王国編:南門3 剣聖シャルロッテ
リアちゃんのパーティがなかなか来ない……いったいどうしたのだろうか。でもあのパーティにはフィオナさんもいるのだ、致命傷を受けているなんてことはないだろう。
「オリビア、その先に誰かいるわ。」
アリサさんが私にそういう。周囲には騎士団や魔法士団の雑兵がたくさんいるのだが、言いたいのはそういうことではないだろう。きっと今までとは違う力の持った存在のことを言っているのだ。
「止まりなさい!」
そのような声とともに、あたりには凄まじい闘気が満ち溢れた。……無視しては通れないか。
「私は剣聖シャルロッテ、あなたたちを止めるものよ。」
私と同じくらいの女の子だった。この放出している闘気を見るとアナスタシアにも匹敵するほどのものかもしれない。しかし、私たち全員が足止めされるほどのものかと言われればそうではないだろう。
「私とレイリンは先に言ってるわ。クレアとオリビアは……任せるわ。」
きっと咄嗟に指示を思いつかなかったのだろう。アリサさんのそういうところも私は結構好きである。
「止めるって、言ってるでしょ!」
そう言って闘気をまとった剣が振り下ろされる。
「エアヴェール」
クレアがそう唱えて、アリサさんとレイリンを守る。
「くっ、待ちなさ……」
「華流・」
私の声を聞いた瞬間、彼女は瞬時にこちらの方を向く。察しの良さ……やはり、剣の実力もあるようだ。
「花かんざし」
「バルザ流・土切り」
本来であれば内部にダメージを与えるはずなのだが、闘気があまりにも分厚すぎて奥まで届かないようだ。しかし体制が崩れたようで、その間に二人は遠くに行ってしまう。
「クレア、あなたもアリサさんについて行って。」
「いいの?」
確かにクレアがいたら確実に剣聖の動きを封じることができるだろう。しかし、私の中の剣士の血が騒ぎ出す。この剣士に一対一で勝ちたい。私の表情を見ると、小さく頷いてアリサさんの方へと駆け出す。
「これ以上行かせるわけには!バルザ流…」
「ソウルロック・絶唱」
「えっ?」
クレアがそう唱えると剣聖の動きが闘気とともにぴたりと止まった。その驚いた表情をよそに、クレアはアリサさんの方へと駆け出していく。
「私はあっちに行かないから安心して。」
「みすみす逃すなんて……」
「追わせないから。」
私はそう言って魔力密度を最大まで上げる。すでにソウルロックは解けているようで、剣聖も闘気を増大させていく。私の魔力密度で周囲の人たちは次々に倒れ始めていた。
「シャルロッテ様、私たちはあちらを追います。」
その中でも倒れずにアリサさんたちを追おうとしているこの人たちは雑兵というわけではないだろう。メイド長が言っていた席という存在……?
「よろしくお願いします。私もすぐに向かいます。」
……その言い方だと私をすぐに片づけるみたいな意味になるんですけど。
「剣聖シャルロッテ……彼らは?」
「王国騎士団四席、二席の方々です。」
素直に答えてくれるとは思わなかった。まだ数分しか顔を合わせていないが、なんか私はこの子が嫌いではない気がする。
「質問ばかりで悪いけど、あの人たちと君とどっちが強い?」
「失礼ですが、私です。」
そういうと、剣を片手にすごいスピードで切り掛かってくる。しかしそれを私は剣で受け流す。
「っ!」
剣聖は驚いた表情をする。魔法士は剣を握らない、これが世界の常識だからだ。しかし私たちの常識は真逆である。
「私は魔法も使えるけど、剣士だよ。」
「……これは本気を出す必要がありそうですね。」
闘気がさらに溢れ出して、剣が輝き出す。
「華流・周……」
「バルザ流・雨切り」
「っ……!」
私の動きを超える速度だった。魔法障壁をものともせずに、私の体が切られた。魔力拡散魔法を唱えているようなそぶりはなかった。しかし確実に私の魔法障壁が弱まっているのを感じた。
「聖剣……。」
「剣聖が聖剣を持っているのは当たり前のことだと思いますが。」
聖力は魔力に比べて、殺生能力が弱いという特徴がある。その分詠唱速度や精度が高く、回復魔法が強力いというメリットはあるのだが、やはり魔力に比べて弱いという印象だ。ただそれは魔法が使えないもの相手に限ったことである。
「魔法は聖法には勝てませんよ。」
剣聖がそういう。聖は魔に強いが、逆はないのだ。
「……やって見なきゃわかんないでしょ。」
私は呼吸を整える。




