魔界編:魔物の町1
門を抜けるとそこは圧倒的な魔力密度で包まれたまがまがしい世界が広がっていた。自身の魔力密度が薄いものはすぐに魔力酔いを起こしてしまうだろう。
それ以前に瘴気も満ちているので、耐性がないものや防御手段のないものはすぐに倒れてしまうはずだ。俺は勇者の称号の効果により瘴気の完全耐性を持っているので問題はないが、やはり気分はすぐれない。
「ヴィオラ、大丈夫か?」
「ええ、問題ありません。」
アイラとディアナは俺と同じ勇者の称号を持っているので問題ないとして、このパーティの中で一番心配なのはヴィオラだ。今は問題なさそうな表情をしているが、常に魔法による防御を行っている状態だ。無限に続くわけではない。
「辛かったら、すぐにいえよ。」
「は、はい。」
いつもは強気のヴィオラだがたまにしおらしくなるのはなんでだ。調子狂うな……。
「マーク、手。」
「わ、私も!」
新しい場所にくるといつもはしゃぐ二人だが、今回はそうはいかないらしい。ちゃんと怖がっている二人を見るのはかなり新鮮である。が、それほどここは危険な場所だということを示している。
「ここからは別行動でいいな。危なくなったら呼ぶがいい。」
「お、おい!まってくれ!それホントに言ってるのか⁉お、おい……。」
俺の抵抗もむなしく、ボスはどこかへ行ってしまう。マジかよ……。こんな危険な場所に置いてけぼりとはいい趣味してるぜ……。
「あなたの役割はお伝えしたとおりです。連絡役にはヴィオラを使ってください。それではお気をつけて。」
そういってメイド長たちもボスについていく。はぁ……やるしかないのか。魔界の地図や魔界の通貨などは事前にメイド長から受け取ってある。ボスたちはゆっくりと例の魔貴族のもとへ直進し、俺たちは魔界の街を転々とし今の魔界の情報をボスに伝えるという予定だ。
「はぁ、ボスたちは七日くらいかけて魔貴族のところへ行くらしい、それまでにできる限り情報を集めるという仕事だ。」
「かしこまりました。それでは一番近くの町まで転移します。」
そういってヴィオラは俺の裾をつかむ。子供たちもヴィオラに触れる。その瞬間俺たちは消えた。
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ヴィオラの神眼は時空間を支配できる。よってこの程度の距離を瞬間的に飛ばすこともそれほど難しいことではないようだ。魔法とはまた違うので魔力消費はないらしい。
準備は万端、さっそく魔界の調査を始めようかと思ったが何やら視線を感じる。周囲からは魔物に見えるような魔法もかけているし何の問題もないと思うのだが……あぁ、こいつらのメイドの格好か。
「情報収集の前に、着替えたほうがよさそうだな。」
「着替え……ですか。」
そういえば常にメイドの格好をしているから、普通の服を着ているヴィオラは想像できない。この綺麗な金髪にだったらどんな服を着ても似合う……何を考えているんだ俺は!
「ま、まあ、このままだと目立つしな。」
魔物の町と聞くと、貧民街のような街並みを創造していたが、そんなことはなかった。しっかりとした建造物があり、ウルフやオークなどが商いを行っていた。
「すごいですね。会話をしております。」
一番驚くべきところはそこだ。俺たちが普段目にしている魔物は言葉をしゃべることもなければ、このようにコミュニティを形成するわけでもない。(一部の意思持ちの魔物は除く)しかしやはりメイドの格好は目立つようだ、じろじろと見てくるものも多い。メインストリートのようなところを少し歩いていると、服やのような場所があったのでとりあえず入ることにした。
「いらっしゃいませー」
獣人の女が声をかけてくる。人間とばれるかひやひやしたが、ばれている様子ではない。おどおどしていると逆に怪しまれるので、あくまで自然に会話を始める。
「遠くから来たもんでな。こんな格好なんだ。適当に服を見繕ってくれ。」
「はい、かしこまりましたー」
魔界の通貨は魔石である。主に魔石が保有している魔力密度が高いほど価値が上がる。それに加え、形や大きさなども価値に影響することがある。が、メイド長にもらった魔石がどれほど価値があるのかわからないのでかなりビビっている。これで足りなかったらどうしようか……。
「ではご予算の方を先に」
「お、おう。」
まずは手始めに一番小さい魔石を出して見せる。これで変な顔されたら間違えたふりをしよう。
「こ、これは!」
これを見た獣人の女は手をたたく。すると奥から数人の魔物たちがやってきた。ば、ばれたか?
「これほどまでの魔石は今まで見たことがございません……。メンバー一同誠心誠意見繕いさせていただきます。」
一斉に頭を下げた。……マジかよ。一番小さい奴だぞ?ま、まあ結果オーライだ。
「う、うむ。」
そういってとりあえず俺は座ることにした。俺以外の三人はそれぞれの店員に連れられ、店内をめぐっている。
待っている俺に次々に飲み物やお菓子が出てくる。至れり尽くせりだな……。
それとこの飲み物、飲んで大丈夫だろうか。いや飲まないと逆に怪しまれてしまう。ここは行くしかない!綺麗なグラスにつがれた水色の液体を飲む。
「おぉ、うまい。」
程よい甘さと酸味が絶妙だ。なんていう飲み物なのだろう。
「それはよかったです。」
といいながら扇のようなものであおいでくる。いや、そこまでしなくても大丈夫なんだが……。
しかし会話すればするほど、見た目は違うが人間のような理性があるように思えてくる。もしかすると魔界にいる魔物と、地上の魔物は何かが違うのかもしれない。




