華宴:終わり
「以上で舞踏宴を終了いたします。」
うぉーという歓声とともに、メイド長が終了の宣言をしていた。その歓声とは裏腹に、私はこの最終日の全ての試合に絶句していた。周囲を見渡してみると、やはり私のように驚きを隠せない人たちがちらほら見かける。
「これがマリー・ローズ……」
私の視界の先で立っている先ほどまで戦っていた二人のマリーローズを見つめる。片方が赤髪、もう片方が白と緑の入り混じった髪だった。その剣が描く軌道の一つ一つが芸術の域を超えていて、唱えられる魔法の全てが完成されている感じがする。やはり何度も思う、私たち異世界人が到達することのできない領域にいると。
—
「ハルさんではありませんか。」
「どちらで……め、メイド長さん!」
心の底に染み渡ってくるような澄んだ声の方を向くと、そこには超絶美人が立っていた。
「どうでしたか?舞踏宴は」
「素晴らしかったです!」
これは隣国もグルンレイド領に変にちょっかいを出そうとは思わなくなるはずだ。
「あれほどの力を持っているメイドたちが数多くいるグルンレイドを、隣国はどう思っているのでしょうか?」
どうしても気になってしまい、メイド長さんに聞いてしまった。
「周辺貴族各々は膝を折っていますが、国ともなるとプライドが許さないのでしょう、かなり高圧的ですよ。」
王国や共和国、亜人国など様々な国がこの世界には存在するが、そのどれもがグルンレイド辺境伯を認知していると言っていた。私からしたらこれほどの力を持つ存在を認知するのは当たり前だという考えになるが、よく考えれたいち辺境伯の名前が世界に轟いているというのは驚くべきことなのだろう。
「すごいですね……」
スケールの違いに、この言葉しか出てこない。私がいかにあっちの世界で何も考えずに生きてきたかがよくわかる。努力の量というか、向上心というか、そんな感じのものが圧倒的に足りない。
「そうですね、ご主人様は素晴らしいお方です。」
私はグルンレイドのメイドたちも含めてそう言っているのだが……まあ、グルンレイド辺境伯がすごいことには変わりないので何も言わないでおく。
「いつか、あなたたちの世界にも行ってみたいとおっしゃっておりましたよ?」
「私たちの、世界にですか……。」
確かに私たちがこっちに来れているのだがら、あっちに行くことができないと断言することはできない。それを自らの手で成し遂げようとしているのか……。
「私も協力できることがあれば、協力させてください!」
「ありがとうございます。」
そう言って、メイド長さんとの話は終わった。
この一週間で感じたことはたくさんある。あっちの世界でもこっちの世界でも私はもう少し行動を起こさなければいけないようだ。




