極東編:港町2
「へいおまち!」
どん!という音とともに、三つのどんぶりが置かれた。
「ありがとうございま……」
目を奪われた。丼の上には綺麗に捌かれた魚、そしてその卵だろうか、丼の上の全てがキラキラと輝いていた。
「美しい、ですね……」
「そうだろ!」
二人もあまりの美しさにかなり驚いているようだった。
「しかしこれはメニューには……」
「お前ら、グルンレイドのメイドだろ?」
「そう、ですが……」
メニューに内容なすごく高級そうな商品を提供してくれるのはありがたいが、なぜだろうか。……グルンレイドのメイドはお金を持っていると思われているのだろうか?
「ここはな、この港は、グルンレイドに守られているんだ。」
あまり知られてはいないがな、と付け加えていた。
初めて知った。グルンレイドの力は王国まで轟いているということは知っているのだが、実際に保護下に入っているような土地を私は知らない。……が、そのような土地があってもおかしくはない。
「だから、ちょっとくらいサービスさせてくれよ。」
「は、はい。」
そう言って他のお客さんの注文を聞きにいってしまった。
「すごいね、グルンレイドって。」
「私たちはそこのメイドなんだけど……知らなかった。」
二人もそのようなことを言う。
「ここは極東行きの船を出せる、唯一の港だからね。」
ここを重要視するのも納得がいく。おそらくローズたちが色々とやってくれているのだろうが、その恩恵を私たちが受けるのは少し申し訳ないと感じてしまう。まあ、カルメラさんなどにそう言うと、『あなたたちはグルンレイドの一員だから気にしなくていいのよ』と言ってくれることだろう。
「じゃあ、早速食べよう!」
「いただきます。」
いろいろ考えても仕方ない、私も早速この海鮮丼をいただくことにしよう。まずはひと口。
「お、おいしい!」
魚の生臭さなど一切なく、旨味のみが口の中で広がっていく。極東で作られる調味料、醤油というものが至る所に散りばめられているようだった。それがさらに素晴らしいものへと進化させていた。
「これが生の魚……」
オリビアちゃんもかなり驚いているようだった。そう呟いたきり黙々とスプーンでそれを食べ続けていた。その姿を見るとみんなをここに連れてくることができてよかったと思う。このような経験も外に出なければできないことだからね。
港町の特産品を堪能して私たちはお店を出た。最後にデザートまで出て来たので、このお店には感謝しかない。
—
「極東行きの船って出てるの?」
「いや、船を借りるよ。」
亜人国行きや共和国行きなどの大型の船であれば定期的に出ているのだが、極東行きの船に関しては一切出ていない。その理由は、大陸と極東の間には黒海という瘴気密度が異常に濃い海域があるからだ。
「基本的に、船を買うか借りるかして自分で行って、という感じなんだね。」
「そうそう。」
黒海に出てくる魔物は普通に魔界にいる魔物クラスなので、そう簡単に行けるものではない。が、お金のある貴族などは私たちグルンレイドのメイドや、腕のある冒険者を雇って向かうこともある。
「お金は持ってるの?」
「いや、貰ってはないんだけどね。」
おそらくメイド長は普通に浮遊魔法を使用すると思っているので、船代はもらっていない。しかし、私の財力を舐めないでほしい。というか、グルンレイドのメイドの財力を舐めないでほしい。普通にそこらへんの貴族並みの財力はあると思う。
「私の貯金を切り崩して借ります。」
「あ、じゃあ私も少し出すよ。」
「私も。」
オリビアちゃんとレイリンちゃんもお金を出してくれるようだ。まあ別に数日間船を借りるくらいだったら、私一人でも支払えるのだが、ありがたくもらうことにしよう。
「どれくらいなの?」
「極東へ行くのに推奨されている船だと、3日間で金貨300枚位だよ」(金貨1枚1万円程度)
魔物に攻撃される前提で、かなり強度のある装甲が付けられている場合が多い。さらに貴族、付き人、冒険者などの多くの人がその船に乗るのでかなり大きい。
「けど今回借りるのは3日で金貨30枚くらいのやつだよ。」
今回借りようとしているのは4人乗りの小さな船である。風ではなく、魔力で動かせるタイプの船なので少し高くなっているがそれでも金貨300枚よりは安い。
「安い!」
そこまで驚くほど安くはないんだけどね……。まあ、レイリンちゃんは貴族出身からの、グルンレイドのメイドだ。金銭感覚がいまだに掴めていないのは仕方ないだろう。
「それじゃあ、早速船を借りに行こう!」
4人乗りの小さな船で大丈夫かと思うかもしれないが、普通に考えれば大丈夫ではない。しかし私たちの場合は、船全体に魔法障壁を貼りながら行くので壊れる心配はない。出てくる魔物も全て倒しながら行けばいいのだ。




