魔界編:魔王城6
俺は歩きながら聖法による身体強化と防御をすべて解く。
「くっ……。」
その瞬間、周囲の魔力密度が濃すぎて倒れそうになる。が、そこは意地で何とかして進んでいく。
「な、何をばかなことをしておるのじゃ!」
「こうでもしないと、お前は気を許してくれないと思ってな。」
これで魔王からどんな小さな攻撃をくらっても、おそらく俺は消し飛ぶ。だが、こうでもしないと俺を見てはくれないだろう。だが、いつの間にか魔王の魔神化は解かれていた。
「っ!」
俺が手を前に出すと、魔王がぎゅっと目をつぶる。
「怖きゃ魔法を使って吹き飛ばしてもいいんだぜ?」
身体強化を何一つ行っていない人間なんて、恐れるに足りないだろうが。しかし、何もしてこない。俺はそのまま手を下に、魔王の頭をなでる。
「ガキはガキらしく甘えとけ。」
「うっ、うっ……。」
今まで一度たりとも流したことのないであろう『涙』が次から次へとあふれてきていた。よほど我慢していたんだな。徐々に魔力密度が薄くなってくる。
「ボス、こいつ、うちで雇えないか?」
俺の勝手な要望に対して、メイド長が真っ先に何か言ってくるものかと思ったが何も言わない。
「ふむ。」
そういって何かを考えているようだ。
「いいや、雇うことはできん。」
「どうしてだ、まだ子供なんだよ!」
なぜ駄目なんだ。その理由を教えてくれ、そんな思いでボスをにらむ。
「なぜなら私はそいつに戦いで勝利していないからな。」
「それは、どういう……。」
「戦いに勝ったお前が責任を取るべきだろう?マークよ。」
ボスによって薄くなってきたはずの魔力密度がさらに上昇する。その背後からの魔力の渦が目に見えてわかるほどだ。これは提案ではない……命令だ。こうなってしまえば、俺にはどうすることもできない。
だが……これは悪い話ではない。
「い、いいのか?」
ボスからの許可はもらった。このようにとんとん拍子に進むということは、ボスはきっとこのシナリオを最初から考えていたのだろう。改めてボスの恐ろしさを感じる。
「なあ、お前が良ければだが、俺と一緒に来ないか?」
涙が止まった時に、小さな魔王にそう尋ねる。
「い、いいのか?」
「ああ、いい。」
「魔界は、魔王はどうなるのじゃ?」
「そんなものは知らん。」
「本当に、いい、のか?」
「本当にいい。」
「ならば……よろしく、頼むのじゃ。」
そういって、頭を俺の心臓付近に当てられる。そして数回ぐりぐり。……魔族に伝わる信頼の証らしい。なんか恥ずかしいんだが。それを見たアイラとディアナも真似をしにやってくる。
--
「ところでマークよ。お前は先ほど、『魔王はどうなる?』という質問に対して『そんなものは知らん。』と答えていたな。それは大きな間違いだ。」
って言ったって別に俺は魔界に詳しくはない。実力ナンバー2の魔貴族あたりがなるんじゃないか?
「古来より、魔王になるには現魔王に戦いを挑み、それに勝利する必要がある。」
へぇー。必ずしも魔貴族がなるというわけじゃないんだな。
「確かにこの瞬間に魔王はいなくなった、しかし、ちょうど魔王に勝利したものもいる。」
……おい。嘘だろ?そもそもそんなに戦ってないし、結果だって魔王が辞退したような形になっただろ。だが、ボスの表情は微塵も変わらず、不敵な笑みを浮かべていた。
「よろこべ、この瞬間からお前が魔王だ、マーク。」
「……マジかよ。」




