過去編:ルナ1
「ご主人様、何者かがグルンレイド領へ進入いたしました。」
ローズのみで行われる会議のなか、そう駆けつけてきたのはグルンレイドの見習いメイドの1人、セレーナだ。グルンレイドの土地精霊ということもあり、自身の管理下である土地ないであればかなり広い範囲に魔法障壁を天界することができるようだ。
「たった今、グルンレイドの屋敷の上空を彷徨き始めました。」
次に私はそう告げた。私は屋敷全体に魔法障壁を展開していて、敵を寄せ付けないようにしているのだ。
「ふむ。」
ご主人様はそうとだけ答える。普通であれば即座に連れてこいという命令が下るのだが、今回はそうではなかった。
「メアリー、それは危険な存在ですか?」
そばにいたイザベラ様が聞いてくる。確かに領民にとっては危険な存在なのだが、無差別に攻撃をしているわけでもない。
「見習いたちと同じくらいの強さかと思います。」
「そうですか。それでは脅威にはなりませんね。」
見習いたちも、特にステラとか私からしたら十分に強いと思うのだが、イザベラ様にとっては弱いのだろう。今となってはステラ以外にも、そう、カルメラなんかに本気を出されたら私は勝てないかもしれない。
「一瞬結界を解き、侵入させろ。」
「いいんですか?」
「やれ。」
ご主人様は私では考え付かないほど深いところまで常に考えている。私は素直に指示に従った。
「ローズたちは手を出すな。見習いに対処させろ。」
「かしこまりました。」
イザベラ様がそういうと、屋敷にいるすべてのメイドにメッセージを飛ばす。私達ローズは侵入者に対して手を出せないようだ。しかし見習いたちが命の危機に直面したときは回復させることは許可された。
「大丈夫でしょうか。」
「あの子たちなら大丈夫でしょう。」
確かに何度も言うが、見習いたちは普通に強い。いざとなったら回復魔法を唱えることが許されているので、大丈夫だろう。
「見守りましょう。」
「はい。」
そうして私は結界を解く。
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何よこの強力な結界は!私は何度も攻撃をしているが一向に壊れる気配がない。おそらくこの土地の精霊かなんかが気まぐれで張っている結界だろう。人間ごときが出せる強度ではない。
私の名前はルナ、誇り高き吸血族である。人間でも獣人でもどんな種族でもいいが、その血を飲むことで私は生きている。ということは全種族は私の食べ物ということだ。ということで今回はここら辺の人間たちの血を吸おうと飛んでいたが、ひときわおいしそうなにおいがしてやってきた場所がここである。
「さっさと開きなさい、うわっ!」
何度も攻撃をしていたら、唐突に結界が消えた。ふふっ、この土地の精霊も私の攻撃力には耐えられなかったようね。そう思いながら、私はこの屋敷の中庭らしきところに降り立つ。
「おーっほっほっほ!私の名前はルナ!最上位に君臨する種族、吸血族よ!」
あたりを見渡すと人間のメイドたちがいた。
「メアリーさんが言っていたあれね。」
「えぇそうよ。殺さずとらえろという命令よ。」
ぞろぞろとメイドたちが現れる。
「最初に血を吸われたい人間は誰?」
……おかしい、普通であれば叫びながら逃げていくのだが、ここにいる人間たちは驚きすらしていない。ははーん、怖すぎて声も出ないという感じね。
「仕方ないわね。あまりの恐ろしさに恐怖してしまうのもうなずけるわ。なぜなら私は最強の存在だから!」
人間とは脆弱な存在、私が負けるはずがない。
「とか言ってるけどどうする?」
「ちょっと痛い系の人だね。」
「こら、油断しないの。」
そんなのんきな声が聞こえてくる。ぐぬぬ……完全になめている。これだけ人間に馬鹿にされたのは初めてだ。
「よほど私の恐ろしさを感じたいようね。」
そういって私は魔力を解放させる。人間はこれだけで立てなくなるから救いようがない。が、誰一人として倒れることはなかった。
「カルメラ、誰が行く?私でもいいよ。」
「いいや、私が行くわ。ご主人様の屋敷に無断で侵入したこと、後悔させる必要があるわね。」
「カルメラが本気モード⁉みんな離れて!」
その掛け声とともに、カルメラと呼ばれている人間以外のメイドが距離をとっていく。
「まずはあなたの血をもらうわ!」
正直ここにいるメイドたちのすべてからおいしそうな香りがするので、誰でもよかった。
「イリス、この中庭を魔法障壁で囲って。屋敷に傷をつけないようにね。」
「了解しました。」
そういって私とカルメラという人間を包むように結界が張られる。屋敷の心配より、この人間の心配をしたほうがいいだろうに。
「手始めに……」
ヒユッ、攻撃を仕掛けようとした瞬間にそんな音が鳴った。
「かわされるとは思わなかったわ。」
カルメラがそのようなことを言う。私の首からは血が垂れていた。
「なっ!」
人間の出せるスピードとは思えないほどに早かった。しかも私の体に傷をつけることができるということは、この剣には魔力が込められているということだ。
「くっ、血術・凝固」
私は体内の血の一部を外に出して、爪に付着させる。さらに血を固めることによって鋭い爪へと進化する。
「血術・辻」
音速を超えるような速さでメイドに切りかかる。
「超硬化!」
ギィンという音が鳴り響く。私の爪は彼女を切り裂くことはなかった。しかし彼女のほほからもうっすらと血が流れ始める。
「死なないなんて驚いた。」
「私も血を流してしまうなんて、自分でも驚きだわ。」
どこまでもなめたような口を利く人間だ。お互いににらみ合う。その間に、徐々にほほについていた傷が修復されていく。
「回復魔法が使えるなんて、なかなかの人間ね。」
「そう?うれしいわ。あなたは……そうね、特にほめるところはないわね。」
「なにをっ!」
人間ごときがよくも何度も私をばかにして……。
「血術・斬撃」
今度は爪に魔力を加えながら切りかかる。
「華流・花かんざし」
爪と剣が触れ合う、が私の方が威力はある。メイドは屋敷の壁の方に吹っ飛んでいく。
「力はあるのね。」
しかし、魔法障壁の側面にうまく着地し、そのまま私の方に飛んでくる。
「華流・花かんざし」
私は再び爪で受けようとするが、……爪が壊れている!さっきの攻撃で内部から凝固した血液を破壊されていたようだ。私は魔法障壁を張った手で受け止める。
「がはっ!」
手で受け止めたがはずが、胸のあたりに痛みが広がってくる。魔法によって内部から破壊する剣技のようだ。口から血が出てくる。
「血術……」
「華流・空蝉」
前にいたはずが急に後ろから切られる。
「くっ……。」
背中から血が流れ始める。
「体を真っ二つにするつもりで切ったはずなのに、やっぱり固いのね。」
一体何なんだこの強さは!本当に人間なのか⁉これは私も本気を出さないとまずいかもしれない。
「次は切る。華流・」
仕方ない、少し私の本気を見せてやることにするか!
“覚醒”




