では猫に小判という言葉がぴったりだろう。全然メルテに釣りあっているような主人ではない。


「そんなことは……」

「いいや、ある。だから俺は……」

メルテの目を再び見つめる。


「メルテに見合う主人になってみせるから。」

「っ、あ、ありがとう……ございます。」

メルテの顔が急に赤くなる。


「そ、それでは、私はこれで失礼しますね」

バタンと扉が閉められた。


「……。」

終わった。……完全にやってしまった。明日からどういう顔でメルテに会えばいいんだ?穴があったら入りたいほどに恥ずかしい。が、後悔はしていない。さっき言った言葉は、俺の本心だ。メルテには、聞いて欲しかった。


「だから明日も堂々としていればいいんだ。堂々と……」

自分に言い聞かせながら布団をかぶった。が、きっと今日は眠れない。

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