魔界編:始まり2
「どうして俺がリーダーなんだ⁉」
と大声で叫んでいるのは我が主、マーク様である。私が使えてすぐのころはおどおどしたりと、グルンレイドのかかわるものとしての振る舞いがなっていなかったが、最近は板についてきたようだ。といっても、このように取り乱している姿はたびたび見かける。まあ、そこもかわいくなくはないと思う。
「それはマーク様の実力を評価されたからだと思います。」
「ニヤニヤしながら言うなよ!」
あら、顔に出てました?なんだかんだマーク様をからかうのが癖になってしまったのかもしれない。
「もちろんリアがあんな目にあわされたんだ、魔界にはいきたかったぜ?けどリーダーはないだろ……。」
「いい加減諦めたらどうです?それともジラルド様に直談判してくればよろしいではありませんか。」
「……できないことわかっていってるよな。」
「ええ、まあ。」
はあ、と大きなため息をつくと気分転換にと外へ出ていかれた。
正直ご主人様は自身の実力を過小評価しすぎだ。今となっては勇者の称号の封印が解かれたので、自由に聖法を使うことができる。マーク様は本気を出せば、きっと華持ちでも勝つことはできないだろう。マリー・ローズは……わからないけど。除く私だって、この目があったとしても勝つことは難しいと思うほどだ。それほどまでに勇者の称号を完璧に使いこなす者は強い。
「マーク、どこ、ですか?」
同じく勇者の称号を持った少女、アイラが声をかけてくる。
「外よ。きっといつもの場所にいると思うわ。」
ご主人様は考え事をするとき、決まって訓練場の横の木の陰に座っている。
「ありがとう、ございます。」
てとてととアイラは外に出ていく。アイラももう一人の勇者の称号を持つディアナも十歳くらいの少女である。この年にしてはかなり聖法を使いこなしているが、まだまだご主人様の実力には遠い。
「ヴィオラさん!マークはどこですか!」
少ししたらディアナもそう聞いてくる。二人ともご主人様に対して言葉遣いはよくないが、とても慕っているようだ。ご主人様も、なんだかんだ言って面倒見がいい。子どもに好かれるタイプなのかもしれない。
「きっといつもの場所よ。私も行くから一緒に行きましょう?」
「はい!」
いつもの場所につくと、アイラを背中にのっけているご主人様がいた。
「あーっ、アイラばっかり遊んでずるい!」
それを見かけてディアナが飛び出していく。
「おい、遊んでんじゃねぇよ。こいつが勝手に背中によじ登って……おい、お前もやめろ!」
二人にもみくちゃにされて、なかなか大変そうである。が、いつもの光景なのでそっとしておく。ご主人様も来たばかりのころはすべてに驚いていたが、ずいぶんのこの環境に慣れてきたようだ。目の前でメイド見習いたちが火と水の魔法の多重操作の訓練を行っているが、当たり前かのようにそれらを見ている。
「おい、お前たちは魔界に行くのが怖くないのか?」
「全然?」
「怖く、ない。」
そんな会話が聞こえてくる。大人になっていくにつれて、新しいことをするのが怖くなるというのは分かる。その点子どもは好奇心旺盛で、何にでも恐れずに挑戦するのだからすごいと思う。
「なんでだ?」
「だって、マークも一緒でしょ?」
「危なくなったら、助けて、くれる。」
「お、お前ら……。」
上を向いて涙目になっているご主人様はちょっとかわいい。
「ご主人様、この子たちもそういっております。このパーティのリーダはあなたしかおりませんよ。」
「あぁ、そうだな。」
どうやら覚悟が決まったようだ。なんだかんだどんなに嫌な仕事も結局はやってしまうところが、ご主人様の優しいところだと思う。
「さあ、アイラ、ディアナ。明日の準備をするわよ。ご主人様もご用意を。……私が準備いたしましょうか?」
「い、いい。俺がやるから。」
まだ、自分の下着や、着替え姿をメイドに見られるのが恥ずかしいらしい。貴族であれば普通のことなのだが、どうしても受け入れられないようだ。
そうして明日の魔界への遠征の準備を始める。ご主人様と私がいる限り、このパーティに問題はない。しかし、ジラルド様のパーティはさすがに力を入れすぎではないかと思う。魔界が消し飛んでしまわないか不安でしかたない。




