魔界編:魔王城2
やはり広いな。中に入ってみてみるとその大きさがよくわかる。王国のように街中にでも城を立てたほうが何かと便利だと思うが……。なぜこのような山奥に建てたのかは気になるところだ。
周囲を見渡すと城内を歩いているメイドをちらほら見かける。そのうちの一人と目が合ってしまう。
ガシャン!!
「に、人間!」
持っていた皿を地面に落としてしまったようだ。もったいない。あれはかなりいい皿だろうに。するとその声を聞いたほかのメイドが気づき、そのフロア一帯の注目を集めてしまう。
……こうなったら直接会ったほうが早いな。
「とらえろ!ファイアーアロー」
「アイスロック!」
「ライトニング!」
一斉に私めがけて魔法が発動される。
「バニッシュルーム」
イザベラによって魔法が拡散される。魔力拡散率、ざっと1000分の1ということろか。さらには魔力密度が低いものはその場に倒れていく。
「ど、どうなっている!」
そのほかの倒れていないものも、力が入らずに膝をついてしまっていた。地上の魔物は魔力拡散が強すぎると存在そのものが消えてしまうが、魔界にいるような意思持ちの魔物は魂があるので存在が消えることはない。
「ヨグ・ソトース」
私この城の中で最も魔力密度が高いところへと移動する。
--
「下が騒がしいと思ったら、まさか人間の仕業だったとのう。」
「はじめまして。私はグルンレイドの領主、ジラルド・マーグレイブ・フォン・グルンレイドという。」
城の最上階、そこには十歳程度の幼女が玉座に座っていた。
「かっかっか!私を前にして自己紹介とは、貴様おもしろいの!」
けたけたと笑っている。ふむ。魔王というともっと恐ろしい見た目かと思っていたが、可愛らしいものではないか。
「わしは魔王、トルティーヤ・ブラッド・ビクトリアじゃ。」
真っ黒な目がこちらを凝視している。その光彩の周りには光の粒子が舞っている。魔眼……か。
「さて貴様、魔界の王であるわしに何用じゃ?」
「特に用などない。しいて言えば、魔王とやらの顔を見に来たということだな。」
「かっかっか!面白い、面白いの!貴様!」
面白いことなど何も言っていないのだが、楽しいようでなによりだ。
「では、私はこれで帰るとしよう。」
目的は達成できたのだ、あとはゆっくりとグルンレイド領に戻り、休暇を取るとするか。
「おい、待たんか。」
すると魔王に呼び止められる。
「その理由が何であれ、わが魔王城に無断で侵入し、何もせずに帰られると思っておるのか?」
周囲の魔力密度がさらに濃くなる。瞳の中の光がさらに激しく動き出す。確かにただで見学をするというのも失礼なものだ。……金か?やはり金だな。
「すまない。金を払うべきだな。」
「魔石などいくらでもあるわぁ!」
「では何なのだ。」
「貴様の腕……いや、目をよこすのじゃ。」
「いま……なんと?」
イザベラが口を開く。その瞬間魔力密度が急激に上昇する。
「やめろ。」
「……かしこまりました。」
魔王をにらみながら、イザベラは私の横に戻る。
「な、なんじゃ、そのメイドは!?」
急な魔力密度の上昇に魔王も少し驚いているようだ。イザベラは私のこととなると過剰に反応してしまう癖があるのだ。
「すまない、何でもないのだ。それでだ……もう一度聞こう。いま、何と言った?」
「……聞き取れなかったか?目をよこせといっておるのじゃ。」
聞き間違いではないか。
「それが貴様の答えか?今その言葉を取り消せば、冗談だったと笑って許そう。」
「冗談ではない。」
……そうか。それは残念だ。せっかく穏便にことをすませ、帰ろうと思ったのだが、魔王がその気なら私も対抗しないわけにはいかないではないか。
「安心するがいい。しっかりと手加減をしよう。」
「誰に向かって行っておるのじゃ。」
私の前に出ようとするイザベラを止め、私がさらに前に出る。




