魔界編:ザヴァル家4
「お初にお目にかかります。グルンレイド家のメイド、イザベラ・マリー・ローズと申します。」
「弱いやつに名乗る名などない。」
さっき兄さんを睨んでいたメイドと戦うこととなった。人間の分際で失礼なやつだ。
「お前たちの仲間が傷つけられたからここへ来たんだったか?わざわざ殺されに来たとは。」
「……あなたでは話になりませんね。」
俺のことなど興味がないような表情でこちらを見ている。
「そのなめた態度も今のうちだ!ブリザードラッシュ!」
そのメイドに向かって氷の刃を飛ばす。そして反応もできずに直撃した。
「ほらな、なめすぎだ。」
魔界においても魔族、しかも魔貴族の存在を知っていないのだろうか。誰もが震えあがるほどの圧倒的な力を持った存在だぞ。……しかし舞い上がった土埃の中から声がする。
「あなたのほうがなめすぎです。」
……無傷だと?そんな馬鹿な。
「ファイアーアロー!」
「はぁ、もう少し骨のある相手だと楽しかったのですが。」
そう言って今度も魔法は直撃するが、ダメージを負った様子はない。
「くそっ!だぁっ」
腰に下げていた剣を取り出し、メイドに切りかかる。俺の攻撃が全くきかないなんてありえない。人間が魔族の攻撃を防げるはずがないのだ。
「華流・周断」
魔法によって剣がとりだされ、振り下ろされる。
「ぐあぁぁっ!」
腕が切り落とされ、その後ろを見ると雲が二つに割れていた。魔法防御がまるで意味をなさない!
「あ、アイスロッ……」
「華流奥義・極一刀」
その瞬間、意識が途絶えた。
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弱い……。これが魔貴族を名乗っていいのだろうか。この程度だと見習いのメイドたち数人でも問題なく戦えたはずだ。
そこに転がっている魔貴族は絶命こそしていないが時間の問題だろう。殺してしまうのはご主人様の意向に反してしまうので、治癒領域を展開する。
回復すると同時に魔法による枷を取り付ける。
「よくやった。」
ご主人様の声が聞こえた。
「おほめに預かり光栄です。」
私などついた虫を振り払うくらいのことしかしていないというのに、このようにほめていただけるとはなんとお優しい方なのだ。
「ほかの二人はまだ戦っているようですね。」
うむ。とうなずく。
ハーヴェストのほうはほぼ互角の戦いをしているが、メアリーのほうはすぐに決着がつくだろう。
確かに魔力密度を見ても、メアリーが相手をしている魔貴族が頭一つ抜けている。が、所詮その程度。グルンレイド領で最も魔力密度の高いメイドが相手では、その魔力密度はないに等しい。
「メアリーの魔力はご主人様と似ておりますね。」
詠唱する魔法がすべて暴走し『絶唱』となる。魔力密度が濃すぎるものの魔法だ。
「本人は魔力の暴走をひどく嫌っていましたが……。」
「それを制御すればよいだけのことだ。」
すべての魔法が暴走しうまくいかなかった彼女を救ったのはご主人様だ。その圧倒的な指導力で、メアリーも魔法を使用できるようになった。
「メアリーにはとりわけ厳しく指導をしてしまったな。」
「そんなことはございません。」
なんとお優しい方なのだ。私が現在指導しているやり方の数十倍は優しく教えていたにもかかわらず、それが厳しいだなんて。
「そこの魔貴族は殺してはいないだろうな。」
「もちろんです。」
「リアは殺されていない。だから殺すな。」
「かしこまりました。」
ご主人様はほかの貴族に比べて寛大な心を持っている。すべてのものに慈悲を持ち、優しいまなざしを向けているのだ。
出会うものすべてが目に涙を浮かべるのは、きっとあふれ出るやさしさにふれたからに違いない。




