魔界編:ザヴァル家1
「戻ったぞ。」
『魔神化した人間』と戦闘があったことを報告しに、魔界へと帰ってきた。
「お帰りなさいませ、ガーナード様。」
この城のメイドが出迎える。我がザヴァル家の特徴としては、この城にいる兵士だけでなく、庭師やメイドに至るまでのすべての存在が戦闘可能ということだ。このメイドももちろん戦闘訓練を受けていることだろう。
「父はどこだ。」
「この時間ですので、自室におります。」
急いで戻ってきたので、時間を忘れていた。もうすっかり夜が明けているではないか。人間界から魔界へ移動するには魔界の門を通る必要がある。しかし魔貴族はある特殊なルートを通ることが可能なので、もっと早く二つの世界を行き来することが可能だ。といっても数日かかることには変わりはないので、移動は面倒くさい。
「ただいま戻りました。」
自室で何から仕事をしている父へ先日起こったことを伝える。
「人間が魔神化とは……きいたことがない。」
「取り逃がしてしまったので、おそらくこちらへ襲撃にくると思われます。」
「痛い目を合わされておいて、わざわざ魔界までやってくるか?」
「少なくとも、その人間を助けたメイドからはその熱意が感じられました。」
といっても魔界まで来るのに時間がかかるため、そうすぐにくることはできないだろうが。
「事態はだいたい分かった、とりあえず長旅だったろう。休め。」
「分かりました。」
そういって父の部屋を出て自室へ向かう。
「それではお体を綺麗にいたします。」
そういってメイドが濡れたタオルを持ってきて俺の体をふいていく。浄化魔法を使用しているので、汚くはないのだが気分的にタオルでふくほうがさっぱりする。
「それではお休みなさいませ。」
布団に横になり、目をつぶるとすぐに意識が途切れる。
--
「ガーナード様!ガーナード様!起きてください!」
突然のメイドの声に起こされる。
「どうした。」
「外に……人間がおります。」
窓の外を見てみると、三人の人間と一人の魔族がいた。
「……どういうことだ。」
その姿を見た屋敷中の魔物たちが慌てて城内を駆けまわっているのが分かる。きっとあの『魔神化した人間』とつながっているやつらに違いない。その理由は明確……メイド服を着ていたからだ。
「すぐに向かう。」
そういって窓から飛び出し、その四人の前へ姿を見せる。
「誰だ。」
「はじめまして。私はグルンレイドの領主、ジラルド・マーグレイブ・フォン・グルンレイドという。」
周囲には魔力障壁が張られており、本人の魔力密度を感知することはできない。が、所詮人間の貴族だ。驚くような魔力密度ではないだろう。
「何しに来た。」
「私のメイドをずいぶんとかわいがってくれたようだな。そのお礼にきた。」
太った人間の貴族が偉そうに話す。その周囲の魔力障壁は、横にいる子供から張ってもらっているようだ。
「そんな子供から守ってもらわなければ生きてもいられないようなやつに、何ができるんだ?」
そういった瞬間空気が張り詰める。
「やめろ、イザベラ。ただの世間話ではないか。」
「……ですが。」
横にいる黒髪のメイドがすごい形相でこちらをにらんでくる。こいつも魔界で生きていられるということは、少なくとも雑魚ではないということだな。
「とりあえずあの魔神化した人間について話が聞かせてもらう。とらえろ。」
そういってあとからやってきたメイドたちに命令をする。
「ここは私が。」
そういって動いたのは魔族の女だ。なぜ魔族が人間に肩入れしているのだろうか。しかし考えても仕方ない、四人いる敵の中で最も危険なのはこの魔族の女だろう。戦闘訓練を受けたメイドたちが次々に切られていく。
「俺が行く。メルトスピア」
そういって光のやりを飛ばす。魔貴族とただの魔族の格の違いを見せてやる。
「華流、剪定!」
ガギィンという音とともに、光のやりが消滅する。……やはりあいつと同じ、『華流』を使うのか。
「ご主人様、こいつは、こいつだけは私が相手をいたします。」
「よかろう。」
そのような会話が聞こえる。よほど俺と戦いたいらしい。
「いいぜ、望むところだ。お前ら人間は父と、我が弟に相手をしてもらうといい。数分でも持ちこたえたら誉めてやろう。」
メイドたちを飛び越えて二人がやってくる。
「兄さん、俺はどいつを殺せばいいんだ?」
「久しぶりの戦闘か、楽しませてくれ。」
父に関しては俺よりもはるかに強い、もはやあいつらが生きている確率はゼロだろう。
「それでは私がこちらの……。」
「待ってくださいイザベラ様、それは私の仕事です。」
隣にいる子供がそのようなことを言う。
「はぁ……分かりました。ではそちらはあなたが相手をしてください。」
おいおい、まさか子供が父の相手をする気か?黒髪のメイドは弟と戦闘するようだ。やはり俺の見立て通りあの人間の貴族は力がないらしい。おとなしく後ろで見ているだけだった。




