魔界編:魔王城1
魔界には魔王という存在がいる。が、私はそれを見たことは一度もなかった。観光がてら一目見てから帰るとしよう。
「イザベラ、魔王城に行く。」
「かしこまりました。」
私の最も信頼するメイド、イザベラにそのようなことを伝える。イザベラは私の意図したことをいち早く察知し、行動に移すことのできる最高のメイドだ。メイド長にふさわしい。
「メアリー、魔王城に勇者どもを呼べ。」
子供たちにも実際の魔王を見せることにしよう。その方がいい経験になる。
「かしこまりました。」
「が、その前に、ハーヴェストがそこに倒れている。介抱してやれ。」
「……!すぐに!」
ハーヴェストが倒れていることに気づくと、すぐにそちらへ向かっていった。
「そこの魔族。」
「は、はい。」
正確には魔貴族だったか。いったいどれほどの強さ化と思っていたら、グルンレイドのメイド見習いと同程度ではないか。
「じきに、お前の息子どもは目を覚ます。安静にさせておけ。」
返事をするとすぐにメイドに指示を出し、息子たちを城の中に運ばせていた。
私のメイドであるリアを傷つけたことは、それほど気にしてはいない。治癒魔法で治せばそれまでだからだ。しかし、傷をつけておいて謝らないということが許せなかった。だからこの件はこれでしまいだ。だが、リアに直接謝らせる必要があるな。
「お前の息子に伝えておけ。いつか、リアにも謝りに行くように、とな。」
そうして私は背中を向ける。
「それでは向かいましょうか。」
「うむ。」
先の魔貴族が魔王城の場所を言っていたようだが、私は一度聞いただけでは覚えることができなかった。が、イザベラが場所を知っているらしいので連れて行ってもらうことにする。
「それでは、ヨグ・ソトース!」
魔王城へ飛んだ。
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ここが魔王城か。私の屋敷よりずいぶんの立派ではないか。湖の先にある、山のふもとまで飛んできたが、そこからでも見えるほど大きな城だった。ここからはせっかくだ、飛行魔法を使用して、周辺の様子を見ながら進んでいくとしよう。
「イザベラ、飛べ」
「かしこまりました。フライ」
見る限り普通の山だが、やはり魔力密度が違う。人間界とは違い、自然に魔物が発生することはないため安全といえる。この魔界には意思持ちの魔物しか存在しない。そんなやつらがこんな森の中に住むとは思えない。
「おい、そこのワイバーン」
魔王城の近づくと、ちょうどワイバーンが通りかかったので、声をかける。魔王への連絡なしに魔王城へ来たため、一度私が来たことを伝える必要があるだろう。
「に、人間!」
「魔王に会いたいのだが、どうすればいい。」
「に、人間を通すわけにはいかない!」
すると話を聞きもせずにこちらに襲い掛かってきた。
「シンクロナイズ」
イザベラが精神支配の魔法を唱える。
「さすがだな。私も情報を引き出す必要があると考えていたのだ。」
「いえ、私がこの魔法を唱えることなど百も承知だったのでしょう。」
そういって頭を下げる。できたメイドだ。
「魔王に会いたい、どうすればいいのだ。」
「私がご案内いたします。こちらです。」
私の質問に素直に答える。うむ、やはり素直が一番だ。
後ろをついていくと魔王上の入り口に降り立った。
「おい、まて。」
さっきとは違うワイバーンに止められる。おそらく門番だろうな。
「そいつは誰だ。」
私たちのほうを見ながらそういう。
「あれ、えっと……。」
ワイバーンが考える。が出てくるはずがない。まだ名を名乗っていないのだからな。
「私はグルンレイドの領主、ジラルド・マーグレイブ・フォン・グルンレイドという。」
「人間か!なぜここにいるかはわからんが、通すわけにはいかん!」
またしても襲い掛かってくる。なぜ話を聞かんのだ。人間がそんなに嫌いか?
「シンクロナイズ……魔王の元まで案内してください。」
「かしこまりました。」
同じようにイザベラの魔法によって精神支配される。場内はこの門番に案内させることにした。




