王国編:城外周辺5
「イザベラ」
心の底に響くような声が響き渡った。
「は、はい。」
イザベラ様が返事をし、にらみ合っていた二人はご主人様の方を向く。
「ヴァイオレット」
「はい!」
次に私の名前が呼ばれる。そしてご主人様は椅子から立ち上がり、城の門の方へと歩き出す。
「行くぞ」
私たちは瞬時に命令に従う。
「スカーレット、任せた。」
「かしこまりました。」
そういってスカーレット様は頭を下げる。この瞬間王国騎士団の団長はスカーレット様に決まった。
「みすみす行かせると思っているのか。」
「身の程を知りなさい。あなたにここにいる誰一人として止める力はない。」
そのような会話が繰り広げられている間に、私はご主人様に続いてゆっくりと歩いていく。
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本当によかった。ご主人様が言葉を発さなければ、本当に王国が崩壊していたかもしれない。私は王国騎士団の団長を前にしてそう思った。
「バルザ流・」
「華流・周断」
「がぁぁぁっ!」
ボトリと左腕が地面に落ちる。
「エクストラヒール」
その瞬間に私は腕を回復させる。その分厚い闘気も、間を縫って切ればなんてことはない。常に闘気の隙間を移動させていいるアナスタシアの方がよっぽど厄介だ。
「くそっ……。」
そういいながら、私の方を向く。
「私では、どうすることもできないのか。」
悔しそうな表情を見せる。……実力差が分かっていないわけではなかったのだ。分かったうえで、そうするしかなかったのだろう。王国騎士団の団長の立場、か。
「いま、この戦いから手を引けばあなたの安全を約束するわ。」
「断る。」
「でしょうね。」
己の体が朽ち果てるまで、どこまでも戦う。そんな雰囲気を感じた。
「バルザ流・土切り」
「華流・剪定」
さすがに闘気の量は多い。が、足りない。剣技も、闘気も、そして力も。
「がぁぁっ!」
そのまま地面にたたきつける。
「剣をおいてくれる気になったかしら?」
「そんな気は、ない。」
闘気により回復をしながらゆっくりと立ち上がる。
「その心意気は、嫌いじゃないわ。」
「バルザ流奥義・天切り!」
「華流・剪定」
「バルザ流奥義・星切り!」
「華流・剪定」
「バルザ……。」
「バルザ流・断頭」
彼の頭が落ちる。
「エクストラヒール・絶唱」
そして再び私はヒールを唱え、回復させる。彼は剣を持とうとするが、そのまま膝から崩れ落ちてしまう。
「バルザ流を、使えるのか」
「難しい流派じゃないわ。何回か見れば覚えられる。」
「そうか……。」
剣を握る手は力を失い、そのまま剣を地面に落としてしまう。
「私は、勝てないのか。」
「そうね。」
「このまま民は殺され、私も死んでいくのか?」
「それは……ないわね。」
「ではなぜ貴様らは!」
力強い声が響き渡った。常に冷静でいなければいけない、慌てた様子を見せてはいけない。堂々としているべき……。力とともにそんなものまで背負わされては、さすがに重すぎたのだろう。
「なぜ貴様らはこのようなことを……。」
待ちが破壊され、多くのものが傷を負った(実際は治療されているのだが)。形だけ見れば王国に攻め入る犯罪者だろう。
「何度もいうけれど、先にご主人様に無礼を働いたのは王国の方よ。」
国王にかけたご主人様の精神支配魔法が解かれたから、このようなことになってしまったのだ。だからそれは当然の報いと……まって。ご主人様の精神支配魔法が解かれる?
「……いつ、国王がグルンレイドを攻めると決めたのかわかるかしら?」
「貴様らに手紙が届いただろう。その日だ。」
騎士団の団長は訝しげにこちらを見る。
「国王は急に、そういったのかしら?」
「何が言いたい。」
王国魔法師団の団長はかなりの魔法の使い手だった。もしかしたら私のかけた精神支配の魔法くらいなら、解いてしまうかもしれない。しかし、それをかけたのは私ではなくご主人様、しかも『絶唱』だ。それが解かれることなどあり得るのだろうか。




