極東編:黒海1
お風呂に入った後は夜ご飯だが、残念ながらこの港に子供だけで入れるお店はこの時間帯以降にないらしい。私たちが昼間に行ってご飯を食べたあの場所も、夜にはアルコールの提供があるようだ。ヴィオラさんのよっている姿を一度見たことがあるのだが、なんというか別人だった。気持ち良くなるとはよく聞くが、私は別に飲みたいとは思わない。
「部屋の中で食べるしかないね。」
「そうだね。」
オリビアちゃんはすんなりと従ってくれたが、レイリンちゃんは少し嫌そうな顔をする。アクティビティな彼女にとっては、ご飯を食べると言う目的以外にも単純に外に出たいのかもね。
「食事はダメだけど、見てくる分にはいいよ。」
もちろん認識阻害魔法を使ってね。と付け加える。夜に子供一人で外に出るのは危険なのだが、グルンレイドのメイドにとってはそうではない。むしろほかの人に怪我をさせないかの方が気になる。
と言うことで軽食を済ませ、レイリンちゃんは夜の街へ、私たちは布団の中へと潜り込んだ。……やっぱり布団が硬い。
次の日の朝、隣を見るとオリビアちゃんの姿がなかった。いつものように剣の訓練を行っているのだろう。レイリンちゃんはぐっすりと寝ていた。彼女を起こすためにほっぺを何度かつついてから、私は顔を洗いに行った。
レイリンちゃんはまだ寝ぼけている感じだが、私たちは昨日の船をレンタルできるお店へと向かう。
「これが船……」
オリビアちゃんはまじまじと海の上に浮かんでいる船を見ていた。確かに初めてみる人にとっては珍しいものかもね。この船は至ってシンプルな作りになっていて、魔力動力炉と舵の二つしか機能がない。屋根がないので、雨が降った時や強い日差しの時は少し不便かもしれない。私たちは魔法障壁があるから問題ないけど。
「本当に大丈夫か?」
店員のおじさんがそのように聞いてくるが、心配は無用である。
「大丈夫です。黒海には近づきませんから。」
「それではいってきまーす!」
レイリンちゃんは眠気も覚めたようで、楽しそうに手を振っていた。
「じゃあ、行くよ。」
私は魔力動力炉に目一杯魔力を流し込む。すると……
「わっ!」
ものすごい勢いで船が進んでしまう。陸が一瞬にして離れていってしまう。
「大丈夫みんな……あれ?」
私以外誰もいなかった。
「クレアちゃん!私もうびしょびしょだよ!」
「クレア……覚悟はできてる?」
しばらくまっていると、二人が浮遊魔法を使ってこちらへ飛んできた。あ、あれー?みんな濡れてるけどどうしたのかなー?……すみません、あまりの船の初速に二人が落ちちゃったんですね。
「あははー……ごめんなさい。」
次はもっとゆっくりと魔力を流し込もう。
—
「風が気持ちいいー!」
船の先頭に立って両手を広げているのはレイリンちゃんである。私はずっと船への魔力供給係をやっているが、思ったよりも少ない魔力で船が動かせたので苦ではない。
「どれくらいで着くの?」
「大体3時間くらいかな?」
普通の魔法士だと丸1日かかるらしいのだが、今の感じだと3時間くらいでなんとかなりそうな気がする。もっと飛ばせばそれこそ1時間と少しくらいで着くかもしれない。
「お菓子食べよ。」
オリビアちゃんが私の持ってきた鞄の中からお菓子を探し始める。あ、まって、私も食べたい。
「いいねー」
レイリンちゃんもこちらへやってきた。この船はかなりのスピードが出ているが、体幹がいいのかそんなに船内を軽々と移動していた。
「何がいい?」
「チョコレート!」
と言う会話と共に、カバンの中から一つの箱が取り出された。これはグルンレイドでも人気のチョコレート店のおすすめ商品だ。カリッとした硬めのチョコの中には、下に触れるだけでとろけるような生チョコレートが隠されている。確か同じグルンレイドのメイド見習いのメルテちゃんもこれが好きだった気がする。
「いただきます。」
「おいしー!」
「あ、私も。」
と言って右手を差し出す。魔力を送るために少なくとも片方の腕は魔力動力炉に触れていなければならない。よってここから私は移動できないのだ。
「はい、あーん!」
「い、いや、右手空いてるから……。」
レイリンちゃんが私のそばまでやってきてそのようなことを言うが、別にあーんする必要なくない!?
「あーん!」
レイリンちゃんは一歩も引かないようだ。し、仕方ない。
「あ、あーん。」
パクッとレイリンちゃんの持っているチョコレートを食べる。あ、甘い!が、少しレイリンちゃんの手が唇に触れてしまった。申し訳ない。
「私もやる。」
なんの対抗心なのか、オリビアちゃんまでチョコレートを持ちながらこちらへ向かってくる。いや、こっちの手に渡してくれればいいからね?
結局私の抵抗も虚しく、オリビアちゃんからもあーんをされた。もちろん私の唇はオリビアちゃんの手に少し触れてしまった。決してわざとではない。本当だよ?




