魔界編:終わり1
ご主人様、そして子供達三人とともに魔界に取り残されてしまったわけだが……どうしたものか。
「ご主人様これからどういたしましょうか。」
「はぁ、どうしようもないからとりあえず一泊するか。」
「そう、ですね。」
正直前回のように同じ部屋になってしまったら緊張して十分に休むことができない。
「ここが街というものかの。」
魔王がそういう。正確には元魔王か。確かに力こそは圧倒的だが、やはりまだ子供のような幼さがある。この様子だと街というのもを見たことがないようだ。きっと魔王城から外に出たこともほとんどないのだろう。
「ビクトリアちゃん、すごいね。」
アイラが街を見渡しながらそういう。
「……ビクトリアちゃん、じゃと?」
「そう、ビクトリアちゃん。」
「アイラいいね、その呼び方、私もそう呼ぶね。ビクトリアちゃん。」
「に、人間如きがそのような口を聞くとは何事じゃ!」
顔を赤らめながらそういう。きっとこんなに馴れ馴れしく接せられることも初めてなのだろう。
「こら、ビクトリア。そういう言い方はないだろ。」
ご主人様がそういう。これは完全に父親のセリフですね。
「うっ……ご、ごめんなのじゃ。」
かわいい。なんてかわいいのだろう。ちょっと生意気なところもあるが、それもそれでいい味だと思う。
「いいよ、許す!」
「許し、ます。」
「あ、ありがとうなのじゃ。わしも、アイラ、ディアナと呼んで良いかの?」
いいよ!と言いながら三人で抱き合っている。なんとも仲睦まじい様子で。
「ビクトリアちゃんの戦いかっこよかった!」
ディアナがそういう。私は正直怖さの方が勝っていた。これはすでに私が人間の価値観に染まってしまっているということを示しているのだろう。ジラルド様は、それをかっこよかったと表現できる感性がこそが重要だと言っているのだ。
「私も、そう思う。」
アイラもそれに続いて言う。
「そ、そうかの。」
かなり照れているようだ。
「私にもその動き方教えて欲しい!」
「そこまでいうなら仕方ないの!わしが……いや、お姉ちゃんが教えてやるのじゃ!」
ビクトリアは完全に姉気取りである。だがその方がかえっていいのかもしれない。最初は子供達同士がうまくいくのか心配だったのだが、それも杞憂だったようだ。
「ガキどもの仲が良くてよかったぜ。」
「そうですね。」
「ところで魔石はどれくらいある?」
「まだ大量にあります。」
そう言って袋の中身を見せる。1番小さい魔石でもあれほどの影響力があったのだ、この魔石達はどれほどの影響力があるのだろうか。
「とりあえずは宿だな。」
そうして本日泊まる宿を探すことになった。
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「おっちゃん、ちょっといいか?」
ご主人様が道を歩いている方に声をかける。
「おうなんだ。」
獣人、だろうか、私は魔物の種族に関してはあまり詳しくないのでよくわからない。
「ここら辺で宿を探してるんだ、いいところはあるか?」
「そうだな、いい宿といえばアルデバランだろう。ただオメェらみたいな夫婦が泊まれるような料金じゃねぇぞ?」
「ふ、ふう…いや、そうだな、わかったありがとよ。」
夫婦に見えるのだろうか。いや確かに子供達がうろちょろしているとそれは見えるだろうなと思う。ちらっとご主人様の方を見ると顔を赤くしていた。視線が合うと気まずい雰囲気になってしまいそうなのですぐに目を逸らす。
「そ、そこに行ってみるか。金だけはあるしな。」
「そ、そうですね。」
何だか私まで顔が赤くなってくる。
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「お待ちしておりました。マーク様。」
アルデバランに着いたときにそう言われる。
「おい、どういうことだ?」
「グルンレイド様がここを出られる際に、ご予約をなさっておりました。マークという名で。」
全てジラルド様の手のひらの上ということだろう。ご主人様も顔に手を当てている。
「わかった料金はいくらだ。」
「すでに支払われております。」
さすがである。
「それではこちらです。」
そう言って魔族と思わしき案内役に連れて行かれる。子供達は初めてみるような超高級宿にかなり興奮しているようだ。
そう言って案内されたのは下手したら一泊金貨百枚くらいするような立派な部屋だった。
「おーすごいな。」
「そうですね。」
「それではごゆっくり。」
そう言って魔族がそこを離れようとする。
「お、おい待ってくれ。こいつらの部屋は?」
そう言ってご主人様はこちらをみる。
「申し訳ありませんが、お部屋は一つしか予約されておりません。あいにく他のお部屋は満室でして。」
「……どうするヴィオラ、別の宿探すか?」
「わ、私は問題ありません。」
せっかくジラルド様がご用意してくださったものをむげにはできない。さらには昨日も一緒の部屋に泊まったから今更というのもある。大丈夫、問題ない。と思う。
「そ、そうか。」
「それではごゆっくり。」
そう言って今度こそ魔族がいなくなってしまう。
「じ、じゃあ入るか。」
「そ、そうですね。」
そう言って扉を開ける。




