魔界編:始まり1
「あなたたちに集まってもらったのはほかでもありません。先ほど、私達のメイド見習いが魔貴族によって瀕死状態にさせたらたという報告がありました。」
周囲がざわつく。無理もない、今まで多少けがをすることはあったとしても、瀕死状態までに陥るメイドがいなかったのだ。
「メイド長、誰が被害にあったのですか?」
華持ちのメイドであるフィオナがそういう。
「リアです。」
ハーヴェストが険しい顔をする。事前に彼女には伝えておいたはずだが、リアとは姉妹のように仲が良かったので、すごく心配なのだろう。
「イリスが治癒をいたしましたので、命に別状はありません。後遺症もないようです。」
いったい誰が……。というような疑問がところどころから出てくる。
「それは私から。」
カルメラが手を挙げる。カルメラは見習いたちの教育係であり、今回の最終試験もつきっきりで観測していた。
「リアは華持ち昇格の最終試験を受けている最中に、魔貴族に強襲されました。」
部屋の空気が張り詰める。魔貴族というのは、魔界の中で七人しかいない魔族の中でも特に強い力を持つ存在だ。まだ見習いのメイドだというのに、そんな相手と対峙して生きているというのは実力でいえばとっくに華持ちの域に達しているのではないだろうか。
「最終試験の際の護衛任務は完遂することができましたが、リア自身の被害はかなり大きいです。しかし、先ほども説明がありましたが命に別状はありません。だからそんな怖い顔しないでハーヴェスト」
そういってにらんでいるハーヴェストの方を見る。
「カルメラ、なぜリアが重傷をおう前に助けに行かなかった?」
しかしハーヴェストはカルメラにそう問いかける。
「基本的に最終試験には手出し無用なはずよ?」
「だからといって!」
バン!と机が叩かれる。
「……すまない。」
すぐに自分が冷静ではないことを悟ったのか頭を下げる。
「……いいえ。確かに私ももう少し早く駆けつけるべきだったわ。」
「ふむ。」
カルメラとハーヴェストの会話の間に、からだの奥底に響き渡るような声が聞こえた。その瞬間、静かだったはずの部屋にさらなる静寂が訪れる。我が主人の発言を邪魔するものはここには誰一人として存在しない。
「不快だ。お前もそう思うだろ?ハーヴェスト。」
「はい。」
ハーヴェストの表情をみればそれが心の底から言っているのが分かる。
「これにはきっちりと、お礼をしなければいけないようだな。」
ここにいる誰もがそう思っていた。私達の仲間を傷つけられて、穏やかな心境でいられるはずがない。
「私は明日、魔界に行く。イザベラ。数人のメイドを用意しろ。」
「かしこまりました。」
そういってご主人様はこの部屋を出ていく。相変わらず即断即決である。すると、緊張の糸が切れたのか、メイドたちがざわつき始める。
「私を、連れて行ってください。」
ハーヴェストがそういう。まあそういわれなくても満場一致であなたは連れていくことになったと思うけれど。
「分かりました。」
おそらくすべてのメイドたちが魔界に行きたいと思っているだろうが、ご主人様はそんなに大人数を必要としていないと思われる。多くて8人程度だろう。(主にパーティを組むときは4の倍数人で組まれることが多い。)
「今回は2パーティで向かうこととします。次に名前を呼ばれたものは明日の魔界出発に備えて準備してください。ほかのものは解散です。お疲れさまでした。」
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パーティ1(○がリーダー)
○ジラルド・マーグレイブ・フォン・グルンレイド
イザベラ・マリー・ローズ
メアリー・マリー・ローズ
ハーヴェスト・ローズ
パーティ2
○マーク・アーサー
ヴィオラ・ローズ
アイラ
ディアナ
今回の魔界遠征はこのようなパーティに決めた。パーティ一はご主人様の安全を第一に考え、私ともう一人「マリー・ローズ」を加える。魔界には悪い魔力、すなわち瘴気が満ち溢れているため、それに備える必要がある。メアリーの魔力密度はグルンレイドのメイドの中でトップクラスであるため、きっと魔界でも問題ないはずだ。ハーヴェストは魔族なので、瘴気に関しては問題ない。
もう一つのパーティについては、ご主人様の指示だ。おもに偵察を目的としている。魔界という未知の領域を何の情報もなしに進んでいくのは得策とは言えないと判断したのだろう。勇者の称号を持っているマークをリーダーとし、私たちが行く先を調べてきてもらう。アイラとディアナは見習いメイドだが、勇者の称号を持っているので、現在はマークのもとで修業をしている。勇者の称号持ちは完全瘴気耐性があるので、魔界にいても問題はない。
ヴィオラに関しては瘴気の心配は多少残るが、彼女は「ローズ」である。きっとうまくやってくれるだろう。現在ヴィオラはマークを主人として仕えているのでこの編成にした。




