魔界編:魔王城3
魔王城に侵入してくる愚か者が、まさか人間とはのう。わしも何度も人間を見ているが、どれも取るに足らない、軟弱な存在だった。
「人間ごときが、最後に言い残すことはないか?」
「特にない。なぜなら最後ではないからな。」
どこまでも減らぬ口よ。
「そうか、ではさらばじゃ。」
そういって魔力密度を上げる。魔法を使わずとも魔力密度を上げてしまえば、人間ごときそこに立っていることすらできない。……はずなのだが。
「どうして倒れないのじゃ!」
「簡単なことだ。まだ魔力密度が薄いんじゃないのか?」
これほどの空間で生きていられるということは、こやつは人間の中でも強い部類に入るだろう。魔界にやってくるような人間には、たまにそのような存在がいるのだ。
「ではこちらから行くとするか。」
「どれ、一発くらいは受けてやろ……!」
「メルトダウン・絶唱」
「あ……」
音が消えた。空間が歪み、すべてを溶かす魔力の流れのみがこちらへ近づいてくるのが見える。
「え、エアヴ……がああっ!!」
熱い、体が溶けていくのを感じる。く、くそっ!回復が間に合わない、瘴気も吸収しなければ!このままでは、本当に、死……!
「ぐ、ぐあぁぁあっ!し、死ぬかと思ったわぁ!」
「ほう、魔神化のエネルギーでかき消したか。」
人間にこの姿を見せるとは思わなかった。が、こうでもしないと確実に死んでいた。なんなのだ、この人間は!……人間なのか?
少しするとわしの後ろから風が吹いているのが感じられた。……風?そう思いながら後ろを振り向くと、信じられない光景が広がっていた。
「え……」
城の壁は丸く破壊され、その奥の山が消え、さらにその奥の雲が消えていた。そしてその魔法が通ったであろう空間は大きくゆがみ、混沌が顔を覗かせている部分もあった。
「おぬしは魔界の脅威となりえるやもしれん。ここで消す!」
結界がやつを包み込み、時間とともに相手の動きを止める。
「獄炎!」
周囲から白い炎が現れ、人間を包み込んでいく。完全に火に飲まれているが、念のためにもう一撃加える。
「ライトムーン」
魔法によって強化した爪で、音速を超えて相手を切りきざもうとする。が、
ガギィン!
「っ!」
き、切れない。顔にとどく直前で止まる。
「やはりな。」
その声はわしの動きを止めるのに十分だった。体が震え始め、膝から崩れ落ちそうになる。
「く、くるな!」
今までわしは『恐怖』というのもを知らなかった。誰にも屈せず、ただ一人孤高に生きてきた。敗北を知らなかった。
だが、震えてしまう。足がくすんでしまう。……これが、恐怖。
「どうした。少女よ。」
「あ……、」
一歩、もう一歩と黒い炎に包まれた人間が近づいてくる。その瞳はまっすぐこちらを見据えていた。
「あ、あぁぁっ!」
後ずさりしようとする足を必死に抑えて、魔眼を発動させる。これで思い通りに操作できるはず……
「と、思っているのだろう?」
不敵な笑みは、わしの心を折るのには十分だった。




