魔界編:終わり3
「イザベラ、お前はトルティーヤ・ブラッド・ビクトリアをどう見る。」
魔界から戻ってきて少しゆっくりしたとき、ご主人様の部屋でそのようなことを聞かれる。
「方向性のない力の塊、でしょうか。」
かなりの力を持っているが、その力の使い道を知らない、ただの子どもという認識だ。
「ふむ、そうだな。」
ご主人様もそのような感じで考えていたようだ。
「あの城は素晴らしいものだった、別荘として使わせてもらいたいのだがどうだろうか。」
「素晴らしい考えかと。すぐに手配させます。」
あの魔王城は魔王のものだ。現在の所有者はマークということになる。マークの所有物は必然的にご主人様の所有物でもあるので、結論魔王城はご主人様のものということになる。万が一マークがそれに渋ったような態度をとった場合はすぐにでもたたき斬ることにしよう。
「それと、ビクトリアはどのような立ち位置にいたしますか?」
「そうだな、マークの部下ではあるが、勇者の卵たち同様グルンレイドのメイドとする。」
「かしこまりました。」
確かにまだ子供だ。メイドとして、さまざまな作法や一般常識を教える必要があるだろう。
「するとマークの部下は四人になるということか。」
「そうですね。」
ヴィオラ、アイラ、ディアナ、ビクトリア……名目上はグルンレイドのメイドだが、常にマークのもとで働いているため、あまりグルンレイドには干渉していない。
「多いな……今の部屋では窮屈だろう。」
今まではグルンレイドの屋敷の中の一室に、マーク+メイド三人が暮らしていた。ほかの部屋よりもかなり広いのだが、さすがにもう一人追加となると狭いと感じるかもしれない。
「新たに屋敷を建ててやれ。」
「よろしいの、ですか?」
急なことで少し驚いてしまう。てっきりもう一部屋増やすとか、もっと広い部屋を用意しろというような命令が飛んでくるのかと思っていた。
「これは実験でもある。以前異世界の建築技術に関する情報が手に入ったといっただろう?」
「そ、そういうことですか!かしこまりました。」
私のはるか先のことを考えている。どこまですごいお方なのだ。以前、ある異世界人を保護したときに異世界の建築について話を聞いた。それを実行しようというのだ。
「電力はない。そこは魔法で代用するようにしろ。」
「かしこまりました。」
電力……ここでもそのような言葉を聞くことになるとは。もしかしたらコトアルなら……と思ったが、いちいち電力を使用するのに魔界の門からコトアルを呼びつけるわけにもいかない。
「……そんなところか。」
そういうとご主人様は手に持っていたワイングラスを机の上に置き、窓の外を眺める。
「本日は、もうお休みになられますか?」
少し早い時間だが、少し前まで魔界にいたのだ。ご主人様にとって瘴気など何の問題にもならなかっただろうが、精神的には少しは疲労があったはずだ。
「いや、もう少しお前と話していたい。」
「っ!」
「だめか?」
「め、滅相もございません!私ののどが焼き切れようとも、私は会話を続けさせていただきます。」
突然のことで私の心臓が悲鳴をあげそうになる。まさか、ご主人様の方から会話を続けようという提案がされるとは。
「今日くらいだろうからな、ゆっくりできるのは。」
「確かに、そうですね。」
普段であれば様々な仕事が残っており、夜も私は仕事をしなければならないだろう。もちろん、ご主人様が会話をしたいというのであればそれに従うが、やはりほかのメイドたちにしわ寄せが行ってしまう。ご主人様はそういうことも分かっているのだ。
今日はこのつかの間の幸せを精いっぱいかみしめるとしよう。そう思いながら、私はご主人様のグラスにワインを注いだ。




