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極悪辺境伯の華麗なるメイドRe  作者: かしわしろ
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過去編:リリィ1

私の名前はリリィ。今回私がやってきた領地をおさめているのは、今王国周辺で最も恐れられている極悪貴族、グルンレイド辺境伯である。私の目的はただ一つ、辺境伯を暗殺するため。そのために私はメイド見習いとしてグルンレイドの屋敷に侵入することになった。


「本日よりグルンレイドのメイドの素晴らしい作法を身につけるためにやってきました、リリィと申します。短い期間ですがよろしくお願いします。」

茶色の短い髪のメイドに頭を下げる。この人が私の指導役らしい。数多の潜入捜査をこなしてきた私にとってはメイドになりきるというのはとても容易いことだ。教わることも特にないだろうが、わからないふりをすることも重要だ。


「へー、ここに派遣されるなんて珍しいね。私はフィオナ・ローズ。よろしくね!」

すごくテンションの高い人だと思った。たたずまいも美しいと言えるようなものではなく、本当にメイドなのだろうかと疑いたくなる。が、仕事ができるかどうかは関係ない。もうすぐこの人は私の隠している短剣によって動かなくなってしまうのだから。彼女が後ろを向いた瞬間、私はスカートの中に隠した短剣を取り出し、背中につきさす。


ガギィン!

「……え?」


しかしそんな音とともに背中に突き刺さることなく短剣が止まった。


「……ん?」

そうしてメイドがゆっくりとこちらを振り向く。ま、まずい!もう私が敵だということがばれてしまっただろう。早く始末をしなければ……


「準備万端だね!」

「は……?」


「やっぱりグルンレイドのメイドとして、剣や短剣は常備しておくべきだよね!」

「そ、そうですね。ははは……」

ば、ばれてない?いや、それとも気づいていないふりをしている可能性もある。しかしここで下手な行動をして騒ぎになるほうがリスクがある。おとなしくしているべきだろう。


--


早速メイドとしての仕事が始まるようだ。まずは屋敷の中の掃除らしい。メイドの仕事としては基本中の基本。私が身につけていないはずがない。ということで完璧に仕事をこなす。


「おー!すごいじゃん、リリィちゃん。ここにきて学ぶことある?」

フィオナさんは普段の行動は気品のあるものとは言えなかったが、掃除に関しては魔法を使用して次々に綺麗にして言っていた。……ところでメイドって魔法使えるっけ?いや、グルンレイド辺境伯のことだ。金にものを言わせて魔法を使える者すらもメイドとして雇っているのだろう。なんと恐ろしい。


「ここのメイドたちはみんな魔法が使えるからねー。」

「なっ!」

どれほどの金をもっているのだ……。しかし、この中で私一人が魔法を使えないとなると、それこそかなり浮いてしまうのではないだろうか。ということで私も魔法を使用して掃除をすることにした。


「こ、こんな感じでしょうか?」

魔法で水を生み出し。床を伝わせ、風邪魔法で乾かしていく。暗殺者として魔法の使用は必須スキルだ。


「やっぱりすごいね!」

そう褒められると悪い気はしない。

……気が付くと全ての場所を綺麗に掃除してしまっていた。うっ……早くフィオナさんを動けないようにしないといけないのに。


--


「次は……あれ?リリィちゃん?トイレかな?」

私はほとんどの魔法を使えるが、その中でも最も得意なのが隠密魔法だ。音もなく空間に溶け込むことができる。訓練を積んだ魔法士ならまだしも、ちょっと魔法が使えるだけのメイドには破ることはできないだろう。そうして背後からまわって、今度は確実に仕留めるために首を狙う。……今だ!


「あ、いた。」

私が飛び出そうとした瞬間にこちらを向いた。な、なぜばれた!


「短剣をもってどうしたの?」

「あ、いや、これは……」

とっさのことで短剣をしまうことを忘れてしまっていた。これはまずい。


「やっぱりリリィちゃんって……」

くっ、ここまでか。私は強硬手段に出る準備をする。


「短剣派なんだね!」

「……は?」

「私も剣よりは短剣の方が好きなんだよ!だってちっちゃくてかわいいし。」

言ってることはちょっとよくわからなかったが、特に怪しまれている様子ではなかったようだ。自分でやっておいて何だが、ここのメイドの警戒能力は大丈夫か?それともこの人が特別に鈍感なだけなのだろうか。


「ははは、あーそうですね。私も実は短剣派なんですよ。」

今日から私は短剣派になったようだ。


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